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社会保険労務

平成25年1月18日

10.労災保険の特別加入制度をご存知ですか?

労災保険の特別加入制度をご存知でしょうか

労災保険(正式名は「労働者災害補償保険」)とは、労働者が「業務上の事由」又は「通勤」によって怪我をしたり、病気になったり、あるいは死亡した場合に、被災労働者や遺族を保護するために必要な保険給付を行う制度をいいます(労災保険を含む労働保険に関する概括的な説明はこちらをご覧下さい。

基本的に、労災保険は、「労働者」の業務上の災害や通勤途上の災害について補償する保険です。そうすると、社長や役員等は「労働者」ではないので、労災保険を利用することはできません。

しかし、特に中小企業では、社長や役員も労働者と同じような業務をしている実情があり、災害の発生状況も変わらないことが多いため、実質的に労働者として保護することが望ましい場合もあります。個人タクシーの運転手や大工などの一人親方の場合も同様のことが言えます。

そこで、中小企業の事業主や一人親方等に対して任意に労災保険への加入を認めている制度が特別加入制度です。

特別加入することのメリットは以下のとおりです。

労災保険に加入することができない企業の経営者、個人事業主及び家族従事者なども、労災保険に加入することができる
原則として医療費の自己負担がゼロになる(特別加入していない場合、法人の社長や役員の場合、業務上のケガや病気には健康保険が使えないので、全額自己負担となる)
特別加入の保険料だけでなく、その企業の通常の労働保険料を、金額にかかわらず分割払いとすることが可能
国が運営する制度であり、保険料が安価(選択できる)で安定した給付が受けられる

特別加入出来る主な人は次のような人です。

① 中小事業主、法人の代表者・役員、中小事業主の家族で当該事業に従事している人(以下、「中小事業主等」といいます)

但し、下表のとおり一定数以下の労働者を使用する者に限ります。

業種 常時使用する労働者数
金融業・保険業・不動産業・小売業 50人以下
卸売業・サービス業 100人以下
上記以外の業種 300人以下

② 一人親方(※説明=基本的に労働者を使用しないで事業を行う人、例えば個人タクシ業者や大工など)その他自営業者とその事業に従事する人  

①の場合、労働保険の事務処理を「労働保険事務組合」に委託していることが必要であり、②の場合も一人親方等の団体の構成員となっていることが必要で、その労働保険事務組合ないし団体を通じて加入手続を行う必要があります。

その他にも特定作業従事者や海外派遣者も特別加入をすることが出来ます。

なお、粉塵作業を行う業務に従事するなど健康に有害な業務に従事した経歴のある人は、健康診断結果の提出を求められる場合があります。

保険料は、特別加入者が所得水準に見合ったランクの金額を選択し(3500円~2万円の13段階)、基本的にはその額を給付基礎日額として、その365日分に、業種ごとに決められた労働保険料率を乗じて計算します。

 

例えば、

①小売業の事業主が、給付基礎日額8,000円で、特別加入する場合

8,000円×365日(1年間)=2,920,000円

よって、2,920,000円×1000分の3.5=10,220円(月額約852円)

②塗装工事業の一人親方が、給付基礎日額10,000円で、特別加入する場合

10,000円×365日(1年間)=3,650,000円

よって、3,650,000円×1000分の11=40,150円(月額約3,346円)

となります。

特別加入者も、一般労働者と同様、療養・休業・障害・死亡などの場合に給付を受けることが出来ます。

この点、一般労働者の場合、労災が発生した場合に給付を受けるためには、「業務遂行性」と「業務起因性」の2つの要件を満たす必要があります。ただ、「業務遂行性」はそのままの定義では、例えば中小事業主の場合だと当てはまらないことになるので、通達により、以下のような判断基準が示されています(なお、業務起因性については、一般労働者の場合と同様の基準となります)。

中小企業主等の特別加入者に関する業務遂行性の判断基準

① 申請書の「業務の内容」欄に記載された労働者の所定労働時間内に、申請した事業のための業務及びこれに直接関係する行為を行う場合(ただし、その行為が事業主の立場において行われる業務を除く)

② 労働者の時間外労働又は休日労働に応じて就業する場合

③ 上記①または②に接続して業務の準備または後始末を中小事業主が単独で行う場合

④ 上記①~③の就業時間内に、事業場の施設の利用中及び事業場施設内で行動中の場合

⑤ 事業の運営のために直接必要な業務(事業主の立場において行われる業務を除く)

⑥ 通勤途上で次に掲げる場合

ⅰ 事業主が労働者のために用意した通勤専用のマイクロバスなどを利用している場合

ⅱ 台風や火災等の突発事故による予定外の緊急出勤の途上にある場合

⑦ 事業の運営に直接必要な運動競技会、その他の行事について労働者をともなって出席する場合

 

上記基準でいうと、例えば、所定労働時間内で申請した事業と関係する行為であっても、株主総会への出席や得意先等の接待(資金繰り目的の接待や親会社のゴルフ接待など)中に労災が発生したとしても、給付の対象にはなりません。

また、従業員と一緒に夜間に作業をしている場合に労災が発生した場合は、給付の対象となりますが、従業員が全員帰宅した後社長が1人で作業していた場合には、給付の対象とはなりません(②)。但し、1人で作業の後片付けをしていた場合は別です(③)。

このように、給付の対象とならない場合があるという弱点はあるものの、メリットは大きいので、中小企業の事業主には特別加入をお勧めします

そして、前に述べたように、中小企業主等及び一人親方が特別加入する場合は労働保険事務組合等を経由して申込をする必要があるところ、当事務所の弁護士も1人社会保険労務士に登録しており、社会保険労務士の有志により設立された労働保険事務組合である大阪SR労災」を通じて手続を行うことが出来ます。是非お気軽にご相談下さい。

なお、特別加入制度の詳細や手続の方法については、厚生労働省のHPをご覧下さい。

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