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社会保険労務判例フォローアップ

平成26年6月30日

7.短時間労働者と正社員との待遇の差について損害賠償が認められた判決

非正規労働者の割合は年々増加し、今や3人に1人以上が非正規労働者という状況の中、その職務内容が正社員と変わらなくなってきています。

その流れの中で、短時間労働者の差別的取扱いを根拠に、正社員との賃金の差額等を損害として認めたという、事業主にとって衝撃的で、今後大きな影響を与えそうな判決がでましたので、ご紹介します。

事案の概要

Y社は、石油製品等の保管及び搬出入作業、貨物自動車運送事業等を目的とする株式会社である。
Xは、Y社との間で平成18年4月1日から1年間を期間とする労働契約を締結し、Y社の「準社員」として雇用され、毎年更新を重ね、平成24年4月1日から平成25年3月31日まで1年間を期間とする労働契約に更新した。
Xは、タンクローリーによる危険物等の配送業に従事しており、正社員と同じ職務であった。
Y社での正社員の1日の所定労働時間は8時間、準社員の1日の所定労働時間は7時間の者と8時間の者がいたが、Xは7時間であった。
Y社では、Xを含む準社員と正社員との間で以下のような待遇の差があった。
正社員の年間賞与額は平均55万円を超えるのに対し、準社員の年間賞与額は15万円と40万円以上の差があった。
正社員の1年間の週休日(日曜日、国民の祝日、年末年始を除いた休日)が39日であったのに対し、準社員の週休日は6日と30日を超える差があった。
正社員には退職金が支給されるのに対し、準社員には支給されない。
Y社は、Xに対し、平成25年3月23日、同月31日をもって労働契約の更新をしないことを通知した。

本件は、以上の事実関係のもと、XがY社に対して、

1.更新拒絶は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないとして、雇用契約上の権利を有する地位の確認や慰謝料の支払などを求めるとともに、

2.短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(いわゆる「パートタイム労働法」)8条1項に規定する正社員との差別的取扱いにあたると主張し、①Y社の正社員と同一の待遇を受ける雇用契約上の権利を有する地位の確認、及び、②不法行為に基づく損害賠償請求を求めた、という事例です。

なお、「準社員」というのは法律上の用語ではありませんが、契約期間の有無、賃金体系の相違、業務に対する責任の程度の相違といった点で、実務上「正社員」と区別して使用されています。

 

争点

本件の争点は多岐にわたりますが、大きな争点は、①Y社の更新拒絶が相当か否か、②パートタイム労働法8条1項違反の有無、③同条項違反に基づいて請求できる内容、の3点です。

 

本判決の判断

争点①について

Y社において、①労働契約の更新の際、就業規則に記載されていた面接が必ずしも行われていなかったこと、②仮に何らかのかたちで面接が行われていたとしても労働期間の制限があることについて従業員の理解を得られるような説明をしていたとは認められないこと、③更新拒絶の件数が少なかったこと、④正社員と準社員の間で、転勤や出向、役職への任命等の人材活用の仕組みに大きな差は認められないこと、などといった実情に鑑みると、XとY社の有期労働契約は、過去に反復して更新されたことがあるもので、その契約期間の満了時に更新しないことにより契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を解雇により終了させることと社会通念上同視できると認められ、仮にそうでなくても、Xが契約更新を期待する合理的な理由が認められる、とした上で、Y社の主張する更新拒絶の理由には、合理的な理由や相当性がない、と判断しました。

そして、Xが労働契約上の地位にあることの確認を認めるとともに、Y社の更新拒絶は不法行為にあたるとして、慰謝料50万円の支払いを認めました

争点②・③について

争点①で認定したようなXとY社との労働契約の実情に鑑みると、Xは、パートタイム労働法8条1項において、通常の労働者との差別的取り扱いが許されない「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」に該当する、としました。

その上で、正社員と準社員とで異なる、賞与、週休日、退職金についての待遇は、そのような差を設けることに合理的な理由があるとは認められず、短時間労働者であることを理由に差別的扱いをしているもので、不法行為に該当するとしました。その上で、賞与の差額分、週休日に働いていたらもらえたはずの賃金の合計額を損害として認めました(なお、退職金はXとY社間の労働契約が存在するとして認めませんでした)。

 

コメント

本判決は、比較的最近法改正された内容が対象になっています。

1つは、平成24年8月に施行された改正労働契約法19条です。

※改正労働契約法19条:有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一  当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二  当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

この条文は、有期労働契約の期間満了時に使用者が更新を拒否する、いわゆる「雇止め」について、過去の最高裁判例などで確立されていた無効とされるルールを明文化したものです。つまり、①有期労働契約が過去に反復更新されていて、その更新を拒否することが、無期労働者を解雇するのと同視できる場合や、②労働者が、契約更新を期待する合理的理由がある場合には、雇止めを行うことについて、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められなければ、雇止めが認められないのです。

ただ、これは従来からある判例上のルールがはっきりと明文化されただけなので、特に目新しい対策が必要となるわけではありません。今回の判例を見ると、有期契約社員に対する更新拒否の可能性についての説明(少なくとも更新を期待させるような言動は絶対に慎むこと)と、無期契約社員と有期契約社員との間で責任の範囲や人材活用基準(転勤、出向、昇格・昇進)の相違を明確にしておくことの2点が重要であることが分かります。

 

そして、もう1つが平成20年4月から施行された改正パートタイム労働法8条の規定です。

※改正パートタイム労働法8条:事業主は、業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)が当該事業所に雇用される通常の労働者と同一の短時間労働者(以下「職務内容同一短時間労働者」という。)であって、当該事業主と期間の定めのない労働契約を締結しているもののうち、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されると見込まれるもの(以下「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」という。)については、短時間労働者であることを理由として、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、差別的取扱いをしてはならない。
2  前項の期間の定めのない労働契約には、反復して更新されることによって期間の定めのない労働契約と同視することが社会通念上相当と認められる期間の定めのある労働契約を含むものとする。

この規定は、無期労働契約を締結している、あるいはこれと同視できる短時間労働者について、職務内容や人事異動の有無や範囲が通常の労働者と異ならないのであれば、通常の労働者と比較して、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用などの待遇について差別的取扱いをしてはならない、というものです。本判決は、この規定が初めて真正面から争点となった事案であるとともに、その結論として、正規労働者との賃金の差額を損害として認めるという、事業主の方にとっては無視できない判決となっています。

そして、パートタイム労働法は、さらに平成26年4月に改正法が公布され(施行日は未定だが1年以内に施行予定)、同条の規定の内容が変わりました。具体的には、上記の「無期労働契約を締結している、あるいはこれと同視できる」という部分が削除され、期間の有無にかかわらず、短時間労働者と通常の労働者との差別取扱いが禁止されることになります。また、平成25年4月1日から施行された改正労働契約法20条における無期労働者と有期労働者の労働条件の相違の不合理を禁じる旨の規定の新設を受けて、パートタイム労働法にも、短時間労働者と通常の労働者との待遇の相違について、職務内容や責任の程度等の相違と比較して、不合理であってはならない、との規定が新設されました。

つまり、今後は、正社員との差別的取扱いが禁じられる短時間労働者の範囲が拡大し、労働条件の相違が合理的か否かについて厳しく判断されるようになるであろう、ということです。この先、本判決と同種の紛争が増えてくることが予想されます。

そこで、事業主として求められるのは、改めて、短時間労働者と正社員の待遇の差について検証することです。労働条件の相違がどのような理由に基づくものか、単に短時間労働者だからという理由だけでそうした相違を設けていないか、を検証してみることが大事です。そして、短時間労働者と正社員との労働条件に差を設けるのであれば、両者の職務内容あるいは人材活用の仕組みについても差を設けておき、短時間労働者に対しては全員に対してその差に基づいた運用をすることがベストです。

法改正により求められる対応も変わってきます。常に最新情報を意識するようにしておきましょう。

 

参考

平成24年(ワ)第557号 正規労働者と同一の雇用契約上の地位確認等請求事件

平成25年12月10日 大分地裁判決

* 事案を分かりやすくするため一部事実を変更しています。

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