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判例紹介

【事例12】
債権者はいつまで抵当権の設定登記を猶予できるか(対抗要件否認)?
【事案の概要】

 九州のある会社は小売業を行っていました。同社は、資金繰りに窮していました。そこで、会社の再建のために金融機関から融資を受けました。この際、金融機関は抵当権を設定する内容の契約を締結しました。しかし、この金融機関は、融資実行に際して、抵当権の設定登記をしていませんでした。
 ところが、この会社が融資の第1回返済期日から、支払を滞りました。そこで、この金融機関はこのままでは貸し倒れになるかもしれないとして、抵当権を登記しました。
 直後、この会社は会社更生手続開始決定を受けました。
 その更生管財人は裁判所に、この登記手続行為が支払停止後の対抗要件充足行為に当たるとして、この銀行を相手どり登記抹消を求める訴えを提起しました(会社更生法88条)。
裁判所は、更生管財人の訴えを認容しました。すなわち、初めからこの銀行には抵当権がなかったことになり、銀行は被担保債権部分について、別除権者としての地位を失い、本被担保債権について一般債権者になり下がってしまいました。この場合、銀行は更生手続の原則に従い、債権額に従い按分で配当を受けることになります。

【問題点】

 資金繰りの悪化した企業に対し、銀行を始めとする金融機関あるいは利害関係を有している取引先が当該企業に対し、その再生を期して、融資を行うことは良くあることです。
 この際、融資による債権を担保するために、債務者の土地等に担保権を設定・登記するのが一般です(抵当権は登記しなければ他の債権者に対して優先権を主張できません。)。
一方で、企業の取引先がその信用状態を見るために、その所有土地の登記簿を閲覧することもよくあります。既存または新規の債務者の取引相手が債務者に多額の負債があることを知り、債務者が取引を忌避されたのでは、返済の元となるキャッシュフローが足りなくなり、債権者は結局貸し倒れになってしまいかねません。
そこで、債権者と債務者の協議で、ぎりぎりまで登記をしないことがあります。
 しかし、そのタイミングが遅すぎると、後に、本件の場合なら更生管財人から登記の効力を否定されかねません。管財人の選任の時点で大方債務者が支払不能にあることは裁判所に認められています。
確かに、債権者は債務者が当時支払停止、支払不能になかったこと、債権者が債務者の支払停止を知っていなかったことを主張できます。
 しかし、債権者が債務者に対して、登記申請手続に協力させた場合、裁判所に提出された証拠から、支払を拒絶した債務者に対し督促を繰り返すほど、接触が多いほど、関与が強いほど、債権者が支払停止を知らなかったとして否認を免れることが難しくなります。方や、自己破産等申立は密行され、かつ、ごく短期間のうちになされてしまうので、ますますタイミングは難しくなります。

【参考】

判例時報2062号92頁
『担保権変換契約に基づき根質権に変更前の抵当権につき会社更生法88条所定の対抗要件充足行為の否認が認められる場合であったとして当該変更後の根質権を有しないとされた事例』(大阪地裁平成21年(ワ)2253号、平成21年4月16日判決、なお控訴中。)

2010年4月12日 弁護士 安生誠

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