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社会保険労務

令和3年2月4日

63.テレワークにおける労務管理 ⑤

今回は、テレワークにおける労働災害と安全衛生についてお話しします。

労災について

(1)これまでの連載で何度かお話ししているとおり、テレワークを行う従業員に対しても、労働基準法を中心とする各種労働法の適用はあります。

労災についても同様です。会社における勤務と同様、従業員が業務上被った傷病等の災害に対して補償する制度が適用されます。労災には、大きく分けて「業務災害」(業務中の災害に関するもの)と「通勤災害」(自宅と勤務先との移動時の災害に関するもの)の2種類があります。

テレワークであっても業務災害は発生し得ますので、業務と傷病等の間に一定の因果関係があれば補償の対象となります。個別の判断は、所轄の労働基準監督署が行いますが、テレワークで労災が認定された具体例としては、トイレのために作業場所を離席し、戻って椅子に座ろうとした際転倒して怪我をしたケースがあります。その他、パソコン作業により腱鞘炎になった場合も該当する可能性があります。

一方、私的行為など業務以外が原因であるものについては業務災害とは認められません。例えば、自宅で子どもの世話をしている際に被った怪我や、気分転換や昼食のための外出の際に被った怪我などが考えられます。

また、通勤災害についても、従業員が自宅で業務を行う「在宅勤務」では問題になりませんが、ノートパソコンや携帯電話等を活用して顧客先、出張先等で業務を行う「モバイル勤務」や、自宅近くや通勤途中の場所に設けられたメインのオフィス以外の場所で業務を行う「サテライトオフィス勤務」の場合には、その自宅と就業先との往復(合理的な経路及び方法に限ります)に被った災害については補償の対象となり得ます。

テレワークを行う従業員の中には、業務災害あるいは通勤災害について労災保険給付の対象となり得ることをしっかりと理解していない可能性もあるため、会社としては、この点を十分周知して説明することが望ましいと言えます。

 

(2)テレワークにおいて何らかの事故が生じた場合、会社内と違って、従業員のプライベートな空間で生じるため、労災であるか否か曖昧な場合があります。先に述べたように、私的行為の場合は業務災害であるとは認められませんので、業務時間とそれ以外の境界をできるだけ明確にしておくことが求められます。

そのため、テレワークの第3回連載でも触れましたが、休憩や私用のために中抜けする場合には従業員からの連絡を義務付けるようにしましょう。業務開始時と終了時も同様です。これは、会社として労働時間を管理しやすくするという意味合いもありますが、労災の点からも、かたちを残すことで、業務時間とそれ以外の時間の区別がつくようにしておくことに意義があります。

 

(3)最近は、新型コロナウイルス感染症の流行拡大による影響を受けて、テレワークを導入された会社も多いと思います。そうすると、コロナ禍が長期化することで、必然的にテレワークも長期化する状況も生じます。その際、一人で自宅で作業することにより孤独感で気分が落ち込みうつ病に罹患する従業員が出てくる可能性もあります。

業務による心理的負荷が関係した精神障害に対する労災の認定については、平成23年12月から、より迅速で明確な判断ができるようにと、厚生労働省が「心理的負荷による精神障害の認定基準」を新たに定め、これに基づいて労災認定が行われることになっています。

そこでは、労災認定のための要件として、

① 認定基準の対象となる精神障害を発病していること

② 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること

③ 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

が挙げられています。細かい説明は省略しますが、認定基準では、上記②の要件である強い心理的負荷が認められるための類型が具体的に挙げられ、長時間労働がある場合の評価方法についても述べられています(詳細はこちらをご覧ください)。

通常勤務からテレワークに勤務形態が変化したというだけでは、強い心理的負荷があったと認められることはまずありませんが、通勤時間が減る分、労働時間が増え、時間外労働が多くなると、強い心理的負荷があると判断される可能性もあるので、労働時間の管理は特に重要です。

また、できるだけテレワークを行う従業員が孤独に陥らないように、オンライン会議等で従業員同士のコミュニケーションをとる機会を設けるなどの配慮が必要でしょう。

安全衛生について

(1)テレワーク従業員に対しても他の従業員同様、労働安全衛生法が適用されますので、関係法令等に基づき、過重労働対策やメンタルヘルス対策を含む健康確保のための措置を講じる必要があります。

具体的には、健康診断の実施(年一回の一般健康診断、特定の有害業務に従事する従業員に対する特殊健康診断等)、長時間労働者に対する医師による面接指導等ストレスチェック等の実施などです。

(2)また、自宅等でテレワークを行う際の作業環境整備にも留意する必要があります。

厚生労働省による「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」では、事務所衛生基準規則(昭和47年労働省令第43号)や労働安全衛生規則及び「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(令和元年7月12日基発0712第3号)の衛生基準と同等の作業環境となるよう、テレワークを行う労働者に助言等を行うことが望ましいとされています。

参考までに、これらの規則やガイドライン等から導かれるテレワークに適した具体的な作業環境の整備内容についてご紹介いたします。

[厚生労働省「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」より抜粋]

 

仮に従業員がテレワークを行う際の作業環境に気を配らずに労災が発生した場合に、会社に安全配慮義務違反があったという判断に繋がる可能性がありますので、そのような労災発生を防止するという意味でもその対策は重要となります。

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