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企業支援エトセトラ

令和4年4月14日

40.公益通報者保護法の改正について

公益通報者保護法が改正され、今年の6月1日から施行されます。そこで、今回はその内容についてご紹介します。

公益通報者保護法とは

公益通報者保護法とは、2004年に成立し2006年4月1日から施行されている法律です。当時、食品偽装やリコール隠しなどの不祥事が、組織内部の労働者等からの通報をきっかけとして明らかになるケースが多く生じたため、一定の要件を満たす公益通報を行った従業員等について、通報を理由に解雇などの不利益な取扱いを受けることのないよう保護するために制定されました。

なお、公益通報には、企業内部の問題を当該企業に申告するという内部公益通報のほかに、行政機関やマスコミ等の第三者に申告するという外部公益通報があります。

今回の改正内容

改正前の公益通報者保護法では、内部通報制度等を設けること自体が法律上の義務とはされておらず、また、事業者に対する制裁も明確でなかったため、十分に機能していたとは言い難い状況でした。また、企業の不祥事が後を絶たず、長期間にわたって法律違反行為が行われていたにも関わらず適切な公益通報がなされていないという実態がありました。そこで、不祥事をより早期に発見、是正することで被害を防止することを目的として今回の改正が行われました。

今回の改正は、

(1)事業者自ら不正を是正しやすくするとともに、安心して通報を行いやすくする

(2)行政機関等への通報を行いやすくする

(3)通報者がより保護されやすくする

という3つのコンセプトに基づいて行われています。以下、それぞれについて解説します。

 

(1) 事業者自ら不正を是正しやすくするとともに、安心して通報を行いやすくする

① 事業者に対し、内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等を義務付け

常時使用する労働者の数が300人を超える事業者は、公益通報対応体制の整備と公益通報対応業務従事者(従事者)の指定が義務付けられました。この300人に役員は含まれませんがパートタイマーは含まれます(なお、常時使用する労働者が300人以下の事業者については努力義務)。

公益通報対応体制の整備とは、

内部公益通報受付窓口の設置

内部公益通報に対する必要な調査の実施

調査の結果、法律違反行為が明らかになった場合の是正措置

などが挙げられます。

また、これらの対応を行う担当者を従事者として指定する必要があります。

そして、体制整備や従事者指定が十分でない場合に、助言・指導や勧告を受け、また勧告に従わない場合に社名等を公表されるなどの行政措置を行うことができる旨が規定されました。

なお、公益通報対応体制整備義務は、独立した法人格を有する事業者ごとに課されますので、例えば、グループ会社の場合には、グループ内の会社ごとに体制整備義務を遵守する必要があります。但し、子会社が、自らの内規において定めた上で、通報窓口を親会社に委託して設置し、従業員に周知しているなど、子会社として必要な対応をしている場合には、体制整備義務を履行していると評価できるものと考えられています。

② 通報者を特定させる情報の守秘を義務付け

上記①に基づき従事者として指定された担当者に、法律上の守秘義務が定められました。かかる守秘義務を負う従事者や従事者であった者は、公益通報者の氏名や社員番号など公益通報者が誰であるか認識することができる事項を、正当な理由なく漏らしてはなりません。もし守秘義務に違反してしまった場合には、30万円以下の罰金に科せられる場合があります。

守秘義務違反にならない正当な理由としては、通報者本人の同意がある場合や、調査等に必要な範囲の従事者間で情報共有する場合などが挙げられます。また、ハラスメントに関する公益通報の場合で、通報者がハラスメントの被害者と同一人物であるために調査を進める上で特定を避けることが著しく困難な場合も該当するとされています(但し、調査等に必要な範囲に限定され、また、被害者の心情に配慮しつつあらかじめ書面による同意をとっておくことが望ましいといえるでしょう)。

なお、常時使用する労働者の数が300人以下の事業者であっても、従事者を指定した場合はその指定された従事者が法律上の守秘義務を負うことになりますので、注意が必要です。

 

(2) 行政機関等への通報を行いやすくする

① 行政機関への通報の要件緩和

行政機関への通報について、通報をしたことを理由として企業が行う解雇が無効とされる場合の要件が緩和、つまり、解雇が無効とされる範囲が広がりました

(改正前)

通報対象事実が生じ、または生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合

(改正後)

通報対象事実が生じ、または生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合

または

通報対象事実が生じ、または生じようとしていると思料し、通報者の氏名・住所等所定の事項を記載した書面を提出する場合

② 報道機関等への通報の要件緩和

報道機関等への通報について、通報をしたことを理由として企業が行う解雇が無効とされる場合の要件が緩和、つまり、解雇が無効とされる範囲が広がりました

(改正前)

通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、次のいずれかに該当する場合

1. 不利益な取扱いを受けると信じるに足りる相当の理由がある

2. 通報対象事実に関する証拠が隠滅・偽造されるおそれがあると信じるに足りる相当の理由がある

3. 生命・身体に対する危害が発生し、又はその急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある

4. 事業者から正当な理由なく内部通報しないことを要求された

5. 内部通報したが、通報日から20日経過しても、正当な理由なく事業者が調査を行わない

(改正後)

通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、次のいずれかに該当する場合

1. 不利益な取扱いを受けると信じるに足りる相当の理由がある

2. 通報対象事実に関する証拠が隠滅・偽造されるおそれがあると信じるに足りる相当の理由がある

3. 事業者が通報者を特定させる事項を正当な理由なく漏らすと信じるに足りる相当の理由がある

4. 事業者から正当な理由なく内部通報しないことを要求された

5. 内部通報したが、通報日から20日経過しても、正当な理由なく事業者が調査を行わない

6. 生命・身体に対する危害もしくは財産に対する回復困難または重大な損害が発生し、又はその急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある

報道機関等への通報とは、「その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者」に対する通報をいいますので、報道機関以外にも、例えば、消費者団体や労働組合等も該当します。

上記①②はいずれも通報を理由に解雇が無効とされる範囲が広くなることで、通報者にとっては、内部の問題を外部に申告するハードルが下がることになります。

また、今回の改正に伴い、行政機関側も、公益通報に適切に対応するために必要な体制の整備が求められています。

 

(3) 通報者がより保護されやすくする

① 公益通報者として保護される者の拡大

改正により、退職者(退職後1年以内の者に限る)、役員が追加されるなど、保護される通報者の範囲が拡大されました。

(改正前)

1. 労働者

2. 派遣労働者

3. 下請事業者や他の取引事業者の労働者・派遣労働者

(改正後)

1. 労働者 1年以内に退職した労働者

2. 派遣労働者 1年以内に終了した派遣労働者

3. 下請事業者や他の取引事業者の労働者・派遣労働者 1年以内に退職・終了した当該他の下請事業者や取引事業者の労働者・派遣労働者

4. 役員(下請事業者や他の取引事業者の役員を含む)

② 保護される通報対象事実の拡大

改正により、刑事罰の対象となる行為に加えて行政罰の対象となる行為が追加され、公益通報として保護される通報対象事実の範囲が拡大されました。そのため、行政庁からの許可や登録に基づく事業を行う事業者は特に注意が必要になります。

(改正前)

刑事罰の対象となる犯罪行為の事実

(改正後)

刑事罰の対象となる犯罪行為の事実過料(行政罰)の理由となる事実

③ 公益通報者としての保護の内容の拡大

改正により、公益通報者として受けられる保護の内容が拡大されました。具体的には、まず、通報に伴う損害賠償責任の免除が追加されました。また、上記①のとおり保護される通報者の範囲に役員が含まれるようになったことに対応して、役員に対する不利益取扱いの禁止に加え、役員を解任された場合の損害賠償請求も規定されました。なお、その他の不利益な取扱いには、減給や降格、退職金の減額・不支給、退職の強要などが考えられます。

(改正前)

1. 公益通報を理由として解雇の無効

2. 公益通報を理由として労働者派遣契約の解除の無効

3. その他公益通報を理由とした不利益な取扱いの禁止

(改正後)

1. 公益通報を理由とした解雇の無効

2. 公益通報を理由とした労働者派遣契約の解除の無効

3. その他公益通報を理由とした不利益な取扱いの禁止

4. 公益通報を理由とした役員解任の場合の損害賠償請求

5. 公益通報者に対する公益通報を理由とした損害賠償請求の制限

事業主に求められる対応

上記の通り、常時使用する労働者が300を超える会社については、公益通報対応体制の整備と公益通報対応業務従事者(従事者)の指定が義務付けられます。消費者庁では、公益通報体制整備義務と従事者指定義務について、指針指針の解説を定めていますので、これらを参考にした対応が必要になります。

一方、300人以下の会社については、努力義務であることとリソースの問題もあり、指針に記載されているような体制の整備が十分できない場合もあるでしょう。それでも内部通報制度には企業内における不正行為等の早期発見や未然防止に繋がり、ひいては取引先や顧客、株主等の外部からの信用獲得に繋がるというメリットもあります。そこで、中小規模の事業者であっても対応しておくことが望ましい事項について簡単に触れておきます。

 

(1) 内部通報窓口の設置

まずは、内部通報を受け付ける窓口を設置することが必要です。内部通報の内容によっては、通常の指揮命令系統に基づくラインでは部下から上司に対する報告が躊躇されてしまうこともあります。そのため、通常の指揮命令系統とは別に内部通報窓口を設置することが重要です。事業者内部に設置する余裕がない場合は、弁護士などの事業者外部に設置することも検討すると良いでしょう。

 

(2) 通報された際の適切な対応

内部通報窓口を設けた場合、窓口で受け付けた通報に関する調査や是正を行うにあたっては、中立性や公正性を保つためにも、当該通報内容に関係する者の関与は排除するようにしましょう。

また、通報者に対して不利益な取扱いを行わないよう徹底しましょう。

これらは内部通報制度自体の信頼性を高めるために必要不可欠ですので、内部規程にも明記しておき、周知しておくことが必要です。

 

(3) 研修の実施

内部通報制度が実効的に機能するためには、社内研修を実施するなどして、整備した内部通報対応体制に対する事業者内の理解を深めていくことが必要です。内部通報対応に携わる担当者に対して、具体的な対応方法や注意事項を示す一方で、利用者となり得る従業員等に対しても組織にとっての内部通報の重要性や意義、通報者の保護などについて、理解を深めてもらうことが大切です。

 

内部通報制度は、組織としての自浄作用を高め、不正な行為を是正することで企業価値を高める機会となります。今回の公益通報者保護法の改正を機会に、自らの内部通報制度を見直してみるのはいかがでしょうか。

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