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相隣関係

相隣関係とは、隣近所との関係に関する問題のことであり、隣接地の使用や通行をめぐる問題、自己所有地の利用に関する問題、境界に関する問題、隣近所の建築をめぐる日照・通風・景観の障害問題などがあります。

相隣関係は、近所に住む者同士の相互の権利調整問題であり、日常生活の中でお互いに顔を合わせる機会が多いことを考えると、紛争状態を招くのは好ましくなく、できれば近所づきあいの話し合いの中で解決することが望ましい領域といえます。やむなく紛争になった場合は、裁判によって解決することになりますが、以下の説明が解決の基準になりますので、ご参考になさって下さい。

1.隣接地の使用や通行をめぐる問題

自宅の改築等のために一時的に他人所有の隣地を使わせて貰ったり、公道に接しない土地の所有者が公道に出るために周囲の他人所有地を通行させて貰う問題などがあります。

自宅建物が境界付近に建っていて改築に際して足場が自宅敷地内に組めない時などは、隣地を使わせて貰わざるを得ないことになりますが、法律もこのような場合には必要な範囲で隣地の使用を請求することができるとしています(民法209条)。隣家にお願いしても承諾が得られないときは、隣家を相手方として裁判所に土地利用の承諾請求訴訟を提起することになりますが、早期に着工する必要がある場合は妨害禁止の仮処分を申請します。なお、このような問題ができるだけ起こらないにするために、民法では建物を建築する場合は境界から50㎝以上距離をおくべきこととしています(234条)。

自己所有地が公道に接しない場合は、公道への出入りのために周囲の他人所有地を通行させて貰わざるを得ませんが、法律でもこの権利を認めており、これを囲繞地通行権といます(民法210条)。ただ通行できる場所や方法は、公道に出るために必要な部分に限られ、土地所有者のために損害が最も少ない方法によることとされています。公道へ出るための最短距離部分を歩行で通るだけならばあまり問題はないのですが、自動車の出入りが認められるか、建築基準法上の接道義務を満たすための通路開設まで認められるかとなると、難しい問題です。通行の部分や方法、条件などについて土地所有者との話し合いが進まないときは、調停によるなどして合意を得る努力をするのが好ましいと言えます。しかし、どうしても協議成立の見込がなければ、通行する部分や範囲と通行方法を明示して通行権確認訴訟を提起することになります。土地所有者が最短距離の歩行出入さえ妨害するようであれば、妨害禁止の仮処分を申請します。

通行権の問題は、上記のような囲繞地のケースばかりでなく、通路として利用されてきた土地を所有者が他に売却したり転用したりした場合に生ずる通行妨害や、建築基準法上のみなし道路の通行問題など、複雑な法律問題となることも多い分野です。このような場合には早い段階から専門家にご相談されることをお勧めします。

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2.自己所有地の利用に関する問題

自分の所有地は自由に利用できるというのが原則です。しかし、上記の囲繞地通行権のように他人の通行権が認められる場合にその場所をふさいではならないとか、隣地から水が自然に流れてくるのを妨げてはならない(民法214条)とか、上述した隣地からの土地使用請求が認められるケースでの妨害禁止などように、相隣関係上の制約を受けます。つまり、先に説明した隣接地の使用や通行をめぐる問題は、その隣接地所有者にとっては所有権の制約を受けるという裏返しの問題になる訳ですので、上記の説明をご参考になさってください。

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3.境界に関する問題

近時の分譲地などでは、隣地との間で境界確認図面が作成され、境界標なども設置されていることが多いですが、これらが無い土地の間では境界に紛争が生じるケースがあります。この場合でも区画整理が行われている地域では、区画整理の主体になった自治体が土地の形状や面積、寸法を計測した図面を作成していることが多いので、これをもとに現場で境界を再現することがある程度可能かと思われます。しかし、これらの資料がない土地では、昔に作成された公図や土地の分筆経緯、近隣土地との位置関係、面積割合などから土地の境界を確定してゆくことになります。ただこれらの資料をもとに話し合いで境界の合意が成立しても、それはそれぞれの土地所有者が自己の所有権の範囲を画したに留まり、公に土地の境界とされる訳ではないというのが、この問題の特殊性といえます。それは境界というものが、市町村の境を画したりする公のもので、民間では勝手に決められないという性質によるものだと言われています。それでも隣地所有者のとの間で境界の協議(土地所有権の範囲の合意)が成立すれば、それで紛争はなくなりますし、後日争いが再燃しても、他にこれを覆す合理的な根拠がなければ、一旦成立した境界合意は、訴訟等で公の境界を定めるにあたっても尊重されることになります。境界紛争は、裁判所における境界確定訴訟や、法務局における筆界特定手続によって解決を図ることになります。後者は法務局に備え付けられた資料をフルに活用できることや迅速な解決を図れるメリットがあると言われていますが、不服があれば境界確定訴訟によって、登記官が特定した筆界(境界)を争うことができるものであり、終局的に境界を定めることができるのは境界確定訴訟による判決しかありません。この境界確定判決で決められた境界こそが、公の境界として認められるものということができます。

境界問題、他に隣地との間に境界標や塀を作る場合にも生じます。塀を自己所有地内に自分の費用負担で作る場合は問題はありません。しかし、境界線上に塀を立てたり、境界標を設置するとなると、どんなものを作るのか、費用はどちらがどれだけ負担するのかなどが問題となります。お隣との話し合いで解決するのが最もよいのですが、協議が調わない場合に備え法律は基準を設けています。塀ならば、板塀または竹垣などの簡易なもので(少し時代遅れですが)、高さは2メートル(民法225条)、費用は折半(同法226条)です。もし、塀の材料をもっと良いものにしたい時はそれによる増額分を全部負担するのであれば可能とされています(同法227条)。境界標の場合は、設置費用は折半ですが、そのための測量費用は双方の土地の面積割合で負担することになります(同法224条)。相手の同意が得られずに、一方が設置するような場合は、この基準に従った費用を相手に請求することになります。

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4.隣近所の建築をめぐる日照・通風・景観障害

永らく快適な居住環境で生活してきたのに、近所に高層の建物が建ったことにより、日照や通風、景観に障害が出てきたという話しはよく聞きます。建てる側からすれば、自分の土地利用や建築業者にとっての営業上の問題ですが、建てられる側からすれば、日常生活上の不利益の問題といえます。即ちこの問題は、前項までの土地所有者同士の所有権をめぐる問題ではなく、建築施主や建築業者と近隣居住者との権利の衝突であり、根拠となる権利が、土地所有権ではなく人格権などとなってくるのが特徴です。

これらの問題については、建物が建ってしまってからでは遅く、建ち上がるまでの間に、これを止めさせないと、良好な環境が損なわれてしますので、人格権等に基づく建築差止訴訟や建築禁止仮処分申請などを提起して対処することになります。ただ、基本的には、建築基準法や自治体の建築条例が土地の用途地域ごとに種々の建築規制をしており、これらの法規制は近隣の居住環境を配慮した建前になっていますので、この条件をクリアした建物が建築される限りにおいては、近隣居住者の不利益が特に著しいものでない限り、差し止めは難しいとされています。

建築規制に違反した建物が建てられようとしている場合は、前述の差止請求や仮処分の方法によることになりますが、仮に手続が遅れて、既に建物が建ち上がってしまったような場合でも、これが違法建築物である場合には、その違法の程度によって、取り壊しや高層部分の除去を求めることも考えられます。

建物が建築法令をクリアしており、これを差止対象とするには困難であっても、その建築によりこれまで受けていた日照や通風に相当程度の悪影響があり、日常生活に多大な不利益が生じる場合には、別途、不法行為として慰謝料請求が認められる場合がありますので、注意が必要です。

このように近隣の建築をめぐる生活環境の侵害問題に対処するには、建築法令に精通した上、ケースによって対処方法(差止請求、仮処分、除去請求、慰謝料請求など)を使い分けるセンスや事件の見通しが利く目が必要なものであり、早期に専門家にご相談されるのがよい分野です。

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