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判例紹介

【事例11】
遺言者が自分の名前を記載していなかった場合、無効になるか。
【事案の概要】

 これは、甲野太郎さん(仮名)という方が亡くなり、その相続人の一人であるAさんが、甲野太郎さんの遺された公正証書遺言が無効であると主張して訴えを提起した事件です。どういう理由で無効を主張したかといいますと、遺言の最後に書かれている甲野太郎さんの署名が、どうも「甲野一・」としか読めない、だから民法969条4号の署名の要件を満たさない、というわけなんです。

【裁判所の判断】

 この主張に対し、裁判所は、次のように述べ、Aさんの主張を退けました。「遺言者が自署する氏名としては、戸籍上の氏名と同一であることを要せず、通称、雅号、ペンネーム、芸名、屋号などであっても、それによって遺言者本人の署名であることが明らかになる記載であれば足りると解される。」
 これは、例えば、イチロー選手が、「鈴木一朗」ではなく、「イチロー」と署名したとしても、署名の要件を満たしている、ということです。
 本件では、甲野太郎さんは、達筆すぎたのか、うまく書けなかったのか、理由は明らかではありませんが、いずれにしても署名が判読できなかった、それでも、最初の一文字を「甲」と読むことが可能であって、全体として氏名の記載であることが明らかであり、署名の現場に立ち会った公証人や弁護士も遺言者の署名であることに疑問を感じなかったという理由で署名の要件を満たすと認めました。通称やペンネームとも読みとれない字の並びを署名と認めたものであり、署名の要件をかなり緩やかに解した判断です。

【コメント】

 もっとも、注意しなければならない点もあります。まず、氏名ではなく記号を用いた表示であったり、氏名かどうかすら判読できないような記載では、署名と認められません。また、本判決は、公証人が遺言者の本人確認をした上で作成するという公正証書遺言の性質に配慮して、上のような判断をしています。ですから、仮に本件の遺言が公正証書ではなく、自筆証書遺言だったとしたら、どのような判断になったかは分かりません。

【参考】

判例時報2060号77頁
『公正証書遺言において遺言者が自己の名前を記載しなかったとしても民法969条4号の定める遺言者の署名の要件を満たしているとされた事例』(大阪高裁平成21年6月9日判決)

2010年4月8日 弁護士 山口遼子

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