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社会保険労務

令和4年3月10日

72.SOGIハラ対策について

前回、労務判例フォローアップにて、トランスジェンダーのトイレ使用を制限した措置の違法性が問題となった判例をご紹介しました(詳細はこちら)。

その末尾でも触れましたが、性的指向(Sexual Orientation)や性自認(Gender Identity)に関する差別や嫌がらせを受けることがSOGIハラと呼ばれ、社会問題になっているという現状があります。

セクハラやパワハラについての理解はある程度進んでいる事業主でもSOGIハラの理解が不十分な方もおられると思います。

そこで、今回は、SOGIハラとはどういうもので、会社としてどのように対応していくべきかについてお話しします。

 

労働施策総合推進法が改正され、職場におけるパワーハラスメントの防止措置の義務付けが、大企業は令和2年6月から施行されており、中小企業についても令和4年4月から施行されます。

また、同法の成立を受けて「事業主が職場における優越的な地位を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」が策定されています。同指針においては、パワハラには、「相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む」と明記されています。また、パワハラの一態様として、本人の了解を得ずに性的指向や性自認について他の労働者に暴露することも挙げられています。

つまり、令和4年4月からはすべての企業がSOGIハラ防止対策の実施が義務付けられるようになるのです。対策を怠った場合は、労働局による助言・指導・勧告が行われる可能性があります。

SOGIハラは最悪の場合、従業員の精神疾患の発症や退職といった、会社にとって大きな損失につながる可能性もあります。また、令和3年2月には、職場で精神障害を発症したことがSOGIハラを受けたためとして労災認定もなされています。SOGIハラを放置すると、従業員から安全配慮義務違反や使用者責任を問われる事態に発展する可能性があるのです。

 

では、SOGIハラとはどのようなハラスメントをいうのでしょうか。

具体的には、SOGIを理由に以下のようなハラスメントを行うことがSOGIハラに該当するとされています。

 

① 差別的な言動や嘲笑、差別的な呼称

一番多いパターンかと思われます。「オカマ」「ホモ」「レズ」といった差別的なニュアンスを伴う呼称を用いたり、「ホモ(レズ)は気持ちが悪い」「恥ずかしい」などという侮蔑的な言動・態度をとったりすることです。「オトコ女」など、同僚の外見や行動、発言を性的指向や性自認と結びつけてからかう行為も該当します。こういった言動は軽いジョークのつもりで悪気がないケースもあるため、意識して改善する必要があります。自分の何気ない一言が他人を傷つけているかもしれないという自覚を持つことが必要でしょう。

ちなみに、上で触れた労災認定されたという事案も、生物学的性別が男性で心理的性別が女性の看護助手が、職場である病院で男性のような名前で呼ばれるなどした言動が「(看護助手の)性的指向・性自認に関する侮辱的な言動」でパワハラに該当するとした上で、人格や人間性を否定するような攻撃が執拗に行われたケースに該当するため、心理的負荷について3段階で最も上の「強」と判断された事案でした。

② いじめ、暴力

性的指向や性自認を理由としたいじめや暴力行為はもちろん許されません。無視するような態度をとることも同様です。

③ 望まない性別での生活の強要

男女別の制服やスカートを履くことを強要したり、トイレの使用を制限することなどです。本人が嫌がっているにもかかわらず女性が接待する店に行くことを執拗に誘うなども該当します。

④ 不当な異動や解雇、就労拒否など

性的指向や性自認を理由に不当な処分をすることは許されません。

女性の服装・化粧での出勤を禁止する服務命令を出し違反した従業員を懲戒解雇した事例や、化粧をして業務に従事したことを理由に就労拒否した事例について、いずれも処分を無効とする裁判例があります。

また、SOGIハラを報告したことで、結果的に本人が異動、退職を余儀なくされるような事態は避けなくてはいけません。特に、上司から部下へSOGIハラが行われた場合、報復的な人事やさらなるパワハラが起こらないように、注意深く対策を講じる必要があります。

⑤ 本人の同意なくSOGIを公表すること

性的指向・性自認をいつ誰に伝えるのかは本人の自由であるにもかかわらず、同意なく第三者が他人に性的指向・性自認を公表すること(「アウティング」といいます)です。相談を受けた上司や担当者から情報が漏れてしまうことも考えられますので注意が必要です。

SOGIハラ対策

① 会社としての方針の明確化

会社としてSOGIハラを許さないという方針を明確に示しておくことです。就業規則に性的指向・性自認に関する差別禁止を明記したり、SOGIハラの内容や制度等を社内報やパンフレット、HPなどで周知することも重要です。

② 社内研修の実施

性的指向を中傷したり、男らしさ女らしさの規範から外れることを侮辱しないことなどを理解してもらうために、どういった言動がSOGIハラに該当するのかについて研修を行うことも重要です。特に相談を受けることが多いと思われる管理職について気をつけるべき言動やカミングアウトがあった際の対応を学んでおく必要があります。

③ 相談窓口の設置

SOGIハラがあった際の相談窓口を設置しておきます。すでにパワハラ・セクハラの相談窓口がある場合は、SOGIハラについての相談も可能である旨を周知しておきます。また、相談対応における2次被害発生を防止するために、相談担当マニュアルを作成しておくことも重要です。特に、プライバシーの保護には十分に気を配る必要があります。相談対応の過程で情報が漏れれば、SOGIハラの被害者をさらに傷つける可能性があるため、相談対応の際は、SOGIに関する情報をどの範囲にまで伝えているのか、どの範囲まで共有が許されるかなど、本人の希望を確認したうえで対応するようにしましょう。なお、相談者によっては担当者の性別希望がある場合があるので、できれば男女の担当者を決めておくと良いでしょう。

④ 制度及び設備の配慮

まず、制服の着用を義務付けている会社の場合、男女の区別を見直し、女性にスカートの制服を強要しない、差をなくしたデザインにするなどの配慮をすることが考えられます。

トイレについても性自認と一致しないトイレを利用することのストレスを考慮して表示を工夫したり、男女共用のトイレを設置することが考えられます。

更衣室については、個室やカーテンで仕切るなどの工夫が必要です。

さらに、手当(扶養手当など)や祝い金や休暇などの取扱いを同性・異性問わず事実婚のパートナーについても法律上の配偶者と同じ取扱いにすることも検討に値するでしょう。

その他にも通称名の使用を認めるといった措置などが考えられます。

 

まとめ

法律の整備はなかなか追いついていませんが、同性婚を認めないことに対する違憲判決が出たり、同性カップルにおいて不貞行為に対する慰謝料請求が認められるなどの裁判例が相次いでいます。また、令和4年1月4日時点で、147の自治体が、同性カップルの証明や宣誓の受付を行うパートナーシップ制度を導入しています。

性的マイノリティを示すLGBTと違い、SOGIは属性そのものですので、誰にでもあてはまる概念です。性的指向や性自認にとらわれない社会の枠組み作りが進んでいる状況の中で、一企業としても、そうした問題を身近な問題ととらえ、少しずつ価値観を変えていく取り組みが必要かと思われます。働きやすい職場を作り、企業イメージの向上や生産性アップにもつながる可能性もありますので、是非SOGIハラ対策に取り組んでみてください。

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