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社会保険労務判例フォローアップ

平成26年4月30日

6.違法派遣について派遣先の不法行為が認められた判例

事案の概要

Y社は、空調機器、環境機器等の開発・製造・販売等を目的とする株式会社である。
Xは、平成16年8月2日、A社に有期雇用され、同日からY社の工場において、特定有害物質の含有量の調査に関する業務等に従事するようになった。
XはA社が労働者派遣から撤退することになったため、平成20年11月1日、B社(新たな派遣会社)との間で、有期雇用契約を締結し、従前と同様A社の工場に従前と同様の業務に従事していた。
B社はXに対して、平成21年2月27日、契約更新を拒絶し、同年3月31日をもって雇い止めにした。

本件は、以上の事実関係のもと、Xは、①雇用主が実質的にはY社であり、Y社との間で黙示の労働契約が成立したとして、雇い止めは解雇権の濫用で無効であると主張し、Y社に対し雇用契約上の権利を有する地位の確認と賃金等の支払を求めました。

また、②Xは、Y社が実質的雇用主であることを隠蔽し、偽装派遣といった契約形態で就労させ、また、派遣労働の期間制限を潜脱するために業務の内容を偽装し、あたかも適法な派遣労働の期間満了による終了であるかの体裁を繕って契約更新を拒絶したものであり、Xに多大な苦痛を与えたとして慰謝料を請求した、という事例です。

 

争点

本件における大きな争点は、①派遣法に違反する労働者派遣が行われたこと等によりXとY社の間に黙示の雇用契約が成立したといえるか、②Y社のXに対する不法行為の成否、の2点です。

 

本判決の判断

争点①について

XのY社における就労が、労働者派遣法上の派遣受入可能期間の制限に違反するという違法なものであっても、XとY社との間に黙示の労働契約が成立したとは認められない

なお、Y社が派遣元による採用や給与の額の決定に影響を与えたことは認められるが、Y社が派遣元の採用に関与していたとか、給与等の額を事実上決定したとまでは認めることは困難である

争点②について

派遣労働者を受け入れ、就労させるにおいては、労働者派遣法上の規制を遵守するとともに、その指揮命令の下に労働させることにより形成される社会的接触関係に基づいて派遣労働者に対し信義誠実の原則に則って対応すべき条理上の義務があるというべきであり、ただでさえ雇用の継続性において不安定な地位に置かれている派遣労働者に対し、その勤労生活を著しく脅かすような著しく信義にもとる行為が認められるときには、不法行為責任を負うと解するのが相当であるとしました。そして、

Xは担当業務に関して、正社員を含め代わる人材がいないほど重要な人材となっていた
Xが給料の低さを理由に退職しようとした際、Y社は派遣料を引き上げるまでして慰留し、派遣元が撤退する際には、代わりの派遣元を手配するまでしていたことから、Xは近い将来打ち切られることは予想していなかった
Xは、Xが休んでも困らないように担当業務のすべてをY社の正社員に教えるように指示され、その指示に従って正社員を育成したところで、実質だまし討ちのように派遣打ち切りを通告された
Xの派遣料は一般の相場からは非常に安く、同じY社グループの中でも高くも低くもなかった

といった各事実を指摘した上で、Y社の行為は著しく信義にもとるものであり、Xの派遣労働者としての勤労生活を著しく脅かされ、多大な精神的苦痛を被ったことが認められるとして、派遣先であるY社の不法行為責任を認め、慰謝料100万円の支払を命じました

 

コメント

本判決は、争点①については、リーディングケースであるパナソニックプラズマディスプレイ事件(平成21年12月18日最高裁判決)と同様の判断を示しました。つまり、派遣法違反が認められる場合でも、公序良俗違反のような特段の事情のない限り、そのことだけによって派遣労働者と派遣元との間の雇用関係が無効になることはなく、また、当該労働者と派遣先との黙示の雇用契約についても直ちに成立が認められるわけではない、としました。

他の裁判例を見ても、派遣先と労働者間の労働契約を成立が認められると、労働契約法、労働基準法等の規定の適用を受け重い責任を派遣先が負うことになることを考慮してか、通常の民法上の契約よりも裁判所も慎重に認定している傾向にあります。とはいえ、労働者から派遣先との間に黙示の雇用契約が成立したとの主張がされることは多く、認められる場合もあります(上記判決の控訴審では認めていた)ので、楽観視は出来ません。

そもそも、労働契約とは、労働者が労務を提供し、使用者がこれに対して賃金の支払いを約束するという合意によって成立し、その合意は黙示でも成立するのです。つまり、労働者と使用者との間で、労務の提供とこれに対する賃金の支払いを前提に行動していることが認められれば、黙示での労働契約の成立は認められる可能性が高くなるわけです。現に本判決でも、①BがY社に対し、労務の提供を約束したといえる事実、②Y社がBに対し、①に対して賃金の支払を約束したといえる事実、の有無を検討しています。

よって、派遣先としては、労働者との間で雇用契約が成立しているとみなされないために、派遣の枠組みを超えるような関与はしないことが肝要となります

具体的には、

派遣労働者の人選や面接に加わるなど、派遣元の採用や人事に関与しない(なお、労働者派遣法上、派遣先が派遣労働者となる者に対して、事前面接を求めたり、履歴書の送付を求めるなどの行為は禁止されています(労働者派遣法26条7項
労働者の賃金決定に関与しない(派遣元の決めた賃金に口を挟まない)

ことが重要です。

 

また、本判決は、派遣先に不法行為の成立を肯定した、という意味で重要性があります。

これまでの下級審判例の傾向として、単なる違法派遣であれば、それは行政法違反であり、私法上不法行為が成立するとまでは言えないが、単なる違法派遣を超えて、派遣労働者の勤労生活を著しく脅かすような著しく信義にもとる行為がある場合は不法行為が成立し、当該労働者に慰謝料支払を命じる傾向にありました。

本判決はその判決の流れを汲むものです。

よって、例えば、政令26業務(専門26業務とも呼ばれ、派遣受入期間の制限がない業務)には該当しないにもかかわらず、安易に該当すると判断した結果、長期にわたって労働者に派遣契約の継続に期待を持たせるという対応をしてしまうと、不法行為が成立する可能性が高くなります。政令26業務に該当するか否かは、微妙なケースが多いので、その判断は慎重に行う必要があります

 

最後に、本判決は派遣先に対する責任が問われた事案ですが、派遣元にも法律の規定に違反することのないように派遣労働者の適正な派遣就業を確保する配慮が義務づけられている(派遣労働法31条)ことを考えると、連帯して責任を問われてもおかしくありません。

このほかにも、派遣元あるいは派遣先として留意すべき点は多くあります。特に昨今派遣業務への規制が厳しくなり、その傾向が今後も続くと思われる中、違法派遣だとみなされないための対策が必要となります。派遣について特に注意すべき点についてはまた別稿でお話させていただきますが、派遣元、派遣先いずれも本判決を含む最近の判例傾向、また今後の派遣法の改正動向には十分留意しておくことが必要でしょう

 

参考

平成24年(オ)第882号、平成24年(オ)第1077号  地位確認等請求事件

平成24年10月12日 最高裁第二小法廷決定

平成24年(ネ)第615号  地位確認等請求事件

平成24年2月10日 名古屋高裁判決

* 事案を分かりやすくするため一部事実を変更しています。

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