判例紹介
その代表取締役個人も責任を負うか?(名誉毀損事件)
事案は、週刊誌に掲載された、もと横綱夫婦に関する記事が名誉毀損に該当するというものです。名誉毀損該当性の判断手法それ自体は、それほど珍しいものではありませんが、出版社の社長にも責任を認めたという点に特徴があります(但し、控訴されています)。
普通、このような場合、会社の責任が問われます。法律上は、取締役がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があった場合、取締役も責任を負うことになっています(会社法429条)が、私の知る限り、名誉毀損事案で、取締役の第三者責任が問われる事案は、それほど多くはありません。
それが何故なのかは、紙幅の関係もあり、ここで詳しく述べることはできませんが、何が取締役の任務であるかを特定することが困難であったからとご理解下さい。
この点上記判決は、「出版を業とする企業は、出版物による名誉毀損等の権利侵害行為を可及的に防止する効果のある仕組、体制を作っておくべきものであり、…代表取締役が…上記仕組、体制を構築すべき任務を負う」と判断し、その仕組、体制についても、具体的内容を細かく示しています。そして、当該会社にはそういう体制が整えられておらず、少なくとも重過失によりその任務を懈怠したと言えるとして、社長の責任を認めたのです。編集は編集長の任務で、取締役は人事や経営が任務であるという役割分担論の主張に対し、自らが一々紙面をチェックできないと言うなら、チェックできる仕組・体制を作ることが取締役(社長)の任務であるというわけです。
この判断が、企業におけるコンプライアンス体制の構築・整備を重要視する観点からの判断であることは疑えないと思われます。従前の手法から見ればある意味で画期的な面があり、今後この種の判断手法は、範囲、程度、内容につき、なお詳細な検討が必要であるにしても、流れとしては、一般化していくものと予測できます。
「コンプライアンス体制の構築・整備は取締役の任務である」という考え方が、「取締役の第三者責任」と結びつくことにより、企業のコンプライアンス体制の構築・整備を促進する方向に働いてくれればと思います。
判例時報2033号3頁
『元横綱夫妻に関する週刊誌の記事が名誉毀損に当たる場合において、出版社等の不法行為とともに、出版社の代表取締役の旧商法二六六条ノ三所定の任務懈怠責任が認められた事例』(東京高裁平成20年12月25日判決)
