トップページ  >  連載  >  社会保険労務37

社会保険労務

平成29年7月4日

37.人事制度(資格・賃金・評価制度など)の構築 ⑧~評価制度の基本 その3~

前回は、「要素の選択」の場面から、「情意考課」と「能力考課」についてお話いたしました。今回は、「評価段階の選択」についてお話しします。

「評価段階」の選択について

会社が求める基準による評価尺度にあてはめてどのようにランク付けを行うか、という「評価段階」選択の場面についてお話しします。

(1)まず、考課を行うにあたって、「絶対考課」と「相対考課」のいずれを採用するかの方針を決定することが必要です。どちらを採用するかは企業によって異なりますが、予め決めていくことが絶対条件です。

「絶対考課」とは、事前に目標基準を確認しておき、その基準を上回ったか下回ったかで評価することをいいます。例えば、80点以上はSランク、60~79点はAランク、41点~59点はBランク、15点~40点はCランク、14点以下はDランクというように考課する方法です。成果や業績を重視して人事を行う企業では、この絶対考課が大半を占めています。

一方、「相対考課」とは、目標基準は明確にせず、結果を見て他の人と比べてどうだったかによって評価することをいいます。例えば、上位から点数順に並べて、上位10%をSランク、その下20%をAランク、その下30%をBランク・・・というように考課する方法です。この方法では、良い成果を上げてもさらに良い成果を上げた社員がいれば評価されないこともありますし、逆に結果は十分でなくても他の社員の結果も悪ければ評価も悪くならないことがあります。

相対考課を採用し、従業員同士の競争意識を高めた方が良い成果に繋がる場合もあるため、どちらの考課方法が良いかは一概には言えませんが、相対考課では恣意的な評価に陥りやすいという点は注意する必要があります。そこで、以下は基本的に「絶対考課」を前提にご説明します。

 

(2)絶対考課の場合は、統一した明確な評価基準(ものさし)を事前に設定しておくことがとても重要です。この基準は考課対象となる要素によって変わります。

成績考課は、職務を基準とします。各従業員の業務の達成度(指示された仕事の結果が指示した通りの目標を達成しているか)が基準になりますので、資格や役職レベルを考慮して適切な目標基準を設定することになります。

情意考課は、従業員を基準とします。各従業員について、社員として全社員共通に当たり前に求められる意欲や姿勢を有しているか、社員として期待される言動を行っているか否かが基準になります。

能力考課は、等級を基準とします。等級レベルに応じてどの程度の能力が求められるか、資格等級別の職能要件書の充足度(等級レベルに求められる期待値)が評価の基準となります。

なお、具体的な基準内容については、面接等を通じて予め考課者と被考課者が確認しあっておくことが望ましいです。

(3)考課は事実に基づき分析的に行います。例えば、以下のような事例の場合、各考課要素において注目する事実が異なります。

[例1] 一生懸命に業務に取り組んだが、経験不足のため失敗した

→ 成績考課:「失敗した」

情意考課:「一生懸命やった」

能力考課:「経験不足のため失敗した」

[例2] 能力が十分に発揮された結果、業務は期限内に終わったが、ケアレスミスが目立った

→ 成績考課:「期限内に終わったがミスが多かった」

情意考課:「注意力に欠けた」

能力考課:「能力は十分だった」

 

(4)評価の方法ですが、基本は、予め統一化・明確化した考課基準となる目標を「上回った」「(概ね)目標通り」「下回った」の3段階で評価します。上回る結果であればプラスの考課、下回る結果であればマイナスの考課となります。そして、上回る、あるいは下回る場合、その程度が少しか大きいかの判断は比較的容易ですので、さらに2区分で評価することが可能です。つまり、良いと悪いを2つの区分にわけて全部で5段階で評価することが一般的です。これ以上評価を細分化すると、抽象的・感覚的な評価になり、恣意的評価に陥りやすいので、5段階が限度ではないかと思います。

具体的には、

S:期待を大きく上回った(上位等級者でも申し分のない成果、能力であった)

A:期待以上の成果、能力であって申し分なかった

B:少々のミスや問題はあったが業務遂行には支障なく概ね期待通りであった

C:ミスや問題はあったものの辛うじて業務の遂行ができたが期待を下回った

D:ミスや問題が多く、業務遂行に支障を来したため期待を大きく下回った

の5段階で評価します。

なお、「業務遂行に支障を来した」とは、例えば、業務計画の修正・変更を余儀なくされた場合、業務を指示した上司が責任を問われるような場合、顧客などとの関係に影響が生じた場合、同僚や周りの業務遂行にかなりの影響が出た場合などを指します。

 

評価段階の例(情意考課の場合)

 
規律性 規律の遵守は素晴らしく他の社員の模範になるほどだ 規律の遵守は非常に良好で信頼できた 規律の遵守は標準的で問題は見られなかった 時々規律について注意や問題となることがあったがすぐに改まった 規律に関する注意や問題が多く、なかなか改まらなかった
協調性 進んで協調を心がけ上司や同僚の信頼も大きく、業務遂行に多大な貢献があった 協調を心がけ円滑な業務遂行に貢献した 協調姿勢は標準的で大きな問題は見られなかった 協調に関心が低くときどき自己中心的な言動が見られた 自己中心的で協調姿勢がほとんど見られなかった
積極性 常に自主的に会社や組織の効率化を求め、自己啓発も積極的に行っていた 会社や業務の効率化に取り組み、自己啓発も進んで行っていた 業務の問題点の改善に取り組み、自己啓発も行っていた 業務遂行の改善に向けた工夫が見られず、自己啓発も消極的であった 業務遂行の改善には無関心で、自己啓発もほとんど取り組んでいない
責任性 自身の役割を十分に理解し、業務の達成に最善を尽くす姿勢が見られた 自身の役割を理解し、業務の達成に向けて努力する姿勢が見られた 真面目に業務に取り組む姿勢を見せていた 業務に対する取り組み姿勢が消極的で達成意欲が低い 業務に対する取り組み姿勢に問題があり注意を要する

(5)なお、考課者が陥りやすい誤りとして、以下のようなものが挙げられますので、考課時にはこのような誤りを起こさないように意識しておくことが必要です。

① ハロー効果

評価対象の従業員について、特別印象の深いエピソードや、評価項目の1つが著しく優秀(あるいは拙劣)であるといった特定の事実に引っ張られて評価してしまうことをいいます。考課者1つの項目の評価が他の項目の評価に影響を及ぼすことのないように、評価のルールをしっかりと理解すること、冷静な分析的評価を意識することが重要になります。

② 寛大化・過少化傾向

考課者の好き嫌いによって甘くつけたり厳しくつけたりしてしまうことです。事前に客観的な評価基準を設定しておき、その基準に沿ってぶれずに評価することが重要です。

③ 中央集権化傾向

考課者によっては、SやDといった評価を避けようとするクセがあり、安定を求めて評価を真ん中に集める傾向がある場合があります。考課者1人1人が、人事考課の目的やその重要性を自覚することが必要です。

④ 論理的誤差

考課者が事実をしっかりと確認あるいは分析せず、「判断力が悪いから企画力も悪いだろう」「積極性が高いから責任感も強いはず」などといった思いこみで評価してしまうことです。考課者には、各要素の定義をしっかりと理解し、常日頃から判断の対象となる事実を確認し、その原因分析を意識しておくことが要求されます。

⑤ 対比誤差

考課者自身を基準において、自分ならどうかといった観点で評価してしまうことです。上司と比べると部下の考課はどうしても不利になってしまうので適切な評価とは言えなくなります。上司と部下の目標の共有化を徹底し評価基準を再確認するといった対策が必要となります。

 

以上です。続きはまた次回お話しします。

top