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企業支援エトセトラ

令和3年3月9日

31.キャッシュレス決済のトラブルのリスクと規制④

引き続き、取引過程に孕むトラブルのリスクとこれに対する法令の規制について、見ていきたいと思います。

分析の視点は、カード会社、カード購入者等(購入者等)、加盟店(販売者)等、色々考えられますが、就中、消費者であるカード購入者の保護の視点が中心になります。

今回は、暗号資産(仮想通貨)について見ていきたいと思います。

暗号資産による決済業務の本質

暗号資産による決済は、利用者(購入者)が、商品・役務の購入に際し、暗号資産交換業者において、あらかじめ現金や預金と引き替えに電子的経済的価値を登録しておき、加盟店(販売者)に対し、取引時に代金として電子的経済的価値で支払います。

 

ここで、フローを単純化すれば、その中核部分は、購入者が、電子的経済的価値を、販売者に移転するということになります。ここまでは、電子マネーと共通していますが、暗号資産は、不特定の者に対する支払手段ですので、理論的には誰に対しても代金の代わりとして支払うことができます。もっとも、有体物である現金とは異なり、いわばコンピュータの中の記録として存在するため、一般には、暗号資産交換業者に口座を持ち、ウオレット呼ばれるアプリケーションを用いて、販売者の有する暗号資産交換業者(電子マネーの場合と異なり、同一の場合も異なる場合もあります。)の口座に振り替えられるというフローになるので、販売者において、暗号資産による支払いを承諾し、かつ、そのためのシステムを備えていることが前提になります。見かけ的には、電子マネーの第三者型に似ています。となると、電子マネーの場合と同様、ここで出てくる暗号資産交換業者の行為は、前回述べた「為替取引」(銀行法10条1項3号)に似ています。しかし、暗号資産は、広く隔地者間の貸借関係の決済を現金輸送によることなく行う仕組みともいえないので、一応、異なるものとして扱われています。

暗号資産に係るトラブルのリスク

暗号資産の所有者は、暗号資産交換業者によってその経済的価値の記録の保管や移転をしてもらい、また、暗号資産の売買・交換やそれらの媒介・取次ぎ・代理をしてもらうこともあります。

取引勧誘に際しての過度な広告等により、利用者リスクの誤認や投機的取引を助長する事態が発生しました。

暗号資産交換業者がその情報を過失等により消失させた場合、損害賠償請求をすることができます。しかし、その業者が無資力であった場合には現実の補償はかないません。実際、世界最大規模の暗号資産と法定通貨の交換所を営んでいた事業者が破たんしました(2014年、株式会社MTGOX)。

不正アクセスにより、暗号資産交換業者が管理する顧客の暗号資産が不正流出するという事態も発生しました。

国際的には、その移転が迅速かつ容易であること、匿名での利用が可能であることから、マネー・ロンダリングなどに悪用されるリスクもあります。

暗号資産の価格が乱高下し、暗号資産が投機の対象になり、証拠金を用いた暗号資産の取引や暗号資産による資金調達等の新たな取引が生まれました。

このようなことを背景に、暗号資産交換業者の内部管理態勢、システム管理態勢の強化、取引の適正化に向けた取組みの徹底が望まれ、利用者の保護を図るために、資金決済法が制定されています。

トラブル防止のための暗号資産交換業者に対する規制

資金決済法では、上記2のような状況に対応するため、所要の制度整備を行っています。

暗号資産は、不特定の者に対して代価の弁済に使用でき、かつ、不特定の者を相手方として法定通貨と相互に交換できるといった性質を有する財産的価値と定義されています。ビットコイン、ビットコインキャッシュ、イーサリアム、ネムなどが著名です。

暗号資産交換業務が資金決済法により規制されることになります。

暗号資産交換業務は、①暗号資産の売買・交換やそれらの媒介・取次ぎ・代理(以下、「暗号資産の売買等」といいます。)を行う業務と、②暗号資産の記録の保管や移転をさせる業務があります。

その上で、上記2のリスクに対応するため、暗号資産交換業者に対して、下記のような義務を課しています。

① 参入規制

登録制。取扱い暗号資産の変更や事業内容変更時の事前届出、等

② 法令等遵守(コンプライアス)

利用者の暗号資産交換業に対する信頼の向上、資産の更なる流通・発展を通じた利用者利便の向上を図るため、法令や社内規則等を厳格に遵守し、適正かつ確実な業務運営

例えば、広告規制、適合性原則、不招請勧誘の禁止、誤認表示の禁止、口座開設時における本人確認(マネー・ロンダリング防止)、等

③ 利用者保護のための情報提供・相談機能等

利用者保護を図り、暗号資産交換業の適正かつ確実な遂行を確保するため、暗号資産交換業に係る取引開始時または契約締結の利用者に対する情報提供、金銭または暗号資産等受領時の情報提供等

例えば、分別管理(預託を受けた暗号資産等と自己の暗号資産等とを分別して管理)、苦情等への対処、利用者の優先弁済権(暗号資産交換業者の破綻時に他の債権者に先立ち弁済を受けることのできる権利)等

④ 事務運営

定期的なコンピュータシステムの評価に加え、外部環境の変化や事故・事件を把握し、自社システムへ影響の有無等、適時リスク評価

例えば、コンピュータシステムのリスク管理、従業員の不正等の事務リスク管理、外部委託者の監督、等

 

なお、金融商品取引法により、暗号資産デリバティブ取引も、金融規制の対象となり、契約締結前交付書面の交付義務、虚偽告知の禁止、断定的判断の提供禁止、不招請勧誘の禁止が適用されます。

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