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社会保険労務

令和3年1月11日

62.テレワークにおける労務管理 ④

今回は、テレワークにおける賃金についてお話しします。

通勤手当について

(1)例えば基本給について、時間給制の従業員の勤務時間が短くなったとか、職務内容が大きく変更となりその職制に応じて労働条件が変わるなどといった合理的な理由がなければ、テレワークであることだけを理由に減額することはできません。

では通勤手当はどうでしょうか。テレワークの場合、会社への通勤の回数が減ることになるので、その分、通勤手当の支給を減らしたいと考える方も多いと思います。

就業規則あるいは賃金規程において、例えば「公共交通機関を利用して通勤する者に対してその実費分を支給する」などと最初から実費分しか支給しない旨を規定していれば、実際には通勤していない分の金額を減額することは特に問題ありません。ただ、その場合でも、すでに定期券を購入している従業員がいる可能性もありますので、テレワーク実施に伴う規定の適用には、少なくとも1か月以上余裕を設けるなどの配慮は必要でしょう。

一方、交通費あるいは通勤手当という名目でありながら、実際には全社員にあるいは一定の類型に応じて一律の金額を支給している場合には、実費分の支給は実質的に賃金の減額と等しいことになりますので、労働条件の不利益変更に該当し得ることになります。

(2)労働条件の不利益変更については、従業員の自由な意思に基づいた同意がある場合は許されますが、そうでなければ、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、労使間の交渉の状況等を総合的に考慮して、その変更が合理的であり、かつその内容が周知されていることが必要となります。

テレワーク勤務では交通費が生じない以上、通勤の頻度によって通勤手当の見直しを図ること自体は合理的と判断される可能性は高いと思われます。あとは、労働者の受ける不利益の程度はいかに緩和するか、例えば、減額の幅を小さくする、労働者の在宅勤務日数に見合った金額にする、出社する頻度の多い場合には定期券を支給する、などといった配慮が重要となります。また、労使間の交渉の状況も考慮されるので、従業員との間で時間を割いて丁寧に説明、話合いを行うという手続が必要です。

(3)なお、交通費の実費支給にあたっては、下記の厚生労働省によるテレワークのモデル就業規則の例が参考になります。

第〇条

在宅勤務者の給与については、就業規則第〇条の定めるところによる。

2 前項の規定にかかわらず、在宅勤務(在宅勤務を終日行った場合に限る。)が週に4日以上の場合の通勤手当については、毎月定額の通勤手当は支給せず実際に通勤に要する往復運賃の実費を給与支給日に支給するものとする。

(厚生労働省ホームページ【テレワークモデル就業規則】20頁から引用)

この規定例は、終日テレワークの日数が一定の基準を超える場合は、定額の通勤手当を支給せず、打合せなどで事業場で勤務した日について、往復に要する通勤費用の実額を支給するというケースです。なお、終日在宅勤務の日数を週単位ではなく、月単位とすることも考えられます。

なお、テレワーク導入にあたり、正社員と非正規社員(契約社員、パートなど)との間で通勤手当の金額、減額率を変えることは、「同一労働同一賃金」の観点から違法となるおそれが高いので注意が必要です。

費用負担について

テレワークでは従業員が普段生活する自宅で業務を行うことになるので、通信費用や光熱費など、通常の勤務と異なる費用の負担を従業員が負うことがあります。そこで、各費用の負担について、事前に労使間で十分に話し合い、就業規則等に定めておく必要があります。特に、従業員に特定の負担を求めることがある場合は、必ず就業規則に規定する必要があります。(労働基準法第89条第5号)

以下、具体的な項目について見ていきます。

(1)PC、スマートフォン等の情報通信機器本体の費用

もともと会社で利用していたものではなく新たにテレワーク用の情報通信機器を購入する場合、その購入費用については、合理性がないため会社が負担するのが一般的です。私用を認める場合には従業員に一部負担を求めるという考えもあり得ますが、セキュリティの関係がありますので、私用を認める場合は注意が必要です。会社が認めていないソフトウェアなどを勝手にインストールすることは禁止すべきでしょう。

なお、従業員所有のパソコンの利用を認める場合は、機器の内容(メーカー、OS、ウイルス対策ソフトウェアの内容等)を申告させるとともに、家族の人が共用する可能性もありますので、業務上の秘密事項などを守る上で、また、ウイルスなどネットワークからの攻撃を防ぐ意味でも、一定のセキュリテイガイドラインを設けることが肝要です。

(2)通信費等

もともと支払が会社になっている機器をそのまま利用している場合は、利用にかかる通信費については会社負担としているケースも多いと思います。一方、最近は定額制によるブロードバンドの常時接続環境も整っていますので、すでに従業員が個人的に契約している通信回線を利用する場合も多いと思います。その場合、従業員が個人で使用することも可能ですので、私用と業務上の使用を区別することは事実上困難となります。そこで、一定金額を手当として支給することが考えられます。例えば、在宅勤務手当として、月額5000円~1万円程度を支給するというかたちです。

手当の支給は従業員にとって不利益ではないので、特に就業規則や賃金規程の変更がなくても実施できますが、公正性や明確性を保つためにも、規定しておく方が良いでしょう。なお、一定額を手当として支給する場合、当該手当は割増賃金の算定基礎に参入する必要があるため、残業が多い場合は、さらに費用の負担が増えることになる点は留意が必要です。

また、従業員の自宅に通信回線がない場合には、新たに設置する工事費用も問題となります。回線が通れば、従業員も個人的に利用できるようになるので、一部負担を求めることも考えられるでしょう。

(3)水道光熱費

水道光熱費(特に電気料金)についても、会社で業務を行うのであれば発生しなかった費用になりますので、その場合の取り扱いを考えなければなりません。業務での使用とそれ以外で料金の区別が可能であれば良いですが、実際上は困難だと思われます。少ない日数であればともかく、テレワークが原則あるいは常態となる場合、いつテレワークを行うべき状況が終わるか分からない状況が続くことを考えると、従業員の負担も大きくなりますので、こちらも一定金額を手当として支給することが考えられます。

なお、テレワークと通勤して業務を行う日が混在するような場合には、通信費とともに、テレワークを行った日を基準に割合的にその一部を負担してもらうことも考えられます。例えば、テレワークを行った日の半分を従業員が負担する場合は下記のような規定例になります。

第〇条

貸与物に係る通信費について、1月あたりの通信費×当該月のテレワーク日/30日×1/2を会社が負担する。

2 在宅勤務に伴って発生する電気料金について、1月あたりの電気料金×当該月のテレワーク日/30日×1/2を会社が負担する。

(4)電話料金

テレワーク中の電話連絡については、家庭用の電話や従業員個人の携帯電話を利用するケースや、会社が貸与する携帯電話の使用を原則とするケースもあります。

会社が貸与する携帯電話を使用しない場合には、個人負担とするか、電話の請求明細などから、業務用通話分のみを会社が負担するのかといった方法を決めておく必要があります。

(5)その他

業務に必要な郵送費や事務用品費、消耗品費については会社負担で良いでしょう。

また、環境を整備したいという要望(例えば、床に座ってローテーブルで作業しているが、腰に負担がかかり作業効率が落ちるのでテーブルと椅子を購入したい、複数のモニターで業務を行いたい、など)が従業員からあった場合、その環境整備に要する費用を会社が負担するか否かは、その都度検討が必要となります。後の連載でも触れたいと思いますが、情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン等において、テレワークを行う際に適した作業環境が推奨されており、会社が従業員の作業環境を把握した上で適宜助言等を行うことが望ましいとされていますので、一定の環境整備にかかる費用負担は会社としても考えておくべきかと思われます。

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