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民法改正について

平成30年9月6日

9.その9、保証に関する改正(2)

前回、「包括根保証は怖い」ということで、平成16年に改正がなされ、貸金等については包括根保証が禁止されたと申し上げましたが、「怖い」といわれる原因を貸金で考えますと、主債務者が将来的にどれだけ借りるのか分からないし、いつまで借金を続けるか分からないのに、それらを包括的に保証してしまったために、主債務者の借金の全部を保証しなければならなかったからです。

民法の大原則として契約自由の原則があり、不安なら契約を締結しない自由もある、という考え方から、これまでは、「包括根保証の契約をしたのだから仕方がない」で済まされてきたわけです。確かに、抽象的には契約しない自由があるのですが、保証契約に関しては、主債務者との何らかの人間関係により保証人にならざるを得ないというのが現実です。そのため、包括根保証はあまりに保証人に酷だということで、平成16年の改正では、貸金等について、保証する限度額(極度額)と保証期間(基本3年、最長でも5年で保証する元本を確定させる)を決めなければならないことにして、保証債務が際限なく広がることを防止することにしたのです。

ただ、上記の問題は、何も貸金の保証に固有の問題ではありません。例えば建物賃借人(主債務者)の保証人は、賃借人が家賃を支払わなければそれを保証しますが、建物賃貸借契約が続く限りその保証期間は続きます。賃借人が死亡しても、借家権は相続され、その相続人が賃料を支払わなければそれも保証しなければなりません。また、家賃の不払い程度ならと思っていても、賃借人の責任になるもの全てを保証しておれば(普通はこういう保証になります)、賃借人の不注意で建物が焼失してしまった場合などは、予想外に高額な保証になってしまうことにもなります。 そこで、今回の民法改正では、貸金等以外の主債務の保証にも包括根保証の禁止という規制を行うべきかどうかが問題になりました。ただ、貸金と違って、かなり長期間の契約関係になることが予想されている借家人の債務の保証について、3年や5年で保証が打ち切られたのでは、大家さんも不安ですので、そういう利益の衡量も必要になります。

そこで、結論から言えば、今回の民法改正で、貸金等以外の保証についても、極度額(幾らまで保証するか)は決めておかねばならないことになりましたが、いつまで保証が続くか、という点では、特に3年や5年の縛りは掛けないことになりました。ただ、借家人が死亡したような場合に、相続人が賃料を支払わない分まで保証させるのはやはり酷であろうということで、主債務者(借家人)が死亡した場合は保証債務も、その時点で打ち切られることになりました。同じく、保証人が死亡した場合も、保証人の相続人がそれ以上の負債を負うことがないように、死亡時点で保証契約が打ち切られることになりました。

包括根保証の問題以外にもう一つ問題になったのは、事業資金の貸し付けに関する個人保証でした。一般に中小、零細な企業(株式会社)が事業資金を借入れる場合、普通、経営者が保証人になりますが、加えて第三者が保証人になる場合もあります。

実は、経営者が会社の保証人になるという慣行自体の問題性は、かねてから指摘されていました。中小企業において会社と経営者は、一般的には、いわば一蓮托生なので、会社が潰れれば、経営者も無一文になるのが普通です。主債務者が支払えなくなった場合に代わって支払うのが保証人ですから、そもそも経営者を会社の保証人にしても、代わって返済して貰うという実際的な意味はあまりないのです。むしろ、経営者個人の再建を阻害するというデメリットすら指摘されています。

それでも経営者による保証が慣行化していたのは、貸付を受ける企業の実体が不透明であったために貸付を行う側(銀行)にその企業の実態判断を行うための資料が揃いにくいこと、経営者に責任を持って貰うことで、いわば一生懸命経営に励むであろうという思惑があったからのようです。ただ、そういう方向で「保証契約」を利用するのは、少なくともノーマルな契約とは言えません。まして弊害が生じうるのであれば、避けた方が良いということになります。

そのため、中小企業庁や金融庁が主導する形で、銀行協会(債権者側)と商工会議所(債務者側)が、「経営者保証ガイドライン」をまとめています。内容は多岐にわたりますので、省略しますが、要は銀行が中小企業に貸付を行うに際し、経営者を保証人にしなくても貸付を行えるように運用していくことをメインとし、借りる企業の側も経営者が保証人にならなくても大丈夫だと銀行に思って貰えるような協力あるいは条件整備をしていくという内容になっています。これは、借りる側と貸す側を統括する団体間の取り決め(指針)であり、管轄の中小企業庁や金融庁も「行政指導」という形で「経営者保証を要しない貸付」が一般化していく方向に進めていくことになります。

しかしながら、これは実務の運用方針であり、法的規制ではありません。そのため今般の民法改正においては、事業資金貸付に際しての経営者保証やそれに加えて要求されることの多い第三者保証に関する法的規制の必要性が検討され、次回はその点についてご説明申し上げます。

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