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企業支援エトセトラ

令和4年5月17日

41.ネットでの風評損害・名誉毀損への対処

はじめに

インターネットの普及とその技術革新・利便化に伴い、私たちの職業生活上および私生活上のインターネットへの依存は加速度的に増しています。私たちが現に生活しているリアルの世界に対して、サイバースペースまたはメタの世界のウェイトは質的・量的に増しています。

サイバースペースへのアクセスはリアルの世界へのアクセスよりむしろ容易な面があり、mixi、facebook、TwitterなどのSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)、ネット掲示板、クチコミサイト、ブログ等での風評被害、誹謗中傷などに遭遇するリスクが増してきています。世間の耳目を引いた木村花さんの事件を機に、政府で検討がなされました。昨年5月、民事訴訟のための手続(特に、権利侵害者の特定)に多くの時間と費用がかかっていたことなどに対処するプロバイダ責任制限法の改正法が成立しました。また、今年3月、インターネット上での誹謗中傷に対する刑法の侮辱罪の厳罰化のための改正案が閣議決定されました。プロバイダ責任制限法は今年の秋頃までに施行される見込みですので、その概略をご案内したいと思います。

制度の仕組み

プロバイダ責任制限法は、インターネット上の電子掲示板、SNSの書き込み等(「特定電気通信」)によって権利の侵害があった場合、被害者が発信者(≒権利侵害者)に対して書き込み等の削除、謝罪広告・損害賠償請求等を行う前提として、特定電気通信役務提供者(プロバイダ、サーバの管理・運営者等。以下「プロバイダ等」といいます。)に対し発信者情報の開示を請求する権利を定めた法律です。

他方、プロバイダ等は、自分は情報を発信せず、情報発信者と受信者を媒介する媒体に過ぎないものの、発信者の表現の自由と誹謗中傷されたという被害者の人格権のいずれをとるかの板挟みになることで両者から法的責任を追及される恐れがあるので、その賠償責任を限定するものでもあります。

 

改正内容

  改正前   改正後
権利回復手続

①発信者が侵害情報を流通させたSNSや電子掲示板等を運営するプロパイダ(「コンテンツプロパイダ」といわれます)に対する発信者情報開示仮処分の申立てを行う

②①の申立が認容後、その発信者がSNSや電子掲示板等に侵害情報を記録等する通信を媒介したプロパイダ(「経由プロパイダ」といわれます)に対する発信者情報開示請求訴訟を提起する

利便化

・発信者情報の開示を一つの手続で行える手続(非訟事件手続による簡略化された手続)の創設

・裁判所による開示命令が出るまでの間にデータが消去されないよう提供命令および消去禁止命令(保全処分)を創設

・プロバイダが外国にある場合も多いところ、広く裁判管轄を認める

開示請求の対象

権利侵害投稿を行った際のIPアドレス等(発信者特定の手がかり)

追加

SNSサービス等にログインした際のIPアドレス等(侵害投稿との関連性を緩和

   

まとめ

今や、日本人の皆がコメンテーターといっては、大げさですが、インターネットのインフラが隅々まで行きわたり、多くの人がネットに情報を発信し、また、多くの情報を得、これをコメントと共に(不特定の)第三者に伝達することが日常茶飯事になりました。

私たちは、ネットユーザになることで、被害者だけでなく、ややもすれば加害者といわれる危険に曝されています。普通にネットを利用する限り、違法行為として処罰されることはありませんが、この機会にネット社会における表現の自由と個人・法人の社会的評価のバランスを再考していただければと思います。

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