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社会保険労務

平成29年5月8日

35.人事制度(資格・賃金・評価制度など)の構築 ⑥~評価制度の基本 その1~

前回までは、資格等級制度及び賃金制度の概要についてお話させていただきました。

今回は、最後の項目である評価制度について見ていきたいと思います。

はじめに(評価制度人事考課とは)

会社が事業活動を行うにあたっては、全従業員に、会社の経営理念や企業戦略を理解してもらい、与えられた職務内容における各々の役割を把握してもらい、設定された目標に向けて能力を最大限に発揮してもらうことが重要です。そのためには、会社が各従業員に対して期待している人材像を示し具体的な職務内容を指示するとともに、各従業員が行う個々の具体的な仕事について適正な評価(人事考課)を行う必要があります。つまり、人事考課は、従業員の能力及び適性を評価することで、昇進や異動など人材活用に役立てるとともに、昇格や昇給、賞与への反映といった公正な処遇を行うことで、モチベーションを維持・確保すること、また、各従業員の能力を把握した上で適切な指導・教育を行うなど効果的な人材育成に繋げることができるという役割を担うことになります。

重要なことは、人事考課とは、従業員である「人間」のランク付けのために行うものではなく、その従業員の行う「職務活動」を評価することであり、従業員間に差をつけること自体が目的ではない、ということです。いわば、職務活動についてのカルテを作成する作業といえます。

人事考課を行うにあたっては、評価の方法が大きな問題になりますが、そこにはいくつかの選択の場面があり、正しい評価を行うためには適切な選択が必要となります。①従業員のどの行為・言動等を人事考課の対象にするか、という「対象」選択の場面、②評価対象をどういう要素に結びつけて評価するのか、という「要素」選択の場面、③会社が求める基準による評価尺度にあてはめてどのようにランク付けを行うか、という「評価段階」選択の場面、です。

以下、それぞれの場面について解説します。

「対象」の選択について

 

まず、従業員のどのような行為・言動が人事考課の対象になるのかを適切に選択する必要があります。人事考課は、飽くまで従業員の職務活動を評価するものですから、勤務時間内、対象期間内の行動に限られ、私生活や職務に関係のない行動、職務対象期間外の行動などは対象になりません。よって、過去の人事考課の結果は考慮しません。また、職務活動が対象ですから、属人的な要素(性別、学歴、経歴、勤続年数など)を排除して評価します。

例えば、

「資格等級が高いのにルーティンワークしか担当したがらない」

「担当業務に関連した資格取得を目指して熱心に勉強している」

「上司への報告・連絡・相談を怠る」

などは評価対象になりますが、

「以前所属していた部署での上司の考課が非常に低かった」

「勤務時間外に行われる職場の懇親会にいつも参加しない」

「人柄が明るく性格も温厚だ」

といった事実は評価対象にはなりません。

このほか、「飲酒運転で逮捕されてしまった」という事実も、懲戒処分の対象になりうるとしても、業務時間外の行動であれば人事考課の対象にすべきではありません。

 

「要素」の選択について

人事考課を行う上で、職務上どのような結果を残したか、という観点は重要です。しかし、結果だけ良くても、職務に対する取り組み姿勢が悪ければ、職場環境を乱し他の従業員にも悪い影響を与えることになりますし、結果は様々な諸条件(景気や天候、競合会社の動向など)によっても左右されることがあるため、一時的に好結果でも、そもそも職務に必要な能力を備えていなければ安心して仕事を任せることができません。

そこで、仕事の達成度に対する「成績考課」、取り組み姿勢に対する「情意考課」、職務遂行能力に対する「能力考課」の3つの観点から分析的な評価を行うことが重要です。そして、人事考課を行う者によって恣意的な評価が行われないよう、各考課において、どの「要素」を評価対象とするかを明確化しておかなければなりません。

以下、各考課について見ていきます。

(1)「成績考課」

「成績考課」は、レベルや内容にかかわらず、職務内容や責任をどれだけ遂行できたか、つまり、やるべきことが出来たかどうか、という「結果」を評価します。

一般的には仕事の「量的側面」と「質的側面」という2つの観点から総合的に評価することになりますが、この2つの要素だけだと、考課者によっては特定の職務内容のみを取り出して評価してしまいがちで他の業務の評価を落としてしまう危険性がありますので、できるだけ適正な評価を行うために、職種別にある程度考課要素を細分化しておく方が良いでしょう。

例えば、事務系や営業系などに分けます。

そして、事務系であれば、総業務量、時間当たりの業務量、業務手順の適正さ、業務の正確さ、業務の迅速さ、備品等の管理、スケジュールの遵守度、企画・工夫の程度、などといった要素ごとに見ていきます。営業系であれば、売上高、利益率、市場開拓、営業企画・営業事務などの各要素によって判断します。

[成績考課の一例]

事務系 営業系
総業務量 全体の処理業務の量はどうか 売上高 どの程度の売上高があったか
時間当たりの業務量 一定期間における業務遂行スピードはどうか 利益率 どの程度の利益率を達成できたか
業務手順の適正さ 業務遂行の手順は適正に行われていたか 市場開拓 どの程度市場を開拓することができたか
業務の正確さ 業務遂行の結果にミスやトラブルがなかったか 営業企画 営業活動についての企画の立案の有無とその内容の出来映えはどうか
備品等の管理 業務遂行に必要な備品や工具・器具の保管、管理は適切に行っていたか 営業事務 営業活動に必要な事務作業遂行の適正さ、正確さなどはどうか
スケジュールの遵守度 指示されたスケジュールを遵守して処理をしたか    
企画・工夫の程度 企画の立案や、業務遂行を効率よく行うための工夫や改善の有無、内容の出来映えはどうか    
 

次回は、「情意考課」と「能力考課」についてお話しします。

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