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判例紹介

【事例32】
 アメリカのリミテッド・パートナーシップ(Limited Partnership)の出資者は、日本において、パススルーの恩恵を受けることができるか

 昨年は、8月にアメリカ国債、10月にギリシャやイタリアなどの国債の償還のデフォルト問題がクローズアップされました(ソブリンリスク)。後者が引き金となり、市場は国債を多く保有している金融機関の資本の劣化を危惧し、その株価は暴落しました。金融機関の資金に余裕が無くなると、次は、貸し渋り貸しはがしが引き起こされるのではないかとの連想を招き、他の会社の株価も下がりました。この負の連鎖は、まるでアメーバが成長するように世界の隅々まで蔓延しているようです。

 世界経済は、ますますボーダーレス化し、相互依存が強まってきています。経済活動を支えるマネーについても、国境を越え移動が激しくなっています。国境間を往来するマネーは、しばしば小口化され、証券会社等を介し、社会一般の投資家(消費者)から、投資信託などの名目で集められます。集められたマネーは、運用会社が、企業活動のために投資します。得られた利益は、関係者の手数料など経費が控除された後、投資者のもとに配当がなされます。

【本件事案の概要】

 その中で、税務トラブルが起きました。原告は、投資家です。コメルツ証券が売り出した金融商品にかかわるトラブルです。原告らが、出資者になり、デラウエア州で設立されたリミテッド・パートナーシップ(Limited Partnership)(以下、「本LPS」といいます。)の有限責任社員になります。本LPSは、建物を取得し、賃貸することで収益を得ます。出資者は、その利益から配当(以下、「本所得」といいます。)を受けることになります。
 コメルツ証券は、商品の説明に当たって、税金のことも加味して、これだけの予定利益がある旨試算しました。すなわち、建物を取得し、7年間の賃貸後同一価格で売却するという予定の下、この期間に建物の減価償却費が発生し、これが不動産所得の損失となり、他の所得と損益通算することによって、節税効果があるということです(但し、損益通算の対象となる所得があり、かつ、還付金以上の税額を支払うべき所得があることが前提です。)。
 原告は、上記の損益通算に基づいて、所轄の税務署に対し、所得税の申告を行いまいした。
 ところが、税務署は、原告に対し、本所得は不動産所得に該当せず、減価償却費等の損益通算は許されないとして、更正処分をしました。
 そこで、原告は、国(被告)に対し、その課税処分の取り消しを求めて、裁判所に訴えを提起しました。

【争点】

 争点は、本LPSは日本の租税法上の「法人」に該当するかでした。本LPSが「法人」として扱われてしまえば、本LPSの本建物賃貸事業から生じた損益は、本LPS自身に直接帰属し、原告の不動産所得には該当しないことになり、損益通算ができなくなるからです。

 確かに、本LPSは、アメリカ合衆国連邦法に従えば、その組織自体は納税義務者とならず、組織の構成員が納税義務者となっていたのです。その理屈が日本の所得税法でも通れば、本LPSの不動産賃貸事業による損益について、日本の組合と同様に構成員課税(パススルー課税)となり、減価償却等による損益通算をして所得税の申告をすれば足りることになったのです。

【裁判所の判断】

 裁判所は、本LPSは日本の租税法上の「法人」に該当するとしました。

 その根拠は以下の通りです。
 まず、外国の事業体が日本の租税法上の「法人」に該当するかの判断基準を以下のように示しました。
 (1)その構成員の個人財産とは区別された独自の財産を有すること
 (2)その事業体の名において契約等の法律行為を行い、権利義務の主体となること
 (3)その事業体の名において訴訟当事者となり得ること

 次いで、(1)~(3)の能力等を有しているかの判断に当たっては、当該事業体の準拠法の規定基礎として判断すべきであるとしました。
 その上で、裁判所は、本LPSは上記(1)~(3)の要件を満たすと認定しました。
法の適用に関する通則法

【コメント】

 ある事業体についてある国ではパススルー課税が認められるとしても、そのまま日本に平行移動できず、我が国租税法の独自の立場で判断されるということが重要な出発点でした。
 なお、本判決は控訴されています。パススルー課税が認められるか否かで、投資者が納税すべき金額が大きく変わってきますので、上級審での判断が注目されます。仮に、本判決の判断が維持されたとして、この金融商品にパススルー課税が適用されることを謳い、売り出したコメルツ証券の責任(金融商品の販売等に関する法律等)も問題になります。
 (なお、事案をわかりやすくするため、事実関係を簡略化していますので、正確な内容については、下記の判決をご覧ください。)

【参考】

判例時報2126号28頁
『アメリカ合衆国デラウエア州法に基づくリミテッド・パートナーシップ(LPS)が、我が国の租税法上の法人に該当するとされた事例』(大阪地裁平成22年12月17日判決)

2012年1月23日 弁護士 安生 誠