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社会保険労務

平成31年3月11日

49.年次有給休暇に関する改正(続き)

前回は、2019年4月1日から施行される年次有給休暇に関する改正の概要についてご説明しました。今回は、実際の運用の仕方と対策についてお話いたします。

年次有給休暇を付与すべき法定の基準日とは異なる運用をしている場合に、今回の改正を受けてどのように取り扱うべきかについてご説明します。

(1)例えば、入社と同時に10日以上の年次有給休暇を付与する場合など、法定の基準日である雇入れの日から6ヶ月後より前に10日以上の年次有給休暇を付与する場合はどうなるでしょうか。例えば、2019年4月1日の入社と同時に10日の年次有給休暇を付与された場合です。

この場合、従業員に対して前倒しで10日以上の年次有給休暇を付与した日から1年以内に5日の年次有給休暇を取得させなければなりません。つまり、法定の基準日ではなく、前倒しして付与した時点が1年間のスタートになります。

(2)次に、10日のうち一部を法定の基準日より前倒しで付与していた場合はどうなるでしょうか。例えば、2019年4月1日の入社と同時に5日の年次有給休暇を付与し、その後7月1日にさらに5日の年次有給休暇を付与していた場合です。

この場合は、付与した年次有給休暇が合計で10日に達した時点を基準日とし、その日から1年以内に年次有給休暇を付与することが必要となります。但し、付与した年次有給休暇が10日に達するまでの間に、従業員が自ら請求して取得した日数分は5日から控除することができます。

(3)入社時期が異なる従業員がいた場合に、年次有給休暇を付与する時期が異なることを避けて一元的に管理するために、付与する起算日を統一している会社もあると思います。その場合、入社した年と翌年とで年次有給休暇の付与日が異なることで、期間に重複が生じる場合の取扱いはどうなるでしょうか。例えば、2019年4月1日に入社し、法定基準日であるその半年後に10日間付与されたが、翌年度以降は全社的に統一した起算日である4月1日から年次有給休暇を付与する場合です。

この場合、本来ならそれぞれの基準日からの1年間に5日ずつ年次有給休暇を付与しなければならないのですが、管理を簡便にするために、1年目の基準日を始点にし、2年目の基準日からの1年後を終点とする期間内で按分した日数の年次有給休暇を与えれば良いことになります。

前回お伝えしたように、会社は、従業員ごとに、時季と日数、基準日を従業員ごとに明らかにした「年次有給管理簿」を作成し、当該有給休暇を与えた期間中及び期間満了後3年間保存する必要があります。

(1)管理の方法

入社日が異なる従業員が複数いる場合、基準日も人によって異なるため、誰に対してどの基準日から1年間に年次有給休暇を取得させなければならないかの管理が煩雑となる可能性があります。

そのための方策として、1つは、年次有給休暇の一斉付与日を設けるという方法があります。例えば、4月1日に要件を満たす全従業員に年次有給休暇を一斉に付与するという方法です。これを採用することで入社した従業員について、期間の重複が生じる場合がありますが、その場合の考え方は上の1(3)でご説明したとおりです。

従業員の数がそれほど多くない会社であれば、年1日でなくても、月の初日に統一するだけでも管理が容易になります。例えば、4月5日や15日に入社した人の基準日は10月1日とし、5月10日や20日に入社した人の基準日は11月1日とする方法です。こうすると、月初を基準に管理すれば良く、5日の年次有給休暇を取得させなければならない期間も、各月の月末に統一されるので、管理が楽になります。

(2)年次有給休暇取得計画表の作成

各従業員について、基準日と年次有給休暇の取得予定日等を記載した年次有給休暇取得計画表を作成することで、年5日の年次有給休暇を取得させる義務の履行を忘れなくなります。計画表は全従業員を一覧表にするか、従業員ごとに作成することが考えられます。下の例は、全従業員の年間の年次有給休暇取得計画表です。

(年次有給休暇計画表の例)

氏 名 基準日 保有日数   10月 11月 12月
甲野太郎 2019/10/1 10日 予定日 1日(10/1) 2日(12/5,6)
取得日 1日(10/1) 2日(12/5,6)
乙山花子 2019/10/1 11日 予定日> 1日 1日
(12/20,21のいずれか)
取得日   1日(12/21)
丙田三郎 2019/11/1 15日 予定日 2日
(上旬の2日)
取得日 2日(11/5,6)
・・・

 

(3)会社からは、①基準日の時点で、過去の実績から年次有給休暇の取得が著しく少ない従業員に対して予め時期を指定する、②基準日から一定期間が経過したタイミング(例えば3ヶ月後、半年後など)で取得日数が5日未満の従業員に対して時期を指定する、といった方法をとることで、確実に年次有給休暇を取得してもらうことができます。

さらに、前回ご紹介した計画的付与精度を活用することで、従業員の年次有給休会の取得を促進させるとともに、会社としても確実な義務の履行を果たすことができます。

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