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社会保険労務

2019年2月13日

48.年次有給休暇に関する改正(2019年4月~)

昨年の働き方改革関連法の成立の一環として、労働基準法の中の年次有給休暇の取扱が一部改正されました。働き方改革関連法の内容については、以前もご説明いたしましたが、中でも年次有給休暇に関する改正は、今年(2019年)の4月1日からの施行が目前であり、対応が急務であることから、今回は、改めて年次有給休暇の基本と今回の改正点の内容、その対応策を概説いたします。

年次有給休暇について

(1)年次有給休暇は、雇用の日から6ヶ月間継続して勤務し、その6ヶ月間の全労働日の8割以上を出勤した従業員に対して、原則10日付与しなければなりません。その後の勤務年数に応じて、付与しなければならない日数は以下の表のとおりです。日数は法律上、最低限必要とされる日数ですので、これ以上の日数を付与することは問題ありません。なお、いわゆる管理監督者や有期雇用労働者も対象になります。

継続勤務年数 6ヶ月 1年
6ヶ月
2年
6ヶ月
3年
6ヶ月
4年
6ヶ月
5年
6ヶ月
6年
6ヶ月以上
付与日数 10日 11日 12日 14日 16日 18日 20日

年次有給休暇は半日単位あるいは時間単位で付与することも可能です(なお、時間単位での付与は年に5日が限度)。

 

(2)パートタイム労働者など、所定労働日数が少ない従業員であっても、所定労働日数に応じて比例的に付与しなければなりません。比例付与の対象となるのは、所定労働時間が週30時間未満で、かつ、所定労働日数が4日以下または年間の所定労働日数が216日以下の労働者です。

具体的な付与日数については下表のとおりです。

週所定労働日数 1年間の所定労働日数 継続勤務年数
6ヶ月 1年
6ヶ月
2年
6ヶ月
3年
6ヶ月
4年
6ヶ月
5年
6ヶ月
6年
6ヶ月以上
4日 169日~216日 7日 8日 9日 10日 12日 13日 15日
3日 121日~168日

5日 6日 8日 8日 9日 10日 11日
2日 73日~120日 3日 4日 5日 5日 6日 6日 7日
1日 48日~72日 1日 2日 2日 2日 3日 3日 3日

 

記表の太枠で囲ったオレンジの箇所は、年次有給休暇を10日以上付与する必要があるので、今回の改正にも関わることになります。

(3)従業員が具体的な月日を指定した場合は、その日に年次有給休暇を与えることが原則です。但し、事業の正常な運営を妨げる場合(例えば、同一日に多数の労働者が休暇を希望したため全員に休暇をとられると業務に著しい支障を来す場合など)には、他の時季に変更することができます。

また、年次有給休暇を取得した従業員に不利益な取扱(賃金の減額など)をすることは許されません

(4)年次有給休暇は発生して2年間は請求できますので、前年度に取得されなかった年次有給休暇は翌年度に繰り越しされます。最低限の年次有給休暇しか付与していない場合であっても、7年6ヶ月以上継続勤務された方が20日付与され、その前年に付与された20日がまったく未消化であれば、最大で40日の年次有給休暇を有することになります。なお、このたびの民法改正を受けて、賃金債権を含め、労働基準法上の消滅時効も5年に統一しようという動きもあります。その場合、最大で100日の年次有給休暇を有する従業員が出ることになるので、会社への影響は大きいですね。

2019年4月以降の改正(=年5日の年次有給休暇の取得を企業に義務付け)

(1)改正の概要

改正前(現在)は、従業員が自ら申し出なければ年次有給休暇を取得できませんでしたが、今回の改正により、10日以上の年次有給休暇が付与されている従業員に対して、その希望を踏まえた上で、年次有給休暇を付与した日(=基準日)から1年以内に5日について、会社が時季を指定して与えなければならなくなります

今回の改正の背景には、わが国の年次有給休暇の取得率が半分にも満たず、正社員の約16%が年次有給休暇を1日も取得していないこと、また、年次有給休暇をほとんど取得していない従業員について、長時間労働を行う比率が高いという実態があります。

(2)休暇に関する事項は就業規則に必ず記載しなければならない事項ですので、会社が従業員の年次有給休暇を時季指定する場合は、時季指定の対象となる従業員の範囲及び時季指定の方法について、きちんと規定しておく必要があります。就業規則の改訂例は以下のとおりです。

[就業規則の改訂例]

第○条(年次有給休暇)

(前略)

会社は、その1年間の年次有給休暇の付与日数(前年からの繰越日数を除く)が10日以上の従業員に対し、付与日から1年以内に、当該従業員の有する年次有給休暇日数のうち5日について、会社が意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。

(3)なお、従業員が自ら時季を指定して請求・取得した日や、計画的付与により取得した日については、年5日に含めても良いとされています。つまり、①使用者による時季指定、②従業員自らの取得、③計画的付与のいずれかの方法で従業員に年5日以上の年次有給休暇を取得させれば良いということです。①~③いずれかの方法で5日に達すれば、会社から時季指定することはできなくなります。

(4)計画的付与制度について

ア 上記③の計画的付与制度(労働基準法39条6項)とは、年次有給休暇の5日を超える部分について、労使協定により予め取得日を決めておく制度です。例えば、年次有給休暇の付与日数が11日の従業員の場合、6日を計画的付与制度により付与し、残り5日を従業員が自由に取得することができます。

イ かかる制度を日頃から活用していると、例えば、退職する従業員から、残っている有給休暇をすべて取得した上で退職したいと言われた場合に、引き継ぎ等の支障を最小限に抑えることができるので、非常に有益です。従業員にとっても、あらかじめ休暇取得日を割り振られるので、抵抗なく有給休暇を取得できるというメリットがあります。

ウ 方法としては、①全従業員に対して同一日に年次有給休暇を付与し、企業や事業場全体を休業することによる「一斉付与方式」、②班やグループ別に交替で年次有給休暇を付与する「交替制付与方式」、③年次有給休暇付与計画表を利用して個々の従業員別に付与する「個人別付与方式」があります。①は製造業、②は定休日の増設が難しい流通・サービス業などに適しており、③は誕生日や結婚記念日など各従業員の個人的な記念日を優先できるというメリットがありますので、会社の実態等に応じて選択すれば良いでしょう。

エ 制度導入には、就業規則の規定と労使協定の締結が必要となります。以下に、就業規則の規定例と労使協定の例(上記③の個人別方式の場合)を挙げておきます。

[就業規則規定例]

第○条(年次有給休暇)

(前略)

第△項の規定にかかわらず、従業員代表との書面による協定により、各従業員の有する年次有給休暇日数のうち5日を超える部分について、あらかじめ時季を指定して取得させることがある。

[労使協定の規定例]

○○株式会社と同社従業員代表○○○○とは、標記に関して次のとおり協定する。

1 当社の従業員が有する○○○○年度の年次有給休暇(以下「年休」という。)のうち、5日を超える部分については、6日を限度として計画的に付与するものとする。なお、その保有する年休の日数から5日を差し引いた日数が「6日」に満たないものについては、その不足する日数の限度で特別有給休暇を与える。

2 年休の計画的付与の期間及びその日数は、次のとおりとする。

前期=4月~9月の間で3日間

後期=10月~翌年3月の間で3日間

3 各個人別の年休付与計画表は、各期間が始まる2週間前までに会社が作成し、従業員に通知する。

4 各従業員は、年休付与計画の希望表を、所定の様式により、各期間の始まる1カ月前までに、所属課長に提出しなければならない。

5 各所属課長は、前項の希望表に基づき、各従業員の休暇日を調整し、決定する。

6 この協定の定めにかかわらず、業務遂行上やむを得ない事由のため指定日に出勤を必要とするときは、会社は従業員代表と協議の上、前項により定められた指定日を変更するものとする。

平成○年○月○日

○○株式会社 取締役社長 ○○○○

○○株式会社 従業員代表 ○○○○

(5)会社は、従業員ごとに、時季と日数、基準日を従業員ごとに明らかにした「年次有給管理簿」を作成し、当該有給休暇を与えた期間中及び期間満了後3年間保存する必要があります。

 

年次有給休暇の基本と今回の改正の概要は以上のとおりですが、実際の運用方法、例えば、入社と同時に年次有給休暇を付与する制度を採用している会社のように、法定基準より前倒しで年次有給休暇を付与する場合の具体的な取扱いや、効率的な有給休暇の管理の方法も気になるところだと思います。この続きはまた別稿にてお話いたします。

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