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社会保険労務

平成30年10月15日

46.働き方改革関連法について(その3「労働時間法制の見直し②」)

働き方改革関連法についての連載第3回目は、「労働時間法制の見直し」の続きをご紹介いたします。

なお、労働時間法制の見直しに関する施行は2019年4月1日です(但し前回ご紹介した残業時間の上限規制の中小企業における適用は2020年4月1日、月60時間超残業の割増賃金率引き上げの適用は2023年4月1日となっています。

年5日の年次有給休暇の取得を企業に義務付け

<改正前(現在)>

従業員が自ら申し出なければ有給休暇を取得できない。

 

<改正後>

10日以上の年次有給休暇が付与されている従業員に対して、その希望を踏まえた上で、うち5日について、毎年会社が時季を指定して与えなければならない

 

今回の改正の背景には、従業員からは有給休暇の希望申し出がしにくく、わが国の年次有給休暇の取得率が49.4%と半分にも満たないという現状があります。

会社としては、各従業員の有給休暇の取得状況を確実に把握することが重要になります。今回の改正により、従業員の有給休暇の管理簿の作成が義務づけられ、最低3年間は保存しなければなりません。

この点、従業員が時季を指定し取得した日や計画的付与により取得した日を年5日に含めて良いことになっていますので、計画的付与制度(労働基準法39条6項)の利用も検討されると良いと思います。有給休暇の計画的付与制度とは、年次有給休暇の5日を超える部分について、労使協定により予め取得日を決めておく制度です。かかる制度を日頃から活用していると、例えば、退職する従業員から、残っている有給休暇をすべて取得した上で退職したいと言われた場合に、引き継ぎ等の支障を最小限に抑えることができるので、非常に有益です。

 

月60時間を超える時間外労働について割増賃金率の引き上げ

2010年、時間外労働が月60時間を超える場合、賃金の割増率を5割以上とする改正が行われましたが、中小企業(=)については負担が大きいため適用を猶予されていました。前回の連載でも言及しましたが、今回の改正では、かかる猶予措置を終了させ、中小企業にも月60時間を超える時間外労働について5割以上の割増率が適用されることになります。但し、施行は2023年4月1日と、他の改正に比べて遅くなっています。

  1ヶ月の時間外労働
60時間以下 60時間超
大企業 25% 50%
中小企業 25% 50%(現在は25%)

なお、5割の割増賃金のうち2割5分の代わりに有給休暇を付与するという制度(代替休暇)を労使協定により設けることもできます。

施行は少し先になっていますが、多くの中小企業について、就業規則の改正といった対応が必要になると思われますのでご留意下さい。

 

「高度プロフェッショナル制度」の新設

自律的で創造的な働き方を希望する人が、高い収入を確保しながらメリハリのある働き方をできるように、本人の希望に応じた自由な働き方の選択肢を用意するという目的で、一定の場合に、時間ではなく成果でその働きを評価する制度が新設されました。

かかる制度の対象となると、36協定や各種割増賃金の適用も対象外になり(管理監督者や監視・断続的労働従事者よりも労働時間規制が緩和され、深夜の割増賃金も対象外となります)、長時間労働が想定されるため、以下のような厳格な要件が要求されます。

(1)まず、対象者が限定されます。

① 対象業務が限定的となります。

「高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務」とされ、具体的には、金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリストの業務、コンサルタントの業務、研究開発業務などが挙げられます。

② 使用者との間の書面等による合意が必要となり、当該従業員が職務を明確に定めた書面に同意している必要があります。従業員の同意は真摯なものであることが必要ですので、メリット・デメリットについての十分な説明が必要となります。

③ 高所得者のみが対象となります。

年収が「労働者の平均給与額の3倍」を「相当程度上回る水準」以上の労働者とされており、具体額としては1075万円が想定されています。

(2)労使委員会を設置した上で、対象業務、対象労働者、健康確保措置等について委員の5分の4以上の多数により決議すること、かつ、行政官庁への届出が必要です。

(3)年間104日以上、かつ、4週4日以上の休日確保が義務づけられます。

また、ⅰ)インターバル規制と深夜業の回数制限、ⅱ)在社時間等の上限設定(1ヶ月または3ヶ月)、ⅲ)1年間のうち2週間連続の休暇取得、ⅳ)臨時の健康診断の実施、のいずれかの措置が義務づけられます。

(4)さらに、在社時間が一定時間(1ヶ月あたり)を超えた労働者に対して、医師による面接指導が義務づけられ、結果に基づいた事後措置(職務内容の変更、特別休暇の付与等)を講じることが求められます。

 

労働時間状況の客観的把握の義務づけ

改正前(現在)は、通達において労働時間を客観的に把握することは規定されていましたが、裁量労働制が適用される人等は対象外でした。

今回の改正により、健康管理の観点から、裁量労働制が適用される人や管理監督者も含めて、すべての従業員の労働時間の状況が客観的な方法その他適切な方法で把握することが、法律上義務づけられます。

労働時間状況を客観的に把握することで、長時間労働者に対する医師による面接指導を確実に実施できるように繋げる目的があります。

 

「勤務間インターバル」制度の導入促進

「勤務間インターバル」制度とは、1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル)を確保するという制度です。今回、この制度の導入が会社の努力義務とされました。従業員の十分な生活時間や睡眠時間を確保することが目的です。

例えば、9時始業、18時終業で11時間のインターバルを確保する場合

なお、前回少しご紹介しましたが、勤務間インターバル制度導入にあたっては、「時間外労働等改善助成金」の中の「勤務間インターバル導入コース」が用意されています。今度から一定の要件をみたした場合に助成率を3/4から4/5に上乗せされており、また、労働能率の増進に資する設備・機器等の導入、業務研修、人材確保等のための費用等、助成の対象となる取組が追加されております。詳しくは、厚労省のHPをご覧下さい。

 

産業医・産業保健機能の強化

産業医とは、労働者の健康管理等について、専門的な立場から指導や助言を行う医師をいい、労働者数50人以上の事業場においては選任が事業者に義務づけられています。

改正前(現在)は、必ずしも十分機能できていない産業医の活動環境を整備すべく、改正後は、事業者から産業医への情報提供を充実・強化し、産業医の活動と衛生委員会との関係を強化しました。

また、産業医等による労働者の健康相談を強化し、事業者による労働者の健康情報の適正な取扱を推進するなど、労働者に対する健康相談の体制整備と、労働者の健康情報の適正な取扱ルールの推進が行われています。

 

以上、今回の法改正の対応には、就業規則の見直しや労使協定の締結を行う場合もあると思いますので、従業員に対する具体的な説明、保管場所の周知、労使協定の過半数代表者の適切な選出など、必要な手続を履践することが重要ですので、その点は怠らないように注意しましょう。

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