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平成26年1月29日
本件は、XがY社に対して、雇用契約の地位の確認とともに、未払賃金等の支払を求めて訴えたという事例です。
本件における大きな争点は、Xについて、「休職期間中において、休職事由が消滅した」と認められるか、です。
Xの復職可能性を検討すべき職種は、従前Xが従事していた「総合職」である
総合商社であるY社の総合職の業務のうち、Xが従事していた営業職は、社内外の関係者との連携・協力が不可欠であるから、これを円滑に実行することができる程度の精神状態にあることが最低限必要とされる
また、営業職以外の総合職である管理系業務においても、社内外の関係者との連携・協力が必要であることは営業職と同様であるから、いずれの職種にしても、業務遂行には、対人折衝等の複雑な調整等にも耐えうる程度の精神状態が最低限必要とされる
双極性障害は、一定期間症状が治まったとしても、再び症状が悪化する危険性が極めて高い等の特質があること及び治療の困難さからは、治療を継続しての復職はもちろんのこと、社会復帰でさえも大きな困難を伴う
以上の判断のもと、休職期間満了時に、XがY社に復帰出来るまでに病状が回復したとは認められないとして、Xの請求を退けました。
休職している従業員が診断書を持ってきて復職を求めてきた場合に、従前の業務に復職できるほど症状が回復していなければ復職させないで良いか、言い換えれば、従前の業務以外に当該従業員が行える他の職種がある場合、その職務に復職させるべきか、が問題となります。
(1)この点、平成10年4月9日の最高裁判決(片山組事件)が1つの判断基準を示しています。
この判決は、建築会社の現場監督がバセドー病に罹患し、会社から欠勤扱いされたことに対し、事務仕事なら可能なので欠勤扱いは不当だと会社を訴えた、という事案です。その中で、最高裁は、「労働者の能力、経験、地位、会社の規模、業種、労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして、当該労働者が配置される現実的可能性のあると認められるほかの業務について労務の提供が可能で、その提供を申し出ているのならば」復職に応じなければならないとし、当該従業員を事務仕事に復職させなければならない、との判断を示しました。
(2)上記最高裁判決によると、会社が休職中の従業員について、従前の業務が困難であっても、会社内にある他のすべての業務について復職可能性を検討しなければならないように思えます。
しかし、最高裁は「現実的可能性」との文言を使用していることから、会社が特別な教育や就業上の配慮を施さなくても担当可能な業務を基準にすれば良い、と一定の歯止めをかけていると解釈できます。また、最高裁の事例では、当該従業員が現場監督業務以外にも日頃から通常作業として事務作業を行っていたという事実が重視されています。
よって、必ずしも従前の職務以外の業務に復職させなければならない、というわけではありません。
本判決においても、Xは、上記最高裁判決を引用して、配置換え等により現実に配置可能な業務に従事させるべき、と主張しましたが、Xは総合職として採用されたのであるから、復職は、配転可能な会社の全ての業務を指すのではなく、総合職の範囲内で考えるべきという判断をしています。雇用された職種に限定した本判決の判断は妥当なものと言えます。ただ、会社の企業規模によっては、例えば、鉄道会社のような大企業の事案で、歩行困難な後遺症を発症した従業員に、その能力に応じた職務を分担させる工夫をすべきという下級審判例も出ていますので、注意は必要です。
ところで、休職中の従業員から復職を求められた場合、会社が復職させるか否かの最終的な判断を下すことになります。
本判決では「従前の職務を通常の程度に行える程度の健康状態に回復したこと」というこれまでの裁判例の判断と同様な考えを示していますが、その判断を行うにあたって、また、実際に復職させるにあたって、会社として気を付けるべき点は何でしょうか。
(1)まず、休職中も定期的に本人と連絡をとることが肝要です。会社として窓口担当者を決めて本人の様子を窺うことは、後々、職場復帰の判断をする際に大きな参考となります。とはいえ、本人の負担にならないよう留意しましょう。病状が良くない場合はメール、良くなってきたら電話や面談とし、頻度も本人の体調にあわせて最初は1か月に1回程度として、徐々に2週間に1回などと上げていくようにしましょう。会社の現状を知らせてあげることも必要です。本人が焦らないよう、回復をじっくり待っていると伝えるようにしましょう。
(2)また、判断材料は多い方が良いので、体調が良くなってきた段階で、本人に生活記録をつけさせましょう。
(3)復職にあたっては医師の判断を参考にすることになります。ただし、主治医の意見というのは、本人や家族の希望を多分に含んでいる可能性があることと、日常生活レベルの復帰を前提にしている可能性があり、その職場で求められる業務遂行能力まで回復しているかは考慮していない可能性がありますので、それらの点も加味して慎重な判断が必要です。
(4)仮に復職させる場合は、復職プランを作成しましょう。職務を軽減させる場合はその軽減内容(別の部署に変更するか、短時間勤務とするか、など)、復職後の産業保健スタッフ等の面談の頻度、医療機関の受診や服薬等の遵守事項の確認、給与等待遇の取り決め、などを盛り込んでおきます。
なお、復職の前提として、本件でも行われていたトライアル出勤は有効な手段だと思いますが、その間は例え軽作業や短時間であっても業務を命じている以上、労基法が適用されますので、賃金を支払う必要が生じます。よって、当該従業員が傷病手当金を受給している場合、その額が減額あるいは不支給になる可能性がありますので、その点の説明は十分しておきましょう。
(5)最後に、就業規則に、例えば、以下のような規定を設け、従業員の理解を求めておきましょう。
ただ、このような規定があることで紛争を必ず予防できるものではありませんし、従前の職務以外の職務には復職させる必要がないと認められるとは限りません。飽くまで、従業員との話し合いを有利に進めるための材料であるとの割り切りが必要です。
平成22年(ワ)第40050号 地位確認等請求事件
平成25年1月31日 東京地裁判決
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