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社会保険労務

平成27年10月31日

28.病気療養中の従業員を支える社内体制の整備

平成27年12月1日から「ストレスチェック」の実施が義務化されます。「ストレスチェック」のお話は以前させていただきましたので、こちらをご覧下さい。今後はますます会社としてメンタルヘルス対策が重視されます(過去のメンタルヘルス対策についての連載はこちらをご覧下さい)。

また、最近、有名人ががんになったり、がんで亡くなられるという報道によく接しますが、一昔前と比べてがんの生存率は高まり、また、通院での化学療法や放射線療法という選択肢も増えたため、就労しながら治療をされる方も増えています。

そういった精神障害やがんといった、病気を抱えながら働く従業員が増える中、今回は、安全配慮義務を負う会社として備えておくべき社内体制の整備について、3つのポイントをご案内させていただきます。

 

就業規則を整備しましょう

就業規則には、有給休暇や欠勤制度、休職制度、復職に関して規定しておくのは当然として(詳細はこちらへ)休職に至るまで、あるいは復職後の勤務に備えて、さらに以下のような制度について規定しておくのが良いかと思います。

短時間勤務制度

リハビリ出勤(試し出勤)制度

フレックス勤務制度

在宅勤務制度

時差出勤制度

 

(1)育児・介護休業法の改正により、3歳に満たない子を養育する従業員については、希望があれば利用できる短時間勤務制度を設けなければいけないことになっていますが、それとは別に病気療養者に対する制度としても設置を検討されると良いでしょう。

(2)リハビリ出勤制度は、職場復帰に向けて少しずつ時間をかけて出社や出勤の時間、日数を増やしながら、出勤に慣れていくようにする制度です。リハビリ出勤中であっても勤務を行う以上、給与の支払義務が発生します。その結果、傷病手当金を受給されている人の場合、支給が止められる可能性があるので、従業員によく説明しておくことが必要です。

(3)フレックス勤務制度とは、1ヶ月以内の一定期間(清算期間)における総労働時間をあらかじめ定めておき、労働者はその枠内で各日の始業及び終業の時刻を自主的に決定し働く制度で、労働者がその生活と業務の調和を図りながら、効率的に働くことができ、労働時間を短縮しようとする制度をいいます(労働基準法第32条の3)。

※労働基準法第32条の3:使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、又は就業規則その他これに準ずるものにより、一箇月以内の一定の期間を平均し一週間当たりの労働時間が前条第一項の労働時間を超えない定めをしたときは、同条の規定にかかわらず、その定めにより、特定された週において同項の労働時間又は特定された日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる。

参考までに、厚生労働省のHPに掲載されているモデル例をご覧下さい。

産業医との連携を図りましょう

産業医とは、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識を持った者をいいます。

常時50名以上労働者を使用する事業場では1人以上の産業医を選任する義務があります(50名未満の場合は努力義務)。常時労働者が1000名以上いる大企業の場合は専属(常勤)の産業医を選任する必要がありますし、3000人を超える事業場の場合は2人以上の選任が必要となります。

 

産業医は、基本的に治療行為は行いませんが、健康診断及び面接指導の実施とその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置(長時間残業労働者の面接)、作業環境や作業方法の改善指導、健康教育、職場復帰支援などを職務として行います。

病気療養中の従業員に対して、労務管理上の配慮が必要か、配置転換・異動等が必要か、復職可能か、といった各判断に当たって、情報共有や意見聴取を行っておくことは、非常に有益ですし、会社の業務に一定の理解を有する産業医の方が、従業員の主治医よりも的確な意見が期待できます(例えば、復職可能性の判断について、主治医は日常生活レベルを基準にしがちだが、産業医は当該職務遂行のレベルを基準に考える)。また、産業医と連携して意見を聴取しておけば、後に会社の決定を従業員から争われた場合に、判断の客観性を担保する大きな材料になり得ます。もちろん、主治医等外部の医療機関との連携も重要です。

産業医を探す場合は、近隣の病院や健診機関、健保組合等から紹介を依頼するなどします。産業医がいない小規模事業場の場合は、都道府県ごとに設置される地域産業保健総合支援センターや地域窓口(地域産業保健センター)などで医師等が原則無料で個別相談に応じてくれますので、該当する従業員に案内するようにしましょう。

健康情報の管理を徹底しましょう

休業や復職について判断するために、従業員から診断書を提出してもらうことがあると思いますが、その健康情報の取扱に注意する必要があります。

従業員に対して利用目的を明確にし、目的外利用を行う場合は事前に本人の同意が必要です。例えば、休業確認のために提出された診断書であれば、他の人事の処遇で利用することは許されません。また、従業員から提出された診断書の内容以外の情報について医療機関から健康情報を収集する必要がある場合は、事前にそれらの情報を取得する目的を従業員に明らかにして承諾を得るとともに、従業員経由で情報提供を受けることが望ましいです。

また、診断書がどのような経路で回り、その内容を誰が知るのかなど、社内での担当者の役割とルールをはっきりさせておくことが必要です。健康情報管理マニュアルを作成しておくのも一つの方法です。個人情報が勝手に独り歩きしないように措置を講じていることを従業員に周知しておけば安心感に繋がります。

なお、厚生労働省では、平成24年6月11日付で、「雇用管理に関する個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項」という通達を出していますので、ご参照下さい。

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