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民法改正について

令和2年6月1日

18.消費貸借

消費貸借契約とは,借主が貸主より借りた物を消費し,借りた物と同種同量の物を返還する契約です(新587条以下)。金融機関との金銭の消費貸借契約をはじめとして実社会生活上も重要性の高い契約であるといえます。

コロナウィルスの影響により資金調達をし,また貸付を実行する際にも,問題となる契約類型でもあり,実務上問題となりうるリスクについても言及していきたいと思います。

 

諾成的消費貸借契約に変更されたことによる注意点

旧法においては,消費貸借契約は要物契約,すなわち,消費貸借の目的物の交付が成立の要件とされていました。

新法においては,目的物の交付がなくとも,当事者間の書面の交付を要件として,当事者間の意思表示の合致のみで,消費貸借契約の成立を認めています(新法587条の2)。

この様に,目的物の交付がなくとも,当事者間の意志表示の合致のみで,成立する消費貸借契約を諾成的消費貸借契約といい,新法587条の2は,諾成的消費貸借契約を認めたものと考えられています。

上記の書面は,消費貸借の詳細な内容まで具体的に記載されている必要はなく,目的物を貸主が貸渡し,借主が借受ける意志が現れていれば足りると考えられています。さらに,電磁的記録(新587条の2第4項)によっても認められます。

そして,上記の電磁的記録とは,電子メールも含まれると考えられています。

そのため,電子メールにおける融資等の交渉の場面において,貸主が貸渡し,借主が仮受けるとの意志が文言より認められた際には,当該電子メールのみで諾成的消費貸借が成立し,貸主は,借主に対して融資を実行する義務を負う可能性があります。

そのため,融資等の交渉の場面における,電子メールのやり取りについては慎重な検討が求められることとなります。

 

借主の解除権

諾成的消費貸借の下でも,借主は目的物を受け取るまで契約解除が可能であり(新587条の2第2項前段),借主は消費貸借締結後も,借りる義務を負うものでは無いことが示されています。

他方で,貸主は,借主による契約解除により損害を受けたときは,借主に損害賠償を請求することができます(新587条の2第2項後段)。

ここでの損害とは,貸付金の調達費用等の実際に生じた損害(積極損害)が想定されています。具体的には,事業者間の取引における高額融資において,貸主が期限前に返済を受けても運用先がなく,かつ返済期限までの利率に関して貸主に逸失利益が生じたような場合には,貸主が融資資金を調達するために支出した費用(資金調達費用)につき損害が認められる余地があると考えられています。

他方で,消費者ローンなどの少額融資においては,仮に貸主が資金調達費用を支出していたとしても,貸主は,通常は他にも貸付先を有しているものと考えられ,他の貸付先に資金を融通することが可能であるため,損害は生じないものと考えられます。

以上の様に,貸主に損害が認められる場合は限定的であることから,貸主としては,契約書に,借主による契約解除時の賠償額を定め(いわゆる賠償額の予定,(民法420条)),契約条項により賠償額を支払わせるという措置を取ることが考えられます。

もっとも,上記の賠償額の予定を契約書に定めるに際して,賠償額が過大であると認定された場合には,公序良俗違反により条項が無効(民法90条)とされる場合もあり得ます。

そのため,契約書において,借主の解除権行使にかかる賠償額の予定の金額の決定には慎重な検討が求められることとなります。

 

借主による期限前の弁済について

旧法において,借主は,いつでも目的物を返還できるとされていました(旧法591条2項)。

ただ,旧法では,返済期の定めがある場合も,上記規定が適用されるかにつき明文で定められていませんでした。

新法では,借主は,返還時期の有無にかかわらず,いつでも目的物を返還できること(新法591条2項),貸主は,借主がその時期の前に返還したことによって損害を受けた時は,その賠償を請求することができることが新たに定められました(新法591条3項)。

ここで,借主の期限前弁済につき貸主が受けた損害とは何になるのでしょうか。

旧法下では,期限前弁済より当初の弁済期までの利息相当額を損害(いわゆる逸失利益,消極損害)として,民法136条2項により,期限前弁済を行った借主に損害賠償義務を課すと説明することが多かったようです。

もっとも,上記の考え方には反対意見も多く,今回の民法改正においては,上記の様に利息相当額を損害とする条文は定められませんでした。さらに,上記2の議論と同様に,貸主は期限前弁済を受けたとしても,資金を他の貸付先に融通すれば損害は生じないものと考えられます。そのため,期限前弁済により貸主に損害賠償責任が認められるのは,期限前に弁済を受けても金銭の融通先が無く,かつ,弁済期限までの利息相当額の支払を前提として利率が低く設定されていた場合に限定されるものと考えられています。

借主の期限前弁済に対しては,貸主は,契約書に上記2同様賠償額の予定を定めるという措置を取ることも可能です。もっとも,上記2同様,賠償額が過大である際には,公序良俗違反により条項が無効とされる可能性もあり,契約書作成には慎重な検討が求められることとなります。

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