トップページ  >  連載  >  社会保険労務56

社会保険労務

令和2年4月1日

56.休業手当と平均賃金

休業手当

使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者が、休業期間中、当該労働者に対して、その平均賃金の100分の60以上の休業手当を支払わなければならないとされています(労基法26条)。休業期間中の労働者の最低限度の生活を保障するという趣旨です。

昨今の新型コロナウイルス感染症に基づき一部または全部の休業を余儀なくされた事業主の方も多いと思います。今後も同様の状況が出来するとも限らないところ、こうした状況を含め、どういった場合に休業手当を支払うべきか否かの判断が難しいケースもあるかと思います。

そこで、今回、休業手当の支払が必要な場合とされる「使用者の責に帰すべき事由による休業」とは具体的にどういう場合かについて概説したいと思います。

なお、休業には法律上明確な定義はありませんが、一般的に、労働者が会社との労働契約を継続した状態で休暇を連続して取得する(労働者に働く意思があるにもかかわらず勤務が困難となり労働義務が免除されている)状況をいいます。

また、休業手当の支払いを怠った場合、罰則が科され(30万円以下の罰金)、支払うべき金額と同一金額の付加金の支払いを命じられる可能性があります。

(1)新型コロナウイルスに感染した従業員について、都道府県知事が行う就業制限により休業する場合は一般的に「使用者の責に帰すべき事由による休業」には該当しません。但し、当該従業員が社会保険に加入しており、一定の要件を満たす場合には傷病手当金が支給されますので、その旨案内されると良いでしょう。

感染が疑われる従業員に対しては、従業員が「帰国者・接触者相談センター」で相談した結果を踏まえても職務の継続が可能であるで、使用者の自主的判断で休業させる場合は、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しますので、休業手当を支払う必要があります。

発熱などの症状により従業員が自主的に休んでいる場合は、通常の私傷病による欠勤と同様に取り扱えば足ります。但し、会社として、発熱など一定の症状がある場合に一律休ませる措置をとっている場合には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当し得ます

休業要請や協力依頼を受けて営業を自粛し、従業員を休業させる場合でも、休業手当の支払が必要ないわけではありません。厚生労働省労働基準局の見解によると、不可抗力の場合に使用者の責に帰すべき事由に該当しないといえるためには、

①その原因が事業の外部より発生した事故であること

②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること

のいずれの要素も満たすことが必要とされています。休業要請等による場合、①は満たすと思われますが、②については、自宅勤務などの方法で従業員を業務に従事することが可能な場合で、これを十分検討するなどの休業回避について最善の努力を尽くしていないと認められた場合などは、休業手当の支払が必要なケースもありますので、注意が必要です。

なお、休業手当を支払った場合、一定の要件を満たせば、「雇用調整助成金」の助成対象となります。

 

(2)使用者の責に帰すべき事由には、使用者側に起因する経営・管理上の障害を含みます。

裁判例を見ると、例えば、親会社の経営難から下請工場が資材、資金の獲得ができず休業した場合、関連企業の争議による業務停止に起因する休業の場合、会社が業務を受注できなかったため休業となった場合などが、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しています。一方、地震で事業場の施設・設備が直接的な被害を受けた結果休業させる場合や、計画停電で電力が供給されないことを理由にとする休業の場合は、該当しないとされています。

争議行為の場合、労働組合の一部の組合員がストライキを行ったケースにおいて、労働組合自らの主体的判断とその責任に基づいてストライキを行ったものであり、ストライキに参加していなかった従業員についても参加者と組織的な一体性がある等の理由で、休業手当を支払わなくて良いとした事例があります。

その他、通達における例としては、新規学卒内定者の自宅待機期間、即時解雇時の予告期間中の休業などが「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当するとされており、他方、正当な作業所閉鎖の休業、使用者の責めに帰すべき事由による休業期間中の就業規則等に定められている休日などが該当しない場合とされています。

 

(3)休業手当は、アルバイトやパートタイム労働者、派遣労働者、有期契約労働者などの態様に関わらずすべての労働者が対象となります。休業手当の支払が不要であっても、従業員の生活保障のために、特別の手当や有休の特別休暇制度を導入するなど柔軟な対応を行うことが求められるといえますが、その対象を正社員のみとし、非正規雇用の従業員を除外することは、同一労働同一賃金における均衡・均等待遇に反する可能性がある点は留意が必要です。

 

平均賃金について

休業手当は、平均賃金の100分の60以上の支払が必要です。そこで、平均賃金の計算方法が問題となります。なお、雇用調整助成金は、休業手当が平均賃金の60%を下回っている場合は、本助成金の支給を受けることができません

平均賃金は、解雇予告手当の支払を行う場合や減給処分を行う場合などにも関係しますが、その計算方法は、労働基準法12条により定められています。単純に、月の所定労働日数が22日で月給22万円を支給している従業員の平均賃金が1万円であるというわけではありません。

平均賃金は、原則として、次の①②の計算方法で算出された金額のいずれか高い方の金額となります(但し、欠勤や遅刻早退時の賃金控除をしない月給制は①のみで計算)。

①直近の賃金締日から遡って3か月間の賃金総額 ÷ 3か月間の歴日数

②直近の賃金締日から遡って3か月間の賃金総額 ÷ 3か月間の労働日数 × 60%

上記賃金総額の中には、交通費や手当、残業代等を含むすべての賃金が含まれます(但し、賞与など3か月を超える期間ごとに支払われる賃金等は除きます)。

具体的には、例えば、5月1日から休業する場合で、以下のとおり賃金を支給している場合(毎月末日締め翌月10日支給)

4月10日  25万円  賃金対象期間の歴日数:31日、労働日数:21日

3月10日  27万円  賃金対象期間の歴日数:29日、労働日数:18日

2月10日  24万円  賃金対象期間の歴日数:31日、労働日数:19日

①の計算方法では、(25+27+24)万円÷(31+29+31)日≒8352円、②の計算方法では、(25+27+24)万円÷(21+18+19)×0.6≒7862円となりますので、高い方の8352円が平均賃金となります。つまり、8352円×0.6≒5011円が最低支払うべき1日当たりの平均賃金ということになります。よって、仮に20日間休業した場合は、5011円×20日=10万220円が最低限支払うべき休業手当ということになります。

なお、入社まもない従業員など、算定期間が3か月未満の従業員については、雇入日から直前の賃金締日までの期間で計算します。但し、その期間が1か月に満たない場合は、雇入日から平均賃金を算定する事由の発生日までの期間で算定します。定年退職後の継続雇用において再雇用後3か月に満たない場合については、定年前後で同一業務に従事している場合には、実質的に1つの継続した労働関係が続いていると考えて、定年退職前の期間も通算して計算します。

top