トップページ  >  連載  >  社会保険労務12

社会保険労務

平成25年2月21日

12.メンタルヘルスにまつわるお金の話

前回はメンタルヘルス対策について基本的な事柄をお話ししました。

今回は、それに絡んで、例えばうつ病で休職した場合あるいは退職した場合に従業員に対して支給されるお金の話をしたいと思います。従業員に対して説明するためには、最低限、次のような事柄は事業主としてきちんと理解しておきましょう。

まず、健康保険法により、被保険者が療養のため労務に服することができないときは、労務に服せなくなった日から起算して3日を経過した日(つまり4日目)から、「傷病手当金」が支給されます。

(1)傷病手当金が支払われるための要件は、以下のとおりです。

① 疾病又は負傷のため療養中であること

② 労務に服することができないこと

③ 労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過していること

また、支給のためには、報酬を受け取っていないことが必要です(報酬を受けていても傷病手当金の額より少ないときはその差額が支給されます)。

 

(2)こころの病の場合、復職しても再休職になる場合が少なくありません。

傷病手当金の支給を受けることができる期間は最大1年6ヶ月であるところ、一度こころの病で休業した従業員が復帰後、再び休業することになった場合でも、同一の疾病または負傷及びこれにより発した疾病に関してであれば、最初の傷病手当金の起算日から1年6ヶ月以内に限り、再度支給を受けることが可能です。

また、同一の疾病であっても、一旦治癒と認められてから相当期間経過後に発症した場合は、別個の疾病とみなされて支給される可能性もあります。

 

(3)また、残念ながら休職を経た後退職される方が多いことも事実です。

休職者が残念ながら復職できずに退職してしまう場合でも傷病手当金はもらえるのでしょうか。

この点、退職をすると健康保険の被保険者の資格を喪失してしまうのですが、

① 資格を喪失した日の前日までに引き続き1年以上被保険者であったこと

② 資格を喪失した際に傷病手当金の支給を受けていた、又は受けられる状態であること

の2つの要件を満たしていれば、支給を受けることができます。

よって、休職中も会社から給与をもらっていたために傷病手当金が支給されていなかったときでも、上記要件を満たしていれば、退職後傷病手当金の支給を受けることができます。退職時に有給休暇を取得していた場合でも同様です。

 

では、退職後も病気療養中の場合、社会保険(健康保険、厚生年金保険)はどうなるのでしょう

(1)退職後、すぐに別の会社に就職できる場合は、その会社で新たに社会保険に加入すれば良いのですが、再就職しない場合は、次の3つの中から選ぶことになります。

① 在職中の健康保険に引き続き加入する(=任意継続被保険者になる)

② 住所地の国民健康保険に加入する

③ 健康保険に加入している家族の被扶養者になる

それぞれの場合で、加入条件や手続窓口、保険料等が、以下の表のとおり異なります。

 
手続の窓口 本人の住所地を管轄する協会けんぽ(健康保険組合に加入していた場合は健康保険組合) 本人の住所地の市区町村役所 家族の事業所の所在地を管轄する年金事務所(健康保険組合に加入している場合は健康保険組合)
保険者 在職中に加入していた健康保険組合または協会けんぽ 住所地の市区町村 家族が加入する健康保険制度
保険料 全額自己負担 全額自己負担(扶養家族の分も) なし
保険料算出の基準 退職時の標準報酬か、 加入していた健康保険の全被保険者の標準報酬月額の平均額のいずれか低い額(※) 前年の収入など  
加入条件など 退職前の加入期間が2ヶ月以上
加入できる期間は2年間
ほかの健康保険に加入していないこと ・年収130万円(60歳以上は180万円)未満
・家族(被保険者)の年収の1/2を超えないこと
扶養配偶者がいる場合の手続 本人の被扶養者となる「被扶養者(異動)届」を提出 配偶者も国民健康保険の被保険者となる 配偶者以外の家族に扶養されている場合は、一緒に被扶養者になる

※ 協会けんぽの場合、退職時の標準報酬月額に保険料率(都道府県によって異なり、詳しくは、協会けんぽのHPでご確認下さい)をかけた額と28万円のいずれか低い額となります。

 

なお、③を選択した場合、退職後も傷病手当金を支給されている場合は、恒常的な収入とみなされ、被扶養者にならない場合があることに注意が必要です。被扶養者の認定基準については、こちらの連載をご参照下さい(→連載9.健康保険の「被扶養者」になれる人はどんな人?

 

(2)年金については、退職後は、国民年金の第1号被保険者になるか、配偶者の健康保険の被扶養者(第3号被保険者)になります。いずれも手続が必要で、前者の場合は保険料の納付が必要です。ただし、前年の所得が基準額以下である場合等は申請により承認を受ければ保険料の免除を受けることができます。

また、厚生年金の場合、退職後であっても、初診日に被保険者であり、初診日から起算して1年6カ月経過した日、あるいは1年6カ月以内にその病気やけがが治った場合(症状が固定した場合)はその日に定められた障害等級に該当する場合は、障害厚生年金が支給されます(障害等級が1または2級の場合は障害基礎年金も受けられます)。さらに、初診日から5年以内に治った場合(症状が固定した場合)に、定められた障害の状態にある場合は障害手当金(一時金)が支給されます。

休職中の従業員が退職する場合、雇用保険はもらえるのでしょうか。

雇用保険の1つである失業等給付を受けるためには、ハローワークに求職の手続をとる以外に、次の要件が必要となります。

① 離職の日からさかのぼった一定期間に次のⅰまたはⅱの被保険者期間があること

ⅰ 離職の日以前2年間に、被保険者期間が通算して12ヶ月以上あること。

ⅱ 倒産、解雇等により離職を余儀なくされた場合は、上記ⅰの要件を満たすか、あるいは、離職の日以前1年間に、被保険者期間が通算して6ヶ月以上あること。

被保険者期間の算定は、資格喪失日の前日から遡って1ヶ月ごとに区切った期間に賃金の支払の基礎となった日数が11日以上ある場合1ヶ月として計算します。

しかし、休職中の場合は通常賃金の支払がありませんので、その場合は、引き続き30日以上賃金の支払がなかった場合として、離職の日以前2年間(ⅱの場合は1年間)に、その日数を加算した期間(算定対象期間)に賃金の支払の基礎日数が12か月以上(ⅱの場合は6か月以上)あれば、上記①の条件を満たすことができるようになっています。

② 失業の状態にあること

失業とは被保険者が離職し、労働の意思及び能力を有するにもかかわらず、職業に就くことができない状態にあることをいいます。

そうすると、休職後退職をする場合、すぐには働けない状態なのが通常だと思いますので、「労働の能力」がないことになります。

しかし、受給期間の延長の手続きを行うことで、病気が回復し働けるようになってから受給することができます。 雇用保険の受給期間は原則として離職した日の翌日から1年間ですが、病気やけがなどの理由により引き続き30日以上働くことができなくなったときは、その働くことのできなかった日数だけ、受給期間を延長することができるのです。延長できる期間は最大限3年間となっていますので、その期間に病気が回復し働ける状態になっていれば、失業等給付を受給することができます

top