判例紹介
間接事実からの事実認定 ―DNA鑑定なしで親子関係が否定された例―
本件は、A(亡父)が交通事故で死亡しました。これにより、Aの相続人が損害賠償請求権を加害者に対して取得することになりました。Aは母(B)と既に離婚していたので、戸籍に記載されている子(Y)が相続人になりそうです。ところが、Aの兄弟(X)は、Yは実はAの子ではない(から相続人にはならない)として、親子関係不存在の確認の訴えを提起しました。因みに、Yは未成年者なのでBが法定代理人として訴訟を追行しました。
一昔前までは、ポピュラーではなかったのですが、最近では、親子関係の鑑定には、DNA鑑定を行うのが一般です。料金も10万円前後となり、訴える側にとって、それほど大きな負担ではなくなってきています。検査方法にもよりますが、親子関係がある場合、1000万分の1程度の誤差で鑑定結果が出るようです。
しかし、現行民事訴訟法の下では、親子鑑定を受けるべき当事者が拒んだ場合(本件では、未成年者なので法定代理人母であるB)、これを強制する方法はありません。親子関係の存在に自信が無く、鑑定を受けてしまえば、親子関係が無いことがはっきりしてしまう、そうなれば相続権が無くなってしまう、という動機でDNA鑑定を拒むことは容易に予想できます。さらに言えば、DNA鑑定を拒否すること自体、事実上親子関係の存在がないことを認めているのではないかと思ってしまいそうですね。
ところが、民事訴訟での事実認定は証拠に基づかなければならず、直感だけに頼ってはなりません。親子関係は、親族関係、相続だけでなく、国籍の取得にも影響を及ぼす社会生活上のインフラともいえる法律関係です。
しかし、他方で、DNA鑑定を拒否することで、法律関係を主張した人がその原因事実を証明しなければならないという原則を利用し、相手の立証を妨げ、それがまかり通るというのも理不尽です。
そこで、DNA鑑定結果など直接証拠を提出できない場合、その他の間接事実で当該原因事実を証明することも認めています。ある事実を立証する上で間接事実はこれとあれなどと予め決まっているものではありません。ケース毎に立証命題と証拠(人証、物証、書証)から得られる事実を対比・分析・総合し、もっとも説得的な論証を発見することが、訴訟代理活動の醍醐味です。弁護士の腕の見せ所でしょうか。
本件では、(1)裁判所外でBの反対の自白があったこと、(2)DNA鑑定の拒絶があったこと、(3)日本語の日常生活もままならない外国人であるBが初入国するなり16歳年上のAと婚姻したこと、(4)そのときAは生活保護を受給していたこと、(5)ABがYの出生直前に協議離婚したことなどを摘示しています。
判決を読むに当たり、そのratio decidendiの部分に注意を払うことは勿論、時には、裁判官がどのような過程で事実を認定したかに注目するのも興味深いものです。なお、わかりやすくするため事案を簡略化しております。
判例時報2076号48頁
『日本国籍の亡父と外国籍の母との間の嫡出子として戸籍上記載されている子について、間接事実の積み重ねによって、嫡出の推定が排除される場合にあたるとした上、父子関係の不存在確認請求が認められた事例』(東京高裁平成22年1月20日判決)
