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社会保険労務判例フォローアップ

平成26年11月1日

10.マタハラについての最高裁判決

「マタハラ」という言葉をご存じでしょうか。マタニティ・ハラスメントの略で、一般的に、働く女性が妊娠・出産を理由として解雇や雇止めを受けたり、職場で精神的・肉体的な嫌がらせ、いじめを受けることなどとされています。妊娠が分かった途端、正社員から契約社員にされたり、給料を減らされたり、といった不利益な取扱を受けることも多くないようです。

そのマタハラに関して、最近、初の最高裁判決が出ましたのでご紹介します。

事案の概要

Yは、医療介護事業等を行う消費生活協同組合であり、複数の医療施設を運営している。
平成6年3月21日、Xは、理学療法士として、Yとの間で労働契約を締結し、Yが運営するA病院のリハビリ科に配属された。
平成16年4月16日、Xは、リハビリ科の副主任になり、平成19年7月1日には、Yの運営するB介護施設の副主任となった(その間、第1子を妊娠し産休育休を経て職場復帰を果たす)。
平成20年2月、Xは、第2子を妊娠し、軽易な業務への転換を請求した
Yは、上記請求を受けて、Xをリハビリ科に異動した。
その際、Yは、Xに対し、手続上の過誤で、Xに副主任を免ずる旨の辞令を出し忘れていたとして、Xに説明の上、副主任を免ずる旨の辞令を発した(本件措置)。Xは、副主任を免ぜられることについて渋々ながら了解した
産休育休を経て、平成21年10月12日、Xは職場復帰をしたが、副主任に任ぜられることはなかった

本件は、Xが、本件措置を不服として訴訟を提起したもので、副主任としての管理職手当及び慰謝料を請求した事案です。

 

争点

会社の行った降格措置が、男女雇用機会均等法9条3項が禁止する不利益な取扱に該当し、違法無効か否か

本判決の判断

一審、二審ともXの主張を認めませんでしたが、本判決はその判断を破棄しました(具体的な損害額については、原審に差し戻されたので本判決では判断されていません。ただ、管理職手当自体は本件の場合月額9500円とのことで大きな金額ではありませんが、一般的にこうした降格措置が違法であるとした場合に認められる慰謝料は数百万円になる可能性もあります。)

まず、本判決は、一般に降格を行うことは労働者に不利益な影響をもたらす処遇であるので、妊娠中の軽易業務への転換としては原則許されないとしつつ、

その降格について有利不利をきちんと理解した上で、自由な意思に基づく承諾があると認められる合理的な理由がある場合
円滑な業務運営や人員の適正配置の確保など業務上の必要性がある場合

には、許されるという基準を示しました。

本件では、特に①について、Xが副主任の地位を解くことに形式的に同意している点が問題になりましたが、管理職の地位と手当の喪失という重大な不利益を受ける一方で、育休後の副主任への復帰の可否について説明を受けた形跡がないことから、Xは事前に認識を得る機会がないまま渋々受け入れたに過ぎず、自由な意思に基づくものではない、と認定しました。②についても、副主任の地位を解くという本件措置以外に軽易業務へ転換する方法をとることが業務運営上支障があったか否かの事情が明らかでなく、実際に本件措置を行うことが業務上の負担軽減に繋がるのかも不明であるため、本人の受ける不利益等を考えると、業務上の必要性も認められないとしました。

コメント

本判決から言えることは、例えば、従業員から「妊娠によりハードな業務ができないので、身体的負担の少ない業務に変えてください」と言われた場合に(かかる請求自体は、労働基準法上認められていますので拒否することはできません)、降格を伴うような異動を行うことは避けるべきだということです。

とはいえ、役職のある人間が休んでいる間、当該ポストを空けておくわけにもいかず、かといって本人が復帰後に代わりにその役職に就かせた人間を簡単に別の部署に異動させられるかというと難しい点もあると思います。どうしても業務上の必要から降格を行う場合は、利益不利益について本人に対する説明を十分に行い自由な意思に基づく同意を確保するか、降格以外に業務軽減の方法をとることができない業務運営上の理由を説明できるか、降格を行うことが業務上の負担軽減に繋がるか否かの検証を十分に行う必要があるでしょう。

本判決では、妊娠や出産を理由に女性労働者に不利益な取り扱いをすることを禁じた男女雇用機会均等法9条3項の解釈が最大の争点となりました。

ところで、男女雇用機会均等法の施行規則の改正、新指針の制定が行われ、今年の7月1日から施行されていることはご存じでしょうか。ご存じない事業主の方はこの機会に内容を確認しておきましょう。こちらをご覧下さい。

そのほか、会社としては、妊産婦が請求した場合の時差出勤や残業の禁止、妊産婦検診を受けるときの賃金の取扱など就業規則を確認して整備しておくことが必要です。また、従業員が一時的に働けない休業の可能性は、妊娠出産を理由とする女性従業員だけでなく、病気や介護を理由として全社員に及ぶものです。社員が一時的に働けない場合の対応について、会社として就業規則等を一通り見直すことが重要ではないでしょうか。

 

参考

平成24年(受)第2231号 地位確認等請求事件

平成26年10月23日 最高裁第一小法廷判決

* 事案を分かりやすくするため一部事実を簡略化しています。

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