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社会保険労務

平成24年11月16日

7.意外と怖い労基署の調査

労働基準監督署による調査をご存知でしょうか。

労働基準監督署による調査は、事業主の方にとっては、税務調査に比べると頻度は少ないので、たいしたことがないとあまり重要視されていない方も多いかと思います。しかし、油断していると思わぬかたちで足をすくわれることになりかねません。

まずは、労基署による調査について、基本的なことを確認しておきましょう。

(1)労基署による調査は「臨検」といい、主に、①定期監督と②申告監督に分かれます。

定期監督とは、年度ごとに重点業種や重点項目を定めて行う調査です。重点業種としては、一般的に、長時間労働の多い業種(小売・サービス業)や、労働安全衛生法違反の多い建設業が多いと言われています。また、サービス残業に対する指導強化を目的に行われることがあります。

一方で、申告監督は、労働者の申告を受けて行われる調査で、この場合は具体的な申告に基づくものなので、必然、調査は厳しくなります。

いずれも立入調査(予告なしに突然来る場合もある)と呼び出し調査の2つがありますが、申告監督の場合は呼び出し調査が多いです。

なお、労働基準監督官には強い権限が与えられているため、調査を拒否することは出来ません(拒否すると罰則が待っています、労働基準法第120条第4項)。

※労働基準法第120条第4項・・・次の各号の一に該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。4.第101条(第100条第3項において準用する場合を含む。)の規定による労働基準監督官又は女性主管局長若しくはその指定する所属官吏の臨検を拒み、妨げ、若しくは忌避し、その尋問に対して陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をし、帳簿書類の提出をせず、又は虚偽の記載をした帳簿書類の提出をした者

(2)具体的な調査方法としては、労働者名簿、賃金台帳、出勤簿、タイムカード、就業規則など法定書類の提出を求められ、また、担当者等に対する事情聴取などが行われます(労働基準法第101条第1項)。

※労働基準法第101条第1項・・・事業者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨を常時各作業場の見やすい場所に掲示し、又は備え付けることその他の厚生労働省令で定める方法により、労働者に周知させなければならない。

調査対象は労基法違反の有無で、その内容は広範囲にわたりますが、摘発が多い事例は、残業代の不払を含め時間外労働に関するものが多く、労働安全衛生法違反の摘発も多くなっています。

法令違反がある場合は、違反事項と是正期日が記載された是正勧告書を渡されます。法令違反に至らないが改善が必要な場合には指導票を渡されます。そして、それらを受け取った事業主は、その後、労基署に対して是正報告書を提出しなければなりません。

(3)定期監督では、仮に法的な違反があったとしても将来の是正を指導されるだけで済むことがほとんどですが、申告監督になると、例えば賃金不払いの事実が認められた  場合、該当者全員に対して、過去2年分まで遡って支払うよう求められることもあります。

ちなみに、労基署による是正指導を受け、2011年度に100万円以上の不払い残業代を支払った企業は1312社で、支払った残業代の総額は約146億円にも上ります(1社あたりの平均は約1100万円にも上る計算です)。これは会社にとって大きな痛手です。

また、違反があると刑罰もあり、送検されてしまう危険すらあります(それほど強い権限を調査官は持っているのです)。

以上のとおり、労基署による調査の対応は面倒ですが、決して疎かには出来ないのです。

呼び出しが来てから慌てて準備したり、その場で取り繕っても遅く、日頃からきちんと法令に従った対応をしておくことが必要です。

具体的には、労働時間や休憩時間等の管理を整備して就業規則等に明記し、従業員に周知させ、適正な運用を図る、賃金台帳等の法定書類をきちんと整備しておく、36協定を締結し適正な残業管理を行う、などが必要です。

一箇所でも不備があると、他にも不備があるとの先入観を与え、さらに調査に来られる確率は高まってしまいます。

くれぐれも、証拠隠滅だけは絶対にしてはいけません。調査官もプロとして徹底的に調査しますので、隠し通すことは困難ですし、もしばれると送検もされかねません。

また、申告監督については、退職した従業員からの申告に基づくものが多いため、退職時には本人にきちんと説明して納得してもらうなど、後々のトラブルを避ける配慮が必要です。

最後に、参考として、今年5月の東京労働局の発表によると、同管内で行われた立入検査による定期監督のうち、労基法違反が認められたのは、8659件中71.0%という結果が出ています(http://tokyo-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/var/rev0/0040/8997/201251195236.pdf)。

いかに、労基法違反の事業所が多いかが分かります。

業種別では、製造業(80.2%)、商業(77.4%)、運輸交通業(77.1%)が違反率が高く、違反内容では、36協定を提出せず時間外労働をさせるなどの労働時間関係の違反が全体の27.2%を占め最も多く、以後、割増賃金違反20.0%、就業規則の作成や届出をしていないという違反16.6%が続きます。

また、建設業において、機械・設備等の危険防止措置に関する違反件数が多いことも指摘されています。

なお、これまではサービス残業の摘発が中心だと言われていた労基署の調査ですが、最近ではメンタルヘルス対策の有無についての比重が大きくなりつつあると言われています。

近々、こうした最近話題のメンタルヘルスについてもお話ししたいと思います。

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