判例紹介
妻の夫に対する財産分与としてマンションに賃借権設定できるか?
子連れの中年夫婦の離婚訴訟です。妻が夫に対して、(1)不貞行為をし、正当な理由もなく別居して、妻を遺棄したとして、離婚と慰謝料の請求を行い、(2)長女の親権者の指定及び養育費の支払い、(3)財産分与と年金分割を申立てました。ここまではよくある離婚訴訟の請求項目です。本件では、これに加えて、(4)マンションの夫所有部分について、妻が賃借権を有することの確認の請求もしました。本件は、賃借権の確認の請求とこれに対する裁判所の応答に特徴があり、離婚後の後始末をどうするかの点で非常に参考になる事案です。そこで、(4)の点に着目して、裁判所の判断を紹介することにしましょう。
裁判所は、夫の妻に対する賃借権の存在を認めませんでした。
ところが、妻と長女が現に当該マンションに住んでいることの利益を考慮し、夫の妻に対する賃借権を設定しました(扶養的財産分与)。
賃貸借契約と言えば、気になるのが、お家賃。裁判所は、本裁判に先立つ婚姻費用分担審判において、別居中、夫が妻に支払うべき婚姻費用から、本件マンションの家賃相当分を控除するように強く主張し、これを元に審判では、控除すべき家賃相当額が決められました。これが本裁判で定めたお家賃の額という訳です。次に気になるのが、賃貸借期間です。賃貸借期間は、順調にいけば長女が高校を卒業する時期までとしました。
通常の民事裁判では、当事者の私法上の処分権限を尊重し、求める判決主文の範囲内でしか判決をできません。つまり、裁判所からみて、審理の途中で、事実関係から他の請求をできることが認められても、原告がそれだけしか求めていない以上、これを尊重し、その範囲内で判決を下すということです。
しかし、離婚訴訟、厳密には、離婚訴訟に伴い提起される財産分与の申立については、この原則が当てはまりません。その鍵は、民法768条3項は、「…一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。」にあります。
本件では、夫が本件マンションを退去し、相当期間が過ぎていること、現に妻と長女がマンションに住んでいること、妻は今後とも長女を養育しなければならないこと、長女の年齢などを考慮し、妻の求める判決の趣旨に沿って、このような判決をしたものと思われます。
離婚後も、夫と妻の共有関係を維持させたまま、住宅ローンの名義人は夫なので、夫に住宅ローンを支払わせ、その一部を妻に負担させ、長女と妻の利益(居住の利益)と夫の利益(所有権)のバランスを図ったものとして、実務上大変参考になる判決です。
もっとも、夫がローンの支払いを止めた場合の住居の確保、賃貸借契約は借地借家法により貸主側によほどの強い正当事由がなければ判決で定めた賃貸借期間経過後とはいえ、契約を解除(更新拒絶)できないこと、判決の賃貸借期間経過後に妻と長女が退去したとして、共有財産分割の問題が残ります。つまり、離婚後も夫婦財産の清算が完了していないということになります。まさに、子はかすがいということでしょうか。
実際、離婚時に担保割れした住宅が財産分与の俎上に上がることがしばしばあります。離婚時の解決に際しては、全か無かと決めつけてかからず、柔軟な姿勢で臨み、本判決のように間を取った解決も可能なことも念頭に置くべきでしょう。
判例時報2069号50頁
『夫から妻に対する離婚等請求事件において夫婦共有財産であるマンションの夫持分につき清算的財産分与として夫に取得させた上で扶養的財産分与として妻に対し賃貸することを命ずるなどされた事例』(名古屋高裁平成19年(ネ)892号・同20(ネ)154号、平成21年5月28日民1部判決(確定))
