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社会保険労務

2019年1月13日

47.労働時間等の規制が除外される場合について

労働基準法において、法定労働時間が1日単位で8時間以下、1週間単位で40時間以下(なお、特定の業種で常時使用する従業員の数が10名以下の事業場においては44時間以下)であり、これを超えて労働させた場合には時間外労働分の割増賃金の支給が必要であることは皆さんご存じだと思います。

労働基準法の「労働時間、休憩及び休日に関する規定」によるものですが、かかる労働時間等の規定の適用が除外されるものがあります。①農業、畜産・水産業、②管理監督者、③監視・断続的労働従事者です。

ここでは、②及び③について少し詳しくご紹介したいと思います。それぞれの適用条件をきちんと理解しておかないと、漫然と労働時間の規制が及ばないと考えていた場合、後から適正な時間外労働に対する割増賃金の支払請求を受けることになりかねませんので、この機会に概要を抑えておいてください。特に、注意が必要なのは、いずれも深夜業の規制に関する規定は及ぶ、すなわち深夜労働に対する割増賃金の支払義務は免れないということです。

なお、①については、天候や季節等の自然条件に強く影響される業種であるため、適用除外とされています。

管理監督者について

(1)管理監督者とは、「監督又は管理の地位にある者」、すなわち、事業主に代わって労務管理を行う地位にあり、労働者の労働時間を決定し、労働時間に従った労働者の作業を監督する者をいいます。管理又は監督権限を有することで、自らの労働時間は自らの裁量で決めることができ、その地位に応じた高い待遇を受けられるので、労働時間の規制の適用は不適用と考えられています。

以上の趣旨から、最近の裁判例では、管理監督者に該当するか否かの判断基準として、以下のような要件を挙げています。

職務内容が少なくともある部門全体の統括的な立場にあること
部下に対する労務管理上の決定権限等につき一定の裁量権を有し、人事考課・機密事項に接していること
管理職手当などで、時間外手当が支給されないことを十分に補う待遇がなされていること
自己の出退勤を自ら決定する権限があること
 

(2)裁判例では、上記のような判断基準をもとに、銀行の支店長代理、ファミリーレストランの店長やカラオケ店の店長などが管理監督者に該当しないとされています。また、アルバイトの採用や時給額、勤務シフト等の決定を行い、自らの勤務スケジュールも決定しているものの、営業時間、商品の種類と価格、仕入先等について裁量権が与えられていない(企業全体の経営方針に関与できない)として、ファーストフード店の店長の管理監督者とは認められませんでした。上記要件を満たすというハードルは極めて高いということに注意が必要です。

 

監視・断続的労働従事者について

(1)監視・断続的労働従事者が労働時間等の適用を除外されている趣旨は、常態的、つまり普段の状態として精神的緊張が少ない、あるいは手待ち時間、つまり勤務時間には含まれるが、実際に業務は行っておらず、業務の発生を待っている時間が長いためとされています。

いずれも事前に労働基準監督署の許可を得ておく必要があります。

(2)監視労働従事者とは

「監視労働」とは、一定部署に所属し、監視することを本来の業務とし、常態的に身体的または精神的緊張の少ない労働をいいます。

例としては、ビルの守衛、メータの監視、警備業務などが該当します。一方、該当しないものとして、交通関係の監視、車両誘導を行う駐車場等の監視等の精神的緊張の高い業務、プラント等における計器類を常態として監視する業務、危険または有害な場所における業務などが通達で挙げられています。

(3)断続的労働従事者とは

「断続的労働」とは、実作業が間欠的に行われて休憩時間は少ないが手待時間の多い労働のことをいいます。なお、手待時間は休憩時間とは異なります。前者は、使用者の指示があれば直ちに作業に従事しなければならない時間であり、使用者の指揮監督下に置かれている時間です。後者は、指揮監督から解放され、労働者が自由に利用できる時間のことをいいます。

断続的労働従事者の例としては、役員などの専属の自動車運転手(勤務時間が長時間に及ぶこともあるが、その半分以上は詰所において用務の生じるまで全然仕事がなく待っている場合に該当し、通常の業務と兼任している場合は該当しません)や、製パン業において仕込、分割整形、焙焼など作業工程が分業化されている場合の各業務などが該当するとされています。一方、危険な業務に従事する者は該当しません。また、タクシー運転手も相当の精神的緊張を要する業務であるので断続的労働としては許可すべきではないとされています。

(4)警備業務について

警備業務は、監視・断続的業務の双方に該当し得ますが、その判断基準としては、要件が通達によりさらに加重されています。警備業法によって厳しい規制が及んだり、身体的疲労や精神的緊張が少なくない業務もあるため、実態に即して判断する必要があるからとされています。

対象となる業務は警備業法によって規定されているもので、施設や機械の警備、交通整理、現金等の輸送と警備、ボディーカードなどが該当します。

監視業務については、①一定部署にあって監視することが本来の業務であり、身体の疲労及び精神的緊張が少ないこと、②勤務場所が危険・有害ではないこと、③1勤務の拘束時間が12時間以内であること、④勤務と勤務のインターバルに10時間以上の休息時間が確保されていること、などの要件が挙げられています。よって、立ったまま交通誘導する場合や、駐車場等での車両の誘導業務、常態としてテレビモニターなどの警備業務用機械装置によって監視する業務などは該当しないとされています。

断続的労働については、①常態としてほとんど労働する必要がなく、定期的巡視(精神的緊張が少なく、巡視場所が危険または有害でないこと)、施錠及び開錠、緊急の文書または電話を受けること、不意の来訪者への対応、非常事態発生の対応などの業務であること、②1勤務の拘束時間が12時間以内であること(但し、当該勤務中の夜間に継続4時間以上の睡眠時間が与えられる場合には16時間以内)、③勤務と勤務のインターバルに10時間以上の休息期間が確保されていること(但し、当該勤務中の夜間に継続4時間以上の睡眠時間が与えられる場合には8時間以上)、④巡視の回数が1勤務当たり6回以下であり、且つ、巡視1回の所要時間が1時間以内であって、その合計が4時間以内であること、などが要求されます。警備対象が空港や遊園地など広大な場所の警備、構造上外部からの侵入防止が困難な場所での警備、高価な物品が展示、保管等されている場所の警備は該当しません。

(5)宿日直について

監視・断続的労働従事者は、「常態として」労働に従事する者なので、断続的労働と通常の労働が一日に混在する場合、あるいは日によって反復する場合は該当しません。但し、通常勤務の合間に行う「宿直」または「日直」については、労基署における許可手続が特に規定されており、許可を受けることができれば労働時間の規制は及ばないとされています

断続的な宿直または日直勤務の許可基準として、通達により、以下のような条件が設定されています。

勤務の態様
常態としてほとんど労働をする必要のない勤務であり、定時的巡視、緊急の文書や電話を受けること、非常事態に備えて待機することを目的とするものに限る。
通常の労働から継続する場合は許可しない。また、始業または終業時刻に密着した時間帯に、顧客からの電話を受けたり、盗難・火災防止を行うものは許可しない。
宿日直手当
宿・日直勤務一回についての手当の最低額は、当該事業場において宿直日直勤務につくことが予定されている同種の労働者に対して支払われている賃金の一人一日平均額の3分の1を下らないものであること
回数
宿直勤務は週1回、日直勤務は月1回を限度とする。
その他
相当の睡眠設備の設置を条件とする。

上記の条件のうち、宿日直手当について具体的に計算方法を示しますと、例えば、宿直勤務につくことが予定されている労働者が5人おり、当該すべての労働者が1ヶ月間皆勤した場合に支払われる賃金の合計が100万円で、その期間における所定労働日数が20日だとすると、100万円÷20日×1/3で算出される1667円以上を1回の宿日直手当として支給する必要があります。なお、最初に述べたように、監視・断続的労働従事者であっても、深夜業務の割増賃金は支給する必要があるところ、通達によれば、宿日直勤務一回についての宿日直手当は、「深夜割増賃金を含んで」良いとされています。よって、別途深夜割増賃金を支給する必要はありませんが、宿日直手当の金額が深夜分の25%の割増賃金を超えている必要がありますので、注意しましょう。

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