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社会保険労務

令和2年12月10日

61.テレワークにおける労務管理 ③

前回に続いて、テレワークにおける労働時間管理についてお話しします。

テレワークにおける労働時間管理

(3)中抜け時間について

テレワークにおいては、一定程度、労働者が業務から離れる時間が生じやすいと考えられます(いわゆる中抜け時間)例えば、テレワーク中に子どもを迎えに行く、病院に行くなど、私用のための外出や、家の用事を行うなどして業務を離れる場合、どう取り扱うべきかという問題があります。

原則としては、ノーワークノーペイの原則があるので、その時間について賃金の支払い義務は生じません。ただ、その分賃金控除をすると、従業員の私用による外出を抑制することになり、ワークライフバランス確保のためのテレワークの趣旨を損なうことにもなります。そこで、私用のための中抜け時間は休憩時間とみなし、その分、始業・終業時刻を繰り上げまたは繰り下げすることで、所定労働時間を満たすよう工夫が必要です。「勤務の状況や従業員の都合等により必要がある場合には、全部または一部の従業員について、始業、終業および休憩時刻を繰り上げまたは繰り下げる等の変更を行うことがある」などと就業規則に規定しておくと良いでしょう。

また、時間単位の年次有給休暇(実施する場合は労使協定の締結が必要です)として取り扱うことも考えられます。

なお、中抜け時と中抜け後に従業員からの連絡を義務付けるようにしましょう。

(終業時刻を繰り下げる場合のイメージ)

 

(4)移動時間について

例えば、午前中だけ自宅で仕事をし、午後から会社に出勤するなど、勤務時間の一部をテレワークとする場合の移動時間が労働時間に該当するか否かについては、会社の指揮命令下に置かれた時間か否かを個別具体的に判断します。会社の指示命令とは関係なく、従業員が自分の都合で就業場所を移動し、自由な利用が保障されている場合は休憩時間と取り扱っても構いません。但し、移動時間中に会社の指示により何か業務を行う場合は労働時間に該当します。一方で、具体的な業務のために急な出社を求められるなど、会社が移動を命じたり、その間の自由な利用が保障されていない場合には、労働時間に該当します。

 

(5)時間外労働・休日労働の管理

在宅勤務においても労働基準法をはじめとする各労働法の適用があることはお話ししました。時間外労働・休日労働の規定についても同様です。つまり、時間外労働・休日労働を行う際の労使協定(36協定)の適用や、割増賃金の支払義務も生じますので、そのためには時間外労働・休日労働の適切な管理が必要です。

時間外労働については、前回述べた裁量労働制や事業場外みなし労働時間制を採用している場合には、割増賃金が発生しない場合もありますが、労働時間を管理しなければならない義務はありますし、深夜や法定休日の勤務に対する割増賃金の支給は必要ですので、そのための管理は必要です。

テレワークにおいては、原則として時間外労働や休日労働、深夜労働をさせない、あるいは、事前の申告と許可、事後報告を義務付けるといった対応をとることが考えられます。その場合に、許可や事後報告がなかったとしても、時間外労働等に使用者の関与があったといえる場合には、時間外労働等について割増賃金の支払義務が発生してしまいます。そのためには、時間外労働を強制したり義務付けたりしないことはもちろん、当日に行うよう指示する業務量が過大であったり、納期に時間的余裕がないなど、業務遂行のためには時間外等に労働せざるを得ないような状況を作出しないことが必要です。

また、テレワークは業務時間の終わりの区別がつけにくいことから、ついつい残っている業務を続けてしまうなどして、長時間労働につながるおそれがあります。厚生労働省の「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」によると、使用者には、例えば以下のような方法により、長時間労働による従業員の健康障害防止を図ることが推奨されています。

① メール送付の抑制

役職者等から時間外・休日・深夜の時間帯に、業務に関する指示や報告のメールを送付しないよう自粛を求める

② システムへのアクセス制限

時間外・休日・深夜には、外部のパソコンから社内システムへのアクセスができないようにする

③ テレワークを行う際の時間外・休日・深夜労働の原則禁止等

時間外・休日・深夜労働を原則禁止または許可制とし、その旨を就業規則等に明記しておく

④ 長時間労働等を行う労働者への注意喚起

長時間労働が生じるおそれのある労働者や、実際に生じた労働者に対して注意喚起を行う

 

次回は、テレワークにおける賃金についてお話しします。

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