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社会保険労務

平成25年5月31日

16.労災が起きたらどうする?

先日、厚生労働省から平成24年の労働災害の発生状況が公表されました。

それによると、死亡災害、死傷災害、重大災害の数がいずれも増加し、特に、死傷災害と重大災害は3年連続の増加していることが明らかになりました。

具体的には、

(1)平成24年の死亡者数は1,093人で、前年比69人(+6.7%)増加です。

死亡者数が多い業種は、建設業、製造業、陸上貨物運送事業の順で、死亡者数の増加の多い業種は、建設業、製造業、商業の順でした。

 

(2)平成24年の労働災害による死傷者数(死亡または休業期間4日以上)は119,576人で、前年比1,618人(+1.4%)増加(東日本大震災を直接の原因とする災害を除く)です。

死傷者数が多い業種は、製造業、建設業、陸上貨物運送事業の順で、死傷者数の増加の多い業種は、保健衛生業(社会福祉施設、医療保健業等)、商業(小売業、卸売業等)、建設業、接客・娯楽業(飲食店、旅館業等)の順でした。

 

(3)平成24年度の重大災害(一時に3人以上の労働者が業務上死傷または病気にかかった災害)の件数は284件で、前年比29件(+11.4%)増加です。

ちなみに、平成25年度は、今後5年間で労働災害減少に向けて重点的に取り組む「第12次労働災害防止計画」の初年度にあたり、厚生労働省として様々な労働災害防止対策の強化を図る予定のようです。

労働災害補償保険法1条によると、によると、労災保険の給付は、①「業務上の事由」、または②「通勤による」負傷等の災害に限られています。

 
労働者災害補償保険は、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由又は通勤により負傷し、又は疾病にかかつた労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もつて労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。

しかし、この認定判断が難しい場合が少なくありません。様々なケースが想定されるのですが、この点はまた別稿でお話させていただくとして、ここでは、労災で従業員が怪我をした場合、事業主がどのような対応をとればいいのかについてお話しします。

労災による怪我が発生した場合、

(1)まずは怪我をした人の治療を優先して下さい。

そして、治療で病院に行く場合は、労災指定病院へ行くように指導します。その際、「労災で」治療を受けるとはっきり伝えさせて下さい。そうでないと、労災の場合、健康保険は使えないので、治療費を一時的に労働者が全額立て替えなければなりません(手続をすれば後から戻ってきますが手続が面倒ですし、一時的であっても労働者に金銭的負担を負わせることは避けるべきです)。会社としては、普段から労災指定病院を確認した上で、従業員に説明しておくようにしましょう

 

(2)次に、労災指定病院に対して、業務上災害の場合は「療養補償給付たる療養の給付請求書」(様式第5号)を、通勤災害の場合は「療養給付たる療養の給付請求書」(様式第16号の3)を、それぞれ提出します(これらの書式は、厚生労働省のホームページからダウンロードすることができます。)。これらの書面には会社と本人の押印が必要であり、いわゆる保険証の代わりになります。


 「療養補償給付たる療養の給付請求書」(様式第5号)

 

書面の作成にあたっては以下のデータが必要です。

会社の労働保険番号

被災労働者の氏名・住所・性別・生年月日・電話番号・職種

負傷の年月日・時刻

災害発生の事実を確認した者の職名・氏名

災害の原因及び発生状況

指定病院の名称・住所・電話番号

そのためにも速やかに事故の状況を把握することが必要です。具体的には、「いつ」「どこで」「誰が」「何をしていて(しようとしていて)」「何が原因で」「どうなったか」という事故発生の経緯及び内容と、「けがや病気の箇所」の確認、「その事故を確認した人は誰か」などを把握します。

できれば報告書などの書面であげてもらえれば良いでしょう。

なお、「傷病の部位及び状態」を記入する必要がありますが、労働者が入院して怪我の状態が把握出来ない場合は、病院に電話をして確認します(書面を送れば病院で記入してくれることも多いので、その場合はその旨依頼しておきます)。

 

(3)従業員が休業する場合は、所轄の労働基準監督署に「労働者死傷病報告」を提出します。これは休業期間や休業時期に応じて提出期限が異なります。

①4日以上休業した場合もしくは死亡した場合は、様式第23号を遅滞なく

②休業が4日未満の場合、様式第24号を

ⅰ 1月~3月の間に休業した場合は4月末日まで

ⅱ 4月~6月の間に休業した場合は7月末日まで

ⅲ 7月~9月の間に休業した場合は10月末日まで

ⅳ 10月~12月の間に休業した場合は1月末日までに

それぞれ提出しなければなりません(労働安全衛生規則97条)。

労働安全衛生規則97条:事業者は、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒により死亡し、又は休業したときは、遅滞なく、様式第二十三号による報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。
2  前項の場合において、休業の日数が四日に満たないときは、事業者は、同項の規定にかかわらず、一月から三月まで、四月から六月まで、七月から九月まで及び十月から十二月までの期間における当該事実について、様式第二十四号による報告書をそれぞれの期間における最後の月の翌月末日までに、所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。

この提出期限を守らないと労災隠しとみなされかねませんので、注意が必要です。


 「労働者死傷病報告」(様式第23号)

 

なお、休業1~3日目の休業補償は労災保険から給付されませんので、労働基準法で定める平均賃金の60%を事業主が直接労働者に支払う必要があります。

休業が4日以上になる場合で、休業中の給与の支払がない場合は、従業員が休業補償給付支給請求をすることになります。

 

(4)その後、事故が重大であると判断されると、労働基準監督署から「労働災害再発防止対策書」を提出するよう指導されることがあります。これは、主に、災害発生の原因や防止対策を報告するものです。従業員に対する注意喚起だけではなく改善策を具体的に示す必要があります。

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