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社会保険労務

令和2年7月3日

57.雇用調整助成金の特例と申請のポイント

雇用調整助成金の拡充や新給付制度の創設などを盛り込んだ令和2年度第2次補正予算案が成立したことを受け、雇用調整助成金の1人あたりの日額上限が従前の8330円から1万5000円に引き上げされました。また、助成率について、従前は、解雇等をせずに雇用維持に努めた中小企業について90%(一定の要件を満たした場合は100%)とされていましたが、企業規模にかかわらず一律100%が支給されるように拡充されました(詳細はこちら)。

これにより、休業手当を平均賃金の100%支給している場合でも、20日間休業したとして、30万円(15,000円×20日)までの範囲で休業手当を支払っていれば全額を助成金でカバーできることになります。法定の最低基準である平均賃金の60%の支給であれば、1日あたりの平均賃金が2万5000円までカバーされますので、会社の負担はほぼ助成金で賄えることになります。緊急対応期間も令和2年9月30日まで3か月間延長されましたので、利用の促進が期待されるところです。

なお、平均賃金の算出方法等については、前回の連載をご参照ください。

 

今回の特例は、雇用保険の被保険者以外を対象とする緊急雇用安定助成金も対象となっています。

特例の適用は、令和2年4月1日から遡って適用されることになっていますが、すでに当該助成金を申請し支給を受けている事業主もあろうかと思います。本特例は令和2年6月12日付のものですが、それ以前に申請を行い支給を受けている場合は、特に手続は不要で、差額(追加支給分)が後日支給されることになります(7月以降順次)。支給はまだ受けていないが申請済みの場合も、手続不要で、労働局・ハローワークで算定しなおして支給されることになります。

また、これまで、支給率が100%でなかったために、休業手当を法定基準でしか支払っていなかったが、今回の特例を受けて、従業員に増額分を支給したいと考える事業主さんもおられると思います。令和2年9月30日までは、遡って休業等協定を締結した上で、休業手当を見直して(増額して)支払うことが可能で、その場合でも、今回の特例に基づいて、再度雇用調整助成金を申請することが可能です。

なお、今回の補正予算成立を受けて、会社から休業手当を受けられなかった労働者に対して直接支援を行う「新型コロナ対応休業支援金」が創設されます。現時点(7月2日)では、厚生労働省による詳細は公表されていませんが、概要は、令和2年4月1日から9月30日までに新型コロナで休業中に賃金が支給されなかった雇用保険の被保険者で、休業前の6ヶ月のうち、いずれか3ヶ月に支給された賃金総額を90で割って算出された額(賃金日額)の80%が支給され、上限額は1日あたり1万1000円(月額33万円)です(雇用保険の被保険者以外の従業員にも特別の給付金が予算の範囲内で支給される予定)。休業期間中に休業手当の支払ができなかった事業主は、従業員に当該支援金を案内してあげると良いでしょう。ただ、今回の特例を受け100%の支給がされることになりましたので、従業員の保護を図るためにも、今からでも休業等協定を締結し、遡って休業手当を支給した上で、雇用調整助成金の申請を検討されてはいかがでしょうか。

 

さて、雇用調整助成金は、小規模事業主に限り、簡易な申請方法も可能になっています。対象は、概ね従業員が20人以下となっていますが、多少20人を超えていても柔軟に対応してもらえるようです。

簡易申請なので、提出書類を一部省略することができたり、申請の書式も簡略化されており、申請しやすいことは間違いないのですが、支給金額は、実際に支払った休業手当額をベースに計算されることになります。一方、(簡易でない方の)通常の雇用調整助成金は、原則、労働保険確定保険料を基準にしますが、所得税徴収高計算書(源泉所得税の納付書)を基に計算することもできます

つまり、雇用調整助成金の支給金額の計算方法は以下の3パターンがあり、簡易申請が可能な事業主は①~③のいずれか、簡易申請ができない事業主でも②か③のいずれかを選択できることができます。そして、いずれの計算方法を採用するかで支給金額が変わってきます。

① 実際に支払った休業手当の金額を基に算出

② 確定労働保険料の金額を基に算出

③ 源泉所得税の金額を基に算出

 

②は、以下の式で計算した金額が基準となり、

前年度1年間の雇用保険の保険料の算定基礎となった賃金総額 前年度1か月平均の雇用保険被保険者数 × 前年度の年間所定労働日数  

③は、以下の式で計算した金額が基準となります。

所得税徴収高計算書の支給金額(俸給給料等欄の支給額) 1か月の従業員数 × 月間平均労働日数  

どの計算方法を採用すれば支給金額が高くなるかは一概には言えませんが、②あるいは③で計算することで、実際に支払った休業手当以上の支給を受けることができる場合もあります。どの方法で計算するか事前に試算してみるのが申請のポイントです。

各計算方法の比較のポイントは以下のとおりです。

計算方法 簡易申請の可否 比較のポイント
①休業手当を基に算出 ・受給金額の予想が立ちやすい
・申請が簡便で、受給までも比較的早い
②確定労働保険料を基に算出 × ・③に比べて賞与分を含むので、その分金額が上がる可能性がある
・確定労働保険料の対象期間後に雇用した従業員が多い場合は、金額が低くなる可能性がある
・年間所定労働日数の計算が若干ややこしい
③源泉所得税を基に算出 × ・今年度または前年度の任意の1月を選んで計算が可能
・役員報酬を含むので、その分金額が上がる可能性がある
・パートやアルバイトなどの人数が多いと、金額が低くなる可能性がある

なお、雇用保険の被保険者以外を対象とする緊急雇用安定助成金については、通常の場合も簡易の場合も、実際に支払った休業手当額をベースに計算されますので、②③の計算方法は採用できません。

また、今回の特例(上限額の引き上げ)において、追加支給の再申請を行う場合、平均賃金額を算定方法は、前回申請時と同様の方法で申請することが求められています。

 

当事務所では、助成金の申請代行も行っておりますので、お気軽にお問い合わせください。

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