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判例紹介

【事例14】
旧民法時代に養子縁組をしていたところ、離縁の手続もしていないのに養親子関係は消滅するのか?
【事案の概要】

 本件は、遺留分減殺請求訴訟です。亡母君が、二人の子供のうち、一方にのみ多くの遺産を相続させる旨の遺言をしました。二人の子供のうち、あまり遺産をもらえなかったのは養子(X)、たくさんもらえたのは後に生まれた実子(Y)でした。そこで、XはYに対し、侵害された遺留分に相当する金銭の支払いを求めて訴えを提起したのです。
 たしかに、一見するとよくある相続関連の訴訟です。
 しかし、本件では、イラストにあるように、亡母はもともと甲家に養子として入り、甲家を家督相続しました。その後亡母は、Xと養子縁組して隠居し、甲家の家督をXに相続させました。そして、亡母は、乙家に嫁入りして甲家を去ったのです。その後でYを産みました。
 ここで、争点になったのが、旧民法の規定の解釈です。すなわち、「養親カ養家ヲ去リタルトキハ其者・・ト養子トノ親族関係ハ之ニ因リテ止ム」(旧民法730条2項)の解釈です。
 さて、そもそも現代の相続紛争を解決するために、改正された旧民法の規定が適用されるのでしょうか。
 これが適用されるとして、いったい、どのように解釈されるべきでしょうか。

【最高裁の判断】

 XのYに対する遺留分減殺請求を認めませんでした。
 その核心は、旧民法下で、亡母が甲家を去り、これに伴い、亡母とXとの間の養親子関係が切れたときは、この二人の親子関係はなくなるという解釈です(親ガメと子ガメの関係)。
 親子関係が無くなった以上、相続権は発生しないはずということです。

【コメント】

 まず、法律は改正(廃止)されたから、適用されない、とは必ずしも言えません。法律には時間的適用範囲の問題があります。改正(廃止)された法律は今のことに通用力がなくても、かつてその法律に準拠して行為がなされた場合、裁判上の基準とされるのです。つまり、紛争の内容によっては、昔の法律を蘇えらせるということもあるのです。
 ついで、核心部分に移ります。第1、2審とも、亡母とXの親子関係の存在は認めていました。結論は異なりました。第1審では、遺留分減殺請求権を認めず、2審では、これを別の理由(権利濫用)で排除していました。さらに、最高裁でひっくり返った訳です。条文解釈としては、最高裁の判決が素直だと思います。
 ただ、おそらくXの戸籍には亡母の婚姻後も、養母としての記載が存在し続けていたのでしょうね。養子の身分の安定という考え方からすると、養母の結婚という事情だけからして養子の身分を奪ってしまう制度には問題があり、1審2審が亡母・X間の養親子関係があることを前提とする判断をしていたこともわかるような気がします。
 1審、2審で、権利濫用につき判断が分かれたのは、Xが亡母との養子縁組を機縁として亡母の隠居により甲家を家督相続していたことを、亡母自身の相続についてどう評価するかの問題なのでしょう。
 旧民法の親族関係は、戸主権を中心とする「家」制度を採用していたので、同一の家にあるかどうかによって身分関係が種々の影響を受けることを認めていました。本件のような「養親カ養家ヲ去リタルトキ」というのは、講学上「去家」と言われていたようです。「去家」なんて、現代の感覚からすると「ええっ」と思ってしまいそうです。
 しかし、たまに法律相談の現場でも、結婚して戸籍が変わったから実家の相続権はないのではないかというようなお尋ねを受けることがあります。高齢世代の方々の中には、意識の上での家制度は残っていることがあると思っていました。しかし、現実にも旧民法時代に養子縁組した方々には家制度の問題が残っているのです。

【参考】

判例時報2068号37頁
『養親自身が婚姻又は養子縁組により家に入った者である場合にその養親が家を去ったときと民法(昭和22年法律第222号による改正前のもの)730条2項』(最高裁平成21年12月4日判決)

2010年6月28日 弁護士 吉田実

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