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社会保険労務

平成28年1月6日

29.人事制度(資格・賃金・評価制度など)の構築 ①~資格(等級)制度の基本 その1~

企業にとって人事に関する悩みは尽きないと思います。

従業員のやる気をアップさせたい、できるだけ人件費を抑えたい、何を基準に昇給額を決めれば良いか、賞与の額をどうやって決めれば良いかが分からない、賃金の昇給や人事評価の仕組みが分からないといった不満が従業員から出る、優秀な従業員が辞めていく、などなど、挙げればキリがないことでしょう。適正な人事制度を構築しておけば、それらの悩みを多少なりとも解消することができます。

人事制度は、経営の三要素「ヒト、モノ、カネ」のうち「ヒト」に関するものです。そして企業の発展にとっては、「ヒト」である従業員が意欲を持って、個々の能力・キャリアに相応しい業務を行い、さらにその能力を高めていくという、従業員の意識改革と組織力の強化が必要不可欠です。そのため、人事制度には、従業員が納得できる程度の公平性や透明性が求められ、また、従業員が積極的・意欲的に仕事や目標に取り組むことができ、企業としても従業員の能力育成を計画的に行う上で基準となるものであることが求められます。しかしながら、そのような効果的な人事制度のシステムを構築することはなかなか困難です。

そこで、今後数回にわたり、適正な人事制度の構築にあたり基本的な考え方について、お伝えしていきたいと思います。今回は第1回目として「資格(等級)制度」の基本についてお話いたします。

 

資格(等級)制度について

人事制度には、①資格(等級)制度、②賃金制度、③評価制度という大きな柱が必要となります(その他必要に応じて賞与制度、退職金制度なども整備)。その中でも、資格(等級)制度が人事制度の基本となり、資格(等級)に応じて、各人の仕事を割り当て(職務編成)、各等級に相応しい賃金が決定されます。また、資格(等級)が各人の評価を行ったり計画的な能力育成を実施する上での基準にもなります。よって、順序としては、資格(等級)制度をまず整備する必要があります

「資格(等級)制度」とは、社内の一定の基準に沿って社員を格付ける肩書をもうけ、様々な要素に基づいてその肩書を分類していく制度のことをいいます。

一般的には、社員の職務遂行能力のレベルに応じて等級を分類する制度を「職能資格(等級)制度」と呼び、仕事の責任や権限の大きさ、役割のレベル等に応じて社員を格付ける制度を「職務資格(等級)制度」「職責(等級)制度」「役割(等級)制度」などと呼びます。

 

例えば、職能資格(等級)制度の一般的なイメージは以下のようなものです。

等 級 定 義 初任格付 経験年数
(最短~標準~最長)
昇格基準 対応役職位
M-9
M-8
M-7
統率・開発業務
上級管理企画業務
管理企画業務
 

実績 部長
次長
課長
S-6
S-5
S-4
企画・監督業務
判断指導業務
判断業務
  3~5
3~4~10
2~3~8
能力 係長
主任
J-3
J-2
J-1
定型判断業務
熟練定型業務
定型補助業務
大卒
短大卒
高卒
2~3~5

勤続  

資格(等級)制度を整備するにあたっては、以下の事柄を明確にしておく必要があります。

① 資格等級の数

② 資格等級の名称

③ 資格等級の定義・基準

④ 資格等級への任用・昇格基準

⑤ 資格等級と役職位の関連づけ

⑥ 資格等級と賃金の連動方法

資格等級の数

資格等級の数が多すぎると、基準や定義が曖昧になり、最初の格付けやその後の評価が恣意的になったり、また、昇格の頻度が多くなり肩書きの重みがなくなる可能性があります。一方で、少なすぎると、同一等級内で従業員の能力格差が大きくなったり、昇格の頻度が乏しくなり従業員の意欲を損なう可能性があります。

そこで、一般的には、ジュニアクラス(J)、シニアクラス(S)、マネジメントクラス(M)と3つのレベルに大別します。

ジュニアクラスは、初歩的な教育や訓練を必要とする層で、業務内容も定型的あるいは若干の判断を伴うようなものが主となり、年齢層は新入社員から20代前半までの社員が中心となります。

シニアクラスは、ある程度主体的な判断や行動ができる層で、相応の責任や権限を付与され、高度な実施業務を独力で行えるレベルで、主任、係長までの役職をもつ社員で構成されます。

マネジメントクラスは、いわゆる管理職以上の能力やキャリアを有し、専門的で高度な知識・技能・経験が必要な業務を行う社員で構成されます。

そして、ジュニアクラスは高卒、短大卒、大卒に、シニアクラスは一般職、主任レベル、係長レベルに、マネジメントクラスは課長相当レベル、次長相当レベル、部長相当レベル、といったようにそれぞれ3段階に区分し、合計9つの等級区分を行うのが一般的です。ただし、例えば、高卒・短大卒の採用は行わない企業であればジュニアクラスを1段階のみにしたり、人材を早期に活用していく必要がある企業の場合はシニアクラスを2段階に、逆に業務が細分化されて専門性が求められる企業ではシニアクラスを4段階以上にした方が良い場合もあります。企業毎に、業種・業態や企業規模、労務構成の違いに応じた適正な等級区分を考えていくことになります

資格等級の名称

係長や課長といった役職には限りがあるため、従業員に平等に与えるというわけにはいきません。また、職務や業態が絶えず変化していく中では、役職を中心に人事管理していくことにも限界があります。そこで、資格(等級)制度では「資格(等級)」を中心に従業員を管理していくことになるわけですが、「資格(等級)」の名称も従業員の「肩書き」に相応しいものにする必要があります

例としては、「1等級、2等級・・・9等級」「・・・主事、参事、参与・・・」「初級社員、中級社員・・・係長格、課長格・・・」「スタッフ、アシスタントディレクター、ディレクター・・・」などが挙げられます。

 

資格等級の定義・基準

従業員の職務編成や賃金等の処遇決定、評価などの基準となる以上、資格等級の定義や基準を明確にしておくことが必要不可欠です。また、恣意的な割当や評価を防ぐ意味でも、資格(等級)の定義や基準をどこまで明確にできるかが、適正な資格(等級)制度の肝といっても良いでしょう

上記例で示した表の中の定義では、簡単すぎるので、実際は、職種別・等級別に分類した「職能要件書」を作成した上で、より具体的な定義を設定することになります。

次回は、職能要件書の作成方法と、資格(等級)制度の整備に必要なその他の項目についてお話させていただきます。

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