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個人情報保護法

令和4年10月17日

12.個人情報保護法について⑪ ~健康診断の場面~

会社には、従業員に対する健康診断が義務付けられています。また、安全配慮義務や職場環境配慮義務の一環として従業員の健康状態に配慮することが求められます。その際、会社が従業員の健康診断の結果や心身の状態に関する健康情報を取り扱うことを避けて通ることはできません。前回、採用時における健康情報の取り扱いについては少しお話ししましたが、今回は、採用後も含めて、全般的に会社が健康診断での健康情報を取り扱う場面で注意すべき点を解説いたします。

健康診断の実施義務

 

(1)従業員に対する健康診断については、労働安全衛生法に規定があります。

労働安全衛生法により、会社は、雇用時の健康診断以外にも、1年以内ごとに1回、労働者に対する医師の健康診断を実施しなければなりません(定期健康診断)。これは事業規模や業種・職種を問いません。労働形態に関係なく、常時使用する労働者に対して健康診断を実施する義務があります。パートタイマーやアルバイトの場合でも週の労働時間が正社員の4分の3以上で、1年以上継続して雇用する場合は対象になります。

そのほかにも、特定の業務(深夜の業務や危険な業務)に従事する従業員や、海外派遣労働者等に対する一般健康診断、高圧室内作業や放射線業務など有害な業務に従事する労働者に対する特殊健康診断、じん肺法に基づくじん肺健康診断などが義務付けられています。

実施義務に違反すると罰金が科せられます。また、常時50人以上使用する事業所の場合は、健康診断の結果を労働基準監督署へ報告する義務があります。

(2)定期健康診断では、以下の項目について診断を実施する必要があります。なお、※印の項目については、年齢等一定の場合には診察を省略することができます。また、3カ月以内に健康診断を受けていた場合にも診断項目を省略できます。

・既往歴および業務歴の調査

・自覚症状および他覚症状の有無の検査

・身長(※)、体重(※)、視力および聴力の検査

・胸部X線検査(※)及び喀痰検査(※)

・血圧の測定

・尿検査(尿中の糖および蛋白の有無の検査)

・貧血検査(赤血球数、血色素量)(※)

・肝機能検査(AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTP)(※)

・血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、トリグリセライド)(※)

・血糖検査(※)

・尿検査

・心電図検査(※)

(3)会社に義務付けられている健康診断の受診費用は会社が負担する必要があります。なお、受診時間は勤務時間中が基本ですが、定期健康診断は業務との関連性がないため、その間の賃金支払い義務はありません。とはいえ、従業員に円滑に受診してもらうためにその間も賃金を支払う方が望ましいでしょうし、実際に支払っている会社も多いかと思います。

健康情報の取扱い

(1)労働安全衛生規則において、健康診断結果は会社が把握し、従業員に通知することとされています。そして、健康状態に問題がある従業員がいた場合、医師の意見をもとに、従業員の実情を考慮して就業場所や作業の変更、労働時間の短縮など労働時間の見直しなどの措置する必要があります。そのため、会社側で従業員の健康状態をある程度把握しておく必要があります。

一方、健康診断結果や医師による面接指導の結果などの健康情報は、要配慮個人情報に該当します(要配慮個人情報については、こちらをご覧ください)。要配慮個人情報は、原則、本人の同意なく取得や第三者提供を行うことはできません。但し、法令に基づく場合は例外とされており、労働安全衛生法に基づき定期健康診断の結果を受診機関から取得することは問題ないと考えられています。ただし、上で述べた項目以外の情報、例えばがん検診の診断結果などを取得したり第三者提供する場合には、原則どおり本人の同意が必要となります。

(2)会社が従業員の健康診断結果を把握するにあたって、従業員から健康診断結果をスムーズに提出してもらうために、受診の案内とともに診断結果提出について事前に文書で通知するか、就業規則等に規定しておくと良いでしょう。

なお、健康診断結果について、会社内の人間がだれでもその内容を見られる状態にしておくのは問題です。健康診断の実施の実務に従事している従業員や人事労務部門の担当者以外には、仮に当該従業員の健康状態に異常があった場合、医師の意見を取り入れながら必要に応じて就業制限等を行う必要があるため、職場の管理監督者など一定の役職の者に限定しておく必要があるでしょう。

そして、健康情報を取り扱う従業員に対しては、情報の取扱方法や権限の範囲など、取扱規程に定めた内容について周知させるために、研修等の実施が求められます。

(3)会社は従業員の健康情報について、適正に管理しなければなりません。

この点、平成31年4月から、すべての事業者について、健康情報の取得や管理、運用ルールを定めた健康情報取扱規程の策定が義務化されています。これは、企業が不当に健康情報を取り扱い、従業員に人事面などで不利益がもたらされないよう、適切な運用を定めるとともに、従業員に対して、不安なく自身の体調を相談したり、健康診断などを受けたりできる職場環境の実現を目指して策定が求められるものです。

常時使用する従業員が50人以上の事業場においては、原案を作成のうえ、事業場ごとに設置が義務づけられている衛生委員会または安全衛生委員会において審議することが求められます。常時使用する従業員が50人未満の事業場においては、衛生委員会等の設置義務はありませんが、従業員の意見を聴取したうえで、策定することが求められます。

「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」によると、健康情報取扱規程において、以下の項目について定めるべきとされています。

①健康情報等を取り扱う目的及び取扱方法

②健康情報等を取り扱う者及びその権限並びに取り扱う健康情報等の範囲

③健康情報等を取り扱う目的等の通知方法及び本人の同意取得

④健康情報等の適正管理の方法

⑤健康情報等の開示、訂正等の方法

⑥健康情報等の第三者提供の方法

⑦事業承継、組織変更に伴う健康情報等の引継ぎに関する事項

⑧健康情報等の取扱いに関する苦情処理

⑨取扱規程の従業員への周知の方法

健康にかかわる情報は非常にデリケートな情報ですし、健康に不安があるという情報が会社に知られると、人事面で不利益が及ぶのではないかと従業員も不安に感じるものです。そうした不安を払しょくし、健康面について気軽に相談できる職場環境を作るためにも、しっかりとした健康情報取扱規程を作成しておくことが非常に重要です。

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