トップページ  >  連載  > 民法改正について12

民法改正について

平成30年12月11日

12.その12、債権譲渡に関する改正(2)

今回は、債権譲渡に関する民法の規定が具体的にどのように改正されたかを見ていくことにします。この改正が行なわれた主たる理由が、継続的な取引関係から生じる債権の譲渡担保を不安なく行えるようにするために、債権者(債権譲渡人)、債務者、債権の譲受人(譲渡担保権者)の利害を調整することにあったことは、前回ご説明申し上げたとおりです。

大原則として、譲渡禁止特約の付された債権も譲渡できる旨が明文化されました(改正民法466条2項)。もっとも、債権譲受人が譲渡禁止特約を知っているか重大な過失によって知らなかった場合には、債務者は債権譲受人からの請求に応じる必要はなく、従来の債権者(債権譲渡人)に弁済すれば良いということになっています(同条3項)。

この点、従前はどうなっていたかと言いますと、譲渡禁止特約の付された債権は譲渡できないという前提で、そのことを知らなかった善意の譲受人だけは保護されるという構造になっていました。

ただ、これだけの改正ですと、改正法の下では、債務者は、従来の債権者(債権譲渡人)からの請求に対しては「あなたは債権を譲渡したから債権者ではない」として債務を履行せず、譲渡禁止特約の存在を知っている債権譲受人からの請求に対しては、「あなたは譲渡禁止特約を知っていたのだから、あなたには支払わない」と言えることにもなってしまいます。そこで同条4項において、譲渡禁止特約の存在を知っている債権譲受人には、債務者に対し、相当な期間内に従来の債権者に支払えと請求する権利を与え、相当な期間が経過しても債務者が従来の債権者に対する支払を行わない場合は、自分(債権譲受人)に対して支払うように請求できることとしました。

なんか分かりにくい話だ、と思われるかも知れません。要は、従前は譲渡禁止特約があるとその債権は譲渡できませんでしたから、仮に譲渡してもなお債権者は元のままです。そうしておけば、支払先を固定したいために譲渡禁止特約を付したという債務者の希望は叶えられます。しかしそうすると譲渡禁止特約など知らなかった譲受人は不測の損害を被ります。だから知らなかった(つまり善意の)譲受人だけは保護しようという構造だったのです。

継続的な取引上の債権を譲渡担保に供して資金調達を行うということがなかった時代ならそれでも良かったのかも知れません。しかしそういう手法が一般 化してくると、担保のためとはいえ、譲渡禁止特約の付された債権の譲受人が何の権利も取得できないというのでは、この種の債権譲渡担保による資金調達は極めて不安定なものになります。

譲渡禁止特約の存在を知らずに債権を譲り受けたものが保護されるべきだという考え方は民法改正の前後を通じて変わっていませんし、継続的取引関係上の債権を担保に取ろうというものが譲渡禁止特約の存在に無関心ははずもありません。従って以下では譲受人が譲渡禁止特約を知っていたことを前提とします。

改正法では、譲受人を権利者とするために譲渡禁止特約の付された債権でも譲渡できることにしたわけですが、そうすると今度は、譲渡人はもはや債権者ではなくなりますので、理念的には、債務者は従来の債権者に支払えなくなります。それでは何のために譲渡禁止特約を付したのか、ということになりますから、債務者を保護するために、債務者は、元の債権者に支払えば免責される、ということにしたのです。譲受人は、担保としての効力が維持されれば良いのですし、元の債権者に支払われた金銭については、元の債権者に対して、自分に引き渡せと請求できますから、特に困りはしません。

ただ、上記のように、債務者は元の債権者に支払えば免責されるとしても、元の債権者は権利者ではないとして支払わないかも知れません。元の債権者も、既に債権は譲渡していますから、あえて請求しないかも知れません。そうするとその債権は宙に浮いてしまいます。

そこで、譲受人を保護するため、新たに、債務者に対して元の債権者に支払うように求める権利を与え、それでも債務者が元の債権者に支払わない場合には自分に支払うように請求する権利を与えたのです。元々譲受人が権利者であるにもかかわらずその権利を行使できなかったのは譲渡禁止特約を知っていたからで、その場合債務者の支払先を固定したいという利益を保護するためでした。にもかかわらず債務者がその利益を放棄してしまっているのですから、それ以上債務者を保護する必要もありません。まずは債務者に与えられた利益を実現するように求め、それも実現しないというのであれば、譲受人が権利者なのですから、権利を行使しても良い、ということにしたわけです。

以上でお分かり頂けると思いますが、譲渡禁止特約の効果に対する考え方を一つ変えるだけで、付随してこれだけの条項を変容させる必要が生じてきます。立法作業というものがいかに面倒なものであるか、という一例でもあるわけですが、本来今回の民法改正が目的としていた「分かりやすい民法」になったかどうかについては疑問なしとしません。上記の改正条項は、弁護士には一応理解できても、普通の人に分かりやすくなったとは思えないからです。

最後に、今回の改正では触れられなかったことを一つ加えておきます。それは、譲渡禁止特約の付された債権を譲渡すること自体、元の債権者と債務者間において、元の債権者の債務不履行にはならないのか、という問題です。債務不履行だということで、元になっている継続的取引関係が解除されてしまいますと、その継続的取引関係が続くことを前提とする債権譲渡担保は、たちまち極めて不安定なものになってしまいます。ですので、少なくとも解除ができないという結論にならないといけないわけですが、そのこと自体は規定されませんでした。この問題に関しては、支払先を固定するという効果は維持されている以上、そもそも債務不履行にはならないという考え方と、債務不履行にはなるが、解除するのは権利の乱用になるという二つの考え方が示されています。今回規定はされませんでしたが、解除はできないという考え方で運用する方針で、商工会議所などでもそのような考え方を会員に一般化するための活動が行われているそうです。規定はしないが、解除はできないという慣習を形成しようというわけです。

今回はこれだけで手一杯になりましたので、債権譲渡に関係する改正で、残る部分は次回に譲ります。

top