判例紹介
えっ!? 後遺症について、加害者から賠償してもらう場合と、国が保障してくれる場合とでは、もらえる金額に違いがあるの?
交通事故に遭われた被害者の方に後遺症
が残り、将来の逸失利益が損害と認められときで、その被害者に事故によって公的年金が支給されるようになった場合、将来の逸失利益の賠償はどうなるでしょうか。
※ 後遺症とは、負傷した方が治療を継続してもそれ以上には治らない状態になったとき、「症状が固定した」といい、人体の機能として失われた状態を後遺症といいます。たとえば片足切断など、治療しても元通りにはならない状態です。このような場合は、後遺症によって失われた労働能力に応じて、将来において後遺症が無ければ働いて得られたであろう利益を逸失利益という損害として加害者は賠償しなければなりません。
被害者が加害者に請求する場合には、将来の公的給付の金額は差し引かれません。
しかし、ひき逃げされて加害者がよくわからない場合など加害者の代わりに国に対して補償を求める場合(政府保障事業
の場合)には、将来分も差し引かれてしまいます。
※ 政府保障事業とは、ひき逃げなどによって加害車両の保有者が不明や、加害者が強制保険に加入していない無保険の場合は、国が被害者に損害のてん補を行います(自賠法72条1項)。この場合の被害者が事故に起因して公的年金などを受給するようになった場合には、その給付に相当する金額の限度において、損害のてん補をしない規定があります(自賠法73条1項)。
(1) 被害者が加害者に請求する場合
平成5年の最高裁判所大法廷判決は、被害者が死亡し、相続人が遺族年金を受給できるようになった場合、年金の受給額が確定した範囲でのみ差し引かれ、まだ具体的に給付額が決まっていない将来の年金については差し引かれないとしました。
(2) 被害者が国に補償を求める場合
平成21年12月17日の最高裁判所小法廷判決(以下、「本判決」といいます。)は、政府保障事業について、将来の給付分についても差し引かれるとしました。
自賠法73条1項は、他の法令に基づいて損害のてん補を受けるときはその分を補償の額から控除すると定めています。
この問題については、損益相殺
の解釈かとも思えます。
※ 損益相殺とは、被害者がその交通事故を原因としてする第三者から給付を受けることができるときに、公平の観点から加害者が賠償責任を負うべき金額から、その給付される金額の全部または一部を差し引かれる場合をいいます。例えば、通勤途上で交通事故に遭い、療養補償給付、休業補償給付を受けたとします。この場合、受け取った保険金相当分の損害については、加害者に損害賠償請求することはできません。焼け太りまでは認めませんということです。
しかし、本判決では、被害者が加害者に損害賠償請求権と有することを前提に、政府補償事業による損害のてん補と他法令給付による損害のてん補との調整の問題であり、損益相殺の問題ではないといい切りました(なお、上記(1)の判例では損益相殺的な調整の問題としました)。
その上で、政府保障事業の補充性を根拠に将来給付分の控除を認めました。
すなわち、自賠法による損害のてん補は、強制保険の制度によっても救済することができない交通事故の被害者に対し、社会保障政策上の見地から救済を与えることを目的とする。だから、被害者が他の法令によって給付を受けられる場合はその限度においててん補を行わない、ということです。
また、法令に二重支給の調整規定も無い、ということも理由にしています。
なお、この最高裁の多数意見に対し、宮川裁判官は平成5年判決と同じく、被害者救済の観点から将来の給付分は差し引くべきではないとの反対意見を述べられておられます。
判例時報2066号49頁
『被害者が自賠法73条1項所定の他法令給付に当たる年金の受給権を有する場合に、政府が同法72条1項によりてん補すべき損害額を算定するに当たって控除すべき年金の額』(最高裁平成21年12月17日判決)
