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社会保険労務

平成30年9月6日

45.働き方改革関連法について(その2「労働時間法制の見直し①」)

前回に引き続き、働き方改革関連法により改正された内容のご紹介をいたします。

今回は、労働時間法制の見直しのうち「残業時間の上限規制」及び「フレックスタイム制の拡充」をご案内します。

なお、労働時間法制の見直しに関する施行は2019年4月1日です(なお、中小企業における残業時間の上限規制の適用は2020年4月1日、月60時間超残業の割増賃金率引き上げの適用は2023年4月1日となっています)。

残業時間の上限規制

(1)改正の概要

<改正前(現状)>

法律上、残業時間の上限はありません。

原則月45時間、年360時間までの残業が認められ、さらに特別条項付の協定を締結することで、限度時間を上回る残業がどこまででも可能です(但し、行政指導により、限度時間の延長ができるのは1年間で6ヶ月までと決められています)。

 

<改正後>

法律で残業時間の上限が定められ、これを超える残業ができなくなります。

原則:月45時間、年360時間

(1年単位の変形労働時間制の場合は月42時間、年320時間)

例外(臨時的な特別な事情があり労使の合意がある場合):

①年720時間以内

②2~6ヶ月平均で80時間以内(休日労働含む)

③月100時間未満(休日労働含む)

を超えることができない

また、④月45時間を超えることができる月は年6ヶ月まで

違反する場合は罰則も科されます(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)。

但し、以下の事業や業務には、上限規制の適用が猶予あるいは除外されます。

自動車運転の業務 改正法施行5年後(2024年4月1日)に上限規制を適用。
但し、適用後の上限時間は年960時間とする。
建設事業 改正法施行5年後(2024年4月1日)に上限規制を適用
但し、災害復旧事業については2~6ヶ月平均80時間以内、月100時間未満の要件は適用しない。
医師 改正法施行5年後(2024年4月1日)に上限規制を適用
但し、医師の労働時間規制の具体的な在り方等については、今後検討の上、厚生労働省令で定める。
新技術・新商品等の研究開発業務 上限規制は適用しない
但し、医師の面接指導や代替休暇の付与等の健康確保措置を設けることが必要(労働安全衛生法の改正による)。

その他、労働基準局長が指定する業務として、鹿児島県及び沖縄県における砂糖を製造する事業については、施行日から5年間は、一部上限規制を適用しないこととされています。

 

(2)改正前も後も、従業員に時間外・休日労働をしてもらう場合には、予め、使用者と労働者の過半数で組織する労働組合あるいは労働者の過半数代表者との間で書面による協定(いわゆる「36協定」)が必要であるとの基本的な枠組みは変わりません

ただし、36協定の具体的な様式は変更になり、記載事項が若干変わります。このたび、労働政策審議会(労働条件分科会)で示された新しい様式案がHP上で示されましたが、正式な様式は近い内に公表される予定です。また、月45時間以内、年360時間以内という原則にできるかぎり近づけるための努力を求めるため、労働時間の延長や休日労働の適正化についていの指針を厚生労働大臣が定めることとされています(なお、中小企業に対しては、労働時間の動向、人材確保の状況、取引の実態等を踏まえて助言・指導を行うよう配慮することとされています)。

36協定の改正の主なポイントは以下のとおりです。

特別条項を設ける場合と設けない場合の2つの様式が用意される(特別条項を設ける場合は、限度時間までの時間に関する1枚目と特別条項に関する2枚目の2枚組となる)。
時間外労働及び休日労働を合算した時間数は、1ヶ月について100時間未満でなければならず、かつ2箇月から6箇月までを平均して 80時間を超過しないことというチェックボックスが設けられる。
特別条項を設ける場合の様式には「限度時間を超えて労働させる場合における手続」、「限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置」を記載する欄が設けられる。

さらに、限度時間を超えた労働にかかる割増賃金の率も記載する必要がありますが、今回の改正により、中小企業において、月60時間を超える残業の割増賃金率が引き上げられることになりましたので注意が必要です(25%→50%、施行は2023年4月1日)。

  1ヶ月の時間外労働
60時間以下 60時間超
大企業 25% 50%
中小企業 25% 50%(現在は25%)

(3)原則となる月45時間の残業とは1日に2時間程度残業を行うイメージです。また、例外となる複数月平均80時間の残業とは1日に4時間程度残業を行うイメージです。会社としては、法律違反とならないように時間外労働をこれらの時間に収めるように組織・体制作りを行う必要があります。なお、会社による各従業員の残業時間チェックが重要であることは言うまでもありませんが、その上で注意すべきことは、改正後の残業時間の上限の例外のうち、①年720時間以内は休日労働を含まないのに対し、②複数月平均80時間以内及び③月100時間未満は休日労働を含む、という点です。つまり、法定休日を含む場合と含まない場合のそれぞれについて労働時間の管理が必要となります。

また、時間外労働の改善を取り組むにあたっては、「時間外労働等改善助成金」と新しく名称を変え、助成内容を拡充した助成金が用意されています。会社の取り組みにかかる経費の一部を支給するもので、「時間外労働上限設定コース」「職場意識改善コース」「勤務間インターバル導入コース」といったコースが用意されており、今年度から上限額を最大150万円に引き上げたり、一定の要件をみたした場合に助成率を4分の3から5分の4に上乗せしたり、といった拡充を行っています。詳しくは厚労省のHPをご覧下さい(中ほどに各助成金への案内が紹介されています)。

 

フレックスタイム制の拡充

フレックスタイム制とは、一定期間内において一定時間数労働することを条件として、1日の始業・終業時刻を従業員が自由に決定することができる制度です。導入には、就業規則等への規定と、労使協定による定めが必要です(労基署への届出は不要)。

フレックスタイム制を利用するにあたっては、対象従業員の範囲や清算期間(=労働契約上、労働者が労働すべき時間を定めた期間で、実際に労働した時間と清算するための期間)、清算期間中の総労働時間、標準となる1日の労働時間、コアタイム(=従業員が必ず勤務しなければならない時間帯)及びフレキシブルタイム(=従業員が選択により労働することができる時間帯)を定める必要があります。

 

(例:厚生労働省HP「フレックスタイム制とは」より引用)

今回の改正では、その清算期間が長く認められるようになりました

<改正前(現状)>

清算期間:1ヶ月以内

<改正後>

清算期間:3ヶ月以内

 

改正前の清算期間は1ヶ月以内であるところ、賃金支払期間にあわせて1ヶ月とする会社が多かったと思いますが、例えば、フレックスタイム制を採用し、法定労働時間=所定労働時間となっている会社で、6月に法定労働時間より30時間超えて働き、8月に所定労働時間より20時間少ない時間しか勤務していなかった場合、6月は30時間分の割増賃金を支払う必要がある一方で、8月は20時間分を欠勤扱いとなっていました。ところが、清算期間を3ヶ月とすることで、6月に働いた時間分を8月の休んだ時間分に振り替えることができるようになります。

 

子育て中の親にとっては、子どもが夏休みとなる8月の労働時間を短くすることで、子どもと過ごす時間を多く確保することが可能になるなど、子育てや介護の生活上のニーズに合わせて柔軟に労働時間を決めることができるようになります。

すでにフレックスタイム制を導入している会社は、就業規則等の変更を検討する必要があるでしょう。

 

次回は、働き方改革関連法その3として、その他の「労働時間法制の見直し」についてご紹介します。

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