トップページ  >  連載  >  社会保険労務33

社会保険労務

平成29年3月4日

33.人事制度(資格・賃金・評価制度など)の構築 ④~賃金制度の基本 その2~

前回までは、賃金制度のうち年齢給の設計方法についてお話させていただきました。

今回は、職能給の概要について見ていきたいと思います。

前回お話したとおり、職能給には、習熟昇給と昇格昇給の2種類があります。

習熟昇給とは同一等級内での昇給を指し、昇格昇給とは1つ上の等級に昇格することでの昇給を意味します。

そこで、1つの等級におけるその範囲(最初の賃金と昇給金額、上限金額)を決定し、さらに等級があがることによりいくら昇給するのか(昇格昇給)を決定する必要があります。

例えば、1等級の最初の賃金(初号賃金)については、高卒初任給の金額から18歳の年齢給を引くといった算出方法で設定します。

同一等級であっても、仕事の遂行能力は、習熟を重ねることによって高まっていくと考えられるので、初号賃金と上限賃金との間に幅を設けることが現実的であり、原則として、1つの等級の中において、初号賃金を下回る賃金、あるいは、上限賃金を超える賃金は認めないことになります。

そこで、各等級間の範囲をどう接続させるかが問題となります。これは、各等級の初号賃金と上限賃金との間の幅をどの程度設定するかの問題にも関連します。幅が小さいと、ある等級の上限賃金と次の等級の初号賃金との間に差が生じる(下図パターン①)あるいは、同じ(下図パターン②)となり、幅が大きいと、一部重なりが生じることになります(下図パターン③)

上位等級と下位等級に差をつけるべきと考えると、パターン①あるいは②を採用することに繋がりますが、各等級の幅が小さくなるため、すぐに昇給の上限に達してそれ以上は金額が上がらなくなってしまい、上位等級への昇格が順調に進む人でないと(特に、大器晩成型の従業員にとっては)、昇給についての期待感・満足感を与えることが困難となります。また、年数を経ればそれなりに経験を積み習熟を重ねるため昇給が続くと考える従業員の抵抗感をなるべく抑えるためには、パターン③(重複型の接続)を採用するのが合理的です(実際、中小企業の多くはパターン③を採用する場合が多いようです) 。

次に同一等級内の昇給の幅をどうするかも考えなければなりません。同一等級内にとどまる限り昇給額は一定とするか、年数に応じて差をつけるか、という問題です。

会社の事業との関係で判断されることになりますが、一般的に、年数を重ねているのに同一等級にとどまるということは、能力の成長が停滞しているからと考えられるので、年数が長くなるにつれ昇給額を小さくするか(逓減型)、従業員の公平性、納得性を考えて一定とするか(一定型)、のどちらかを採用するのが通常でしょう。

最後に、異なる等級間で昇給幅をどのように設定するか、つまり、上位等級と下位等級とで昇給幅をどのように変えるか、という問題があります。従来は、上位等級ほど賃金を高く設定するために昇給幅を大きくするという考え方(「逓増型」)が一般的でした。しかし、下位等級は一般的に年齢も若く伸びしろが大きい人が多く、また、習得すべき技能がより基本的なので、その分習熟度合いは大きくなるという理由で、上位等級になるにしたがって昇給幅を小さくするという「逓減型」が理論的であるともいえます。また、「逓増型」を基本としつつ、上位等級はより結果が求められたり責任が大きくなり、その分習熟度のウエイトが小さくなるという考えから、特に成果主義的な考え方を採用する企業などでは、上位等級は成果を重視する代わり昇給幅は小さくするという「S字型」というべき考え方で設計する事例も増えているようです。

 

次回は、賃金制度の基本の続きとして、賃金表の種類や運用、新賃金表への移行の際留意すべき点などについて説明いたします。

top