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社会保険労務

平成28年9月6日

30.人事制度(資格・賃金・評価制度など)の構築 ②~資格(等級)制度の基本 その2~

資格等級の定義・基準(続き)

前回は、資格等級の定義や基準を明確にするために、「職能要件書」の作成が必要だと申し上げました。そこで、今回はまず「職能要件書」の作成についてお話しさせていただきます。

(1)「職能要件書」とは、資格等級制度における資格等級の内容をより明確に規定した基準書です。

その中身は、どの程度の仕事ができなければならないかを表した「習熟要件」と、どのような教育や自己啓発が必要かを表した「修得要件」を記載することが一般的です。

[職能要件書のイメージ]

等 級 習熟要件 修得要件
6等級 ○○の仕事が独力でできる
△△の企画計画ができる
□□の管理が完全にできる
「よく分かる○○」
(△△著、□□出版)
「○○検定2級」
5等級 ○○の仕事が独力でできる
△△の企画計画ができる
□□の管理が完全にできる
「○○概要解説」
(△△著、□□出版)
「○○検定3級」
「○○研修コース」(△△主催)

まず、「習熟要件」は、どういう仕事が十分にできるようになっていれば、○等級の能力が習熟したと判断できるか、というように具体的な仕事内容を挙げて明示することになります。仕事内容は職種別あるいは等級別に異なりますので、職種別・等級別に詳細な定義を記載して職能要件書を作成する必要があります。また、具体的なイメージを喚起するために、例えば「○○の管理」といった抽象的な名詞にするのではなく、「~を実行する」「~を作成する」「~を調整する」など、具体的な動詞で表現する方が良いでしょう。

次に、「修得要件」は、○等級に必要な勉強方法、知識・技能の内容、資格、自己啓発、研修といった事項を記載しますが、何を勉強すれば良いのか、どんな本を読めばいいのか、どんな研修を受ければ良いのか、などを具体的に記載することが望ましいでしょう。

(2)職能要件書は、概ね以下のような手順を経て作成します。作成には半年~1年程度の期間をかけることが一般的です。

職場で実際に行っている仕事を、役割や要素の違いに着目しながら、ざっと書き出してみる(日常業務、企画開発業務、管理指導業務といった類型ごと)
①で書き出した仕事が、どの程度のレベルの仕事なのかを設定する
①で書き出した仕事を、②のレベル(資格等級)ごとに分類・整理する
その際、援助を受ければできる(OJTやマニュアル等により業務ができる)レベル、独力でできる(定められた範囲内ですべての作業、業務ができる)レベル、完全にできる(下級者に対してOJTを行ったり指示を行うことができる)レベルなどの段階を考慮して分類・整理する。
資格等級別の仕事の期待基準はどの程度か考え、習熟要件・修得要件を明記する

(3)職能要件書は、そろそろこの仕事を担当させてみようといった具合に、個々の従業員の能力レベルにあわせた職務編成を行う際の目安になりますし、従業員に仕事を分担・指示させるときの基準にもなります。また、人事考課における評価基準の統一化を図ることもできます。一方、従業員にとっては、特定の仕事を任せてもらえるようになるために勉強しておくべき内容が明確になることで昇格に向けての目標が立てやすくなり、自己啓発に繋がります

職能要件書は、職務編成、人事考課、昇格管理等の重要な基準となり、計画的・納得性が高い運用が可能となりますが、せっかく作成しても活用しなければ意味がありません。また、仕事内容の変化、組織変化、ビジネスツールの変化等に応じて2~3年ごとの見直しは必要となります。

資格等級への任用・昇格基準

次に、従業員をどの資格等級に格付けするかの基準を明確にしておく必要があります

前回述べたような9段階に等級を分け、ジュニアクラス(J)、シニアクラス(S)、マネジメントクラス(M)と3つのレベルについて各3段階ずつに区分する場合、高卒者は1等級から、短大卒は2等級から、大卒は3等級からと決めるのが一般的です。

中途採用者の場合は、一時的に等級を「仮決定」しておき、職務遂行の状況や人事考課の結果を1~2年程度分析した上で見直しを図る方法が良いでしょう(そのため仮格付けではあまり高い等級は避けるようにします)。

なお、3等級の従業員だから3等級の業務しか行わないということではありません。「主たる業務」「主たる目標」を中心に考え、職務編成はフレキシブルに行う必要があります。

 

また、従業員の成長にともなって資格等級の格付け見直しをどう図るかのルール作りも重要です。そのためには人事考課だけでなく(人事考課は仕事遂行に対する事後評価であり私生活上の行動は含まないといった限定した評価方法であることに留意)、他の要素も加味して決定することが望ましいといえます。

 

具体的には、①最短必要年数、②人事考課の実績、③履修要件、④上司推薦、⑤面接、などを要素として基準を作成します。

そして、厳格な管理を行うためにも、昇格させるか否かは慎重に判断し原則として降格は行わないような運用が望ましいといえます。

資格等級と役職位の関連づけ

資格等級と役職位は必ずしも一致するものではありません。資格等級における昇格と、役職位における昇進も意味合いは異なることを理解しましょう。

昇格とは、上位の資格等級に格付けられることをいい、能力や実力の格付け・認定のレベルアップです。一方、昇進とは、上位の役職位に格付けられることをいい、組織の状況に応じて人材を活用する配置であり、仕事の役割や求められる責任の範囲が変わることになります。その他、昇格は従業員の職務遂行能力を事後評価することが中心となりますが、昇進の場合は、上位の役職について新たな管理や企画等の仕事を担当することになることから、マネジメント能力や適性などの事前評価が中心となるといった違いがあります。

昇 格 昇 進
処遇上の肩書き 仕事上の役割・配置
降格なし 降職あり
定員なし 定員あり
事後評価 事前評価
大抜擢はなし(1等級ずつ) 大抜擢あり

従業員の管理にあたっては、このような資格等級における「能力・実力の認定」と役職位の「適性配置」が不可欠であり、昇格と昇進をしっかり分けて管理することが求められます。

資格等級と賃金の連動方法

資格等級制度は、賃金決定や賞与額など、処遇への反映を適切に行う基準にしていく必要があります。

詳細は、次回「賃金制度の構築」の中で、ご説明いたします。

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