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社会保険労務

令和2年8月13日

58.テレワークにおける労務管理 ①

働き方改革の一環としてテレワークを導入する会社が増えつつあった中で、さらに、昨今の新型コロナウイルス感染症の流行の影響で国がテレワークを推奨したことを受け、実際にテレワークを導入されたり、導入を検討されている会社も多いと思われます。

そこで、今回から数回にわたり、テレワークを導入・実施する上での労務管理のポイントについて解説いたします。

 

なお、テレワークとは、厚生労働省の定義によると、「情報通信技術(ICT=Information and Communication Technology)を活用した時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」をいいます。労働者が自宅で業務を行う「在宅勤務」、ノートパソコンや携帯電話等を活用して顧客先、出張先等で業務を行う「モバイル勤務」、自宅近くや通勤途中の場所に設けられたメインのオフィス以外の場所で業務を行う「サテライトオフィス勤務」の3つに分類されますが、本稿では、主として在宅勤務を念頭に解説いたします。

テレワーク制度の導入

テレワークを導入するにあたっては、その対象業務及び対象者を明確にした上で、実施環境を整え、就業規則の変更またはテレワーク規程の策定を行い、従業員に説明・周知することが必要となります。

 

(1)対象業務の整理

まずはどの業務をテレワークの対象にするかの整理が必要です。テレワーク制度の対象者の決定や導入後の普及拡大を図るうえでの課題抽出に繋がります。方法としては、業務単位で全体の洗い出しを行い、大きく、テレワーク可能な業務、すぐには対応できないが将来的に実施可能な業務、実施不可能な業務に分類します。

整理のポイントとして考慮する事項としては、

業務に要する時間

業務遂行に使用する資料の有無、形式(紙媒体か電子ファイルか)

個人情報や機密情報の取り扱いの有無、程度

業務遂行に要する人数(チームで行う業務か)、関係者同士のやりとりの頻度

などです。

上記に加えて、テレワークを実施するためのシステムやツールが揃っているか否かも重要なポイントです。現状では実施が困難であっても、紙資料の電子化、クラウド上でのデータ保存、オンライン会議システムの活用等により、実施可能になるのであれば、そのような準備を行うことも含めて業務を整理します。

なお、テレワーク実施に向けては、IT導入補助金を利用することで、申請と導入にかかる経費の2分の1(自己負担分30万円から450万円)を補助してもらえる場合があります。特に、新型コロナウイルスの特別枠により、補助率の引き上げ(4分の3)や、PC・タブレット端末等のハードウェアにかかるレンタル費用も補助の対象となります。詳細はこちらをご覧ください。また、働き方改革推進支援助成金の利用も考えられます。特別に新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワークコースも用意されており、現在のところ、交付申請が5月末までで終了していますが、今後新たに募集を開始する予定もあるようです。対象経費の1/2(1企業当たりの上限額:100万円)の助成を受けることができます。詳細はこちらをご覧ください。

 

(2)対象者の選定

すべての従業員が業務内容にかかわらずテレワークを実施できることが理想といえますが、現実にはなかなか困難だと思います。そこで、どの従業員をテレワークの対象にするかを選定します。対象者の選定は、従業員の理解を得られるように、明確な基準を設けることが重要です。

まずは、(1)で述べた業務の整理を踏まえて、対象となり得る従業員の範囲を特定します。接客や販売など対人業務を行う従業員は対象から外れるでしょうし、業務の性質によっては、実際に出社して作業を行わないと生産性が下がってしまう業務もあるかと思います。

また、新入社員や入社後一定期間内の従業員の場合、適宜、上司から現場で指示を行いながら指導した方が良い場合もあるでしょう。テレワークは、自宅という上司や管理者の目の届かない場所において業務を行わせるものなので、一定の信頼が必要な場合もあります。当該従業員の自宅等の執務環境も重要になってきます。

つまり、対象者選定の基準としては、以下のものが考えられます。

業務内容、職種

勤続年数

勤務成績・勤務態度が良好な者(人事考課が一定以上の者)

自宅の執務環境(PCやタブレット端末等のハードウェアの有無、セキュリティー環境、家族の理解があるかなど)

そして、対象者を限定した場合でも、当該従業員が実際にテレワークを実施するかどうかは、原則として本人の希望に基づいた方が良いでしょう。希望者にはテレワーク実施日の数日前に申請手続きを行った上で、会社の許可が得た場合にテレワークの実施を可能とする旨の規定を設けることが考えられます。

なお、テレワーク対象者を正社員のみとし、その他の有期雇用労働者を一律対象外とするという取り扱いは避けた方が無難です。2020年4月から施行されているいわゆる同一労働同一賃金を内容とするパートタイム労働法等の改正により、単に有期雇用契約であること、短時間労働者であること等を理由に差を設けることは、違法になる可能性があります。通信費負担の問題があるにせよ、通勤時間の短縮が図れ、自宅の落ち着いた環境下で仕事ができるという意味では、一般的にテレワーク制度は従業員にとって有利な制度であるといえますので、対象外となった有期雇用労働者が、他の待遇差の解消も併せて求めてくるというリスクにも繋がりかねません。一方、派遣労働者の場合、テレワークを実施する際は、労働者派遣契約の見直し(就業場所)が必要となる場合があります。但し、厚生労働省も、「緊急の必要がある場合は、事前に書面による契約の変更を行うことを要するものではない」としており、新型コロナウイルス感染症対策としてテレワークを行う場合は、派遣元事業主との合意があれば、必ずしも契約書の変更自体は必要ないと考えられます。

最後に、テレワークの対象外とされた従業員へのフォローも検討しましょう。テレワーク制度自体は従業員にとって利益となる制度ですので、業務内容によりテレワークが困難な場合、特に通勤や対人業務により新型コロナウイルス感染症に関して一定のリスクを抱えざるを得ない従業員に対して、一定の手当てを支給するといった措置を講じることで、従業員のモチベーション維持に繋がる可能性があります。

 

(3)就業規則の変更、テレワーク規程の作成

テレワークを行うにあたって、労働時間制度や労働条件が同じであれば、従前の就業規則をそのまま適用するかたちで行うことは可能です。しかしながら、どの従業員がテレワークの対象になるか、テレワークを行う場合の手続などは新しく決めることになり、その基準及び手続を明確にしておく必要がありますし、通信費の負担の問題もあります。場合によっては、テレワークの際の始業・終業時刻を変更したり、新たな労働時間制度の導入や変更も考えられます。

そこで、テレワークを導入する場合は、就業規則の内容を一部変更するか、別途「テレワーク規程」といった規程を作成しておくべきです。従業員に対する説明のわかりやすさという意味では、後者が良いでしょう。テレワーク規程の個々の規定の中で、適宜、従前の就業規則との相違を指摘するようにします。新型コロナウイルス感染症に対応するため緊急的にテレワークを行う場合でも、メール等で合意の事実は残しておいた上で、事後的に就業規則等をきっちり整備しておいた方が良いです。

なお、就業規則については、10人以上の従業員を使用する使用者は、労働者代表等の意見書を添付の上、所轄の労働基準監督署に届出が必要であり、変更する場合やテレワーク規程を新たに作成する場合も同様です。10人未満の事業場であっても、テレワーク制度の内容を明確化する意味で、テレワーク規程あるいは労使協定を作成しておくと良いでしょう。

従業員に対する労働条件通知書の変更については、必ずしも必要ではありません。当初の就業場所と異なることになりますが、労働基準局長の通達によると、労働条件通知書には雇い入れ直後の就業の場所を明示すれば足りる、となっています。但し、これから新しく従業員として採用する場合は、自宅での勤務等テレワークを命じる場合がある旨を労働条件通知書の中に規定しておく必要があります

 

次回は、テレワークにおける労働時間の管理についてお話しします。

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