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平成27年1月31日
近年、労働者の権利意識の高まりに伴い、従業員から未払残業代を請求されるというリスクが高まっています。未払残業代の判断にあたっては、従業員の実労働時間が争いになることが多いですが、なかなか会社の主張する労働時間管理方法が認められるケースは少ないのが現状です。そんな中、今回ご紹介する判例は、会社が採用する労働時間管理方法が適切であったとしてその信用性が肯定され、残業代請求が棄却された数少ない事案の1つです。使用者としては参考になる部分も多いと思いますので、ご紹介致します。
以上の事実関係のもと、本件は、Xが、時間外労働および深夜労働に対する割増賃金(約185万円)と同額の付加金の支払等を求めたという事案です。
今回取り上げる主な争点は、時間外労働時間を認定する資料として、入退館記録表によるべきか、時間外勤務命令書によるべきか、です。
入退館記録表は、警備・安全上の理由から義務づけられているに過ぎない。確かに、入退館記録表に打刻された入館時刻から退館時刻までの間にXが事業場にいたことは認められ、また、打刻された退館時刻が、「時間外勤務命令書」に記載された「命令時間」を超えている日があることも認められる。しかしながら、
といった事情を考えると、被告における時間外労働時間は、「時間外勤務命令書」によって管理されていたというべきで、入退館記録に打刻された時間に関しては労働時間とは推認できない。時間外労働の認定は「時間外勤務命令書」によるべきである。
厚労省は、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」を定めています。その中では、始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法として、「使用者が、自ら現認することにより確認し、記録すること」あるいは「タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること」のいずれかの方法によることとされています。そして、実務上は、特段の事情のない限り、事務所にいる時間は労働時間とみなされ、また、労働時間の管理にタイムカード等を使用している場合は、その記録が労働時間と判断される傾向にあります。しかし、タイムカードで管理していたとしても、それが実際の労働時間とは限りませんし、タイムカードの打刻時間より実際の就業時間の方が短いのであればそちらを主張したいと考えるのは当然のことです。その場合は、本判決のように、タイムカード以外の労働時間管理方法を確立してその信用性の高さを担保できるかが重要となります。
労働時間管理方法は、本判決のような「時間外勤務命令書」を活用する方法に限りませんが、どのような方法をとるにせよ、気をつけるべき点は以下の2点にあると思います。
1つは、採用した労働時間管理方法について、就業規則に記載するだけでなく、実際上も、例外的な取扱いを認めず厳格に運用するということです。本判決は「時間外勤務命令書」を極めて厳格に運用していたことが高く評価されたと考えられます。実際、運用の徹底が不十分だと信用性を否定される判例が多く見られます。運用が形骸化していたり、例外を多く認めているような場合には、タイムカードなど他の認定資料をもとに労働時間を算定されてしまうことになるでしょう。
もう1つのポイントとしては、常日頃から従業員が実際に仕事場にいる時間について把握するよう努め、従業員から他の客観的証拠を持ち出されても対応できるようにしておくことです。従業員から提出される資料としては、タイムカードに限らず、パソコンの記録(ファイルのプロパティ情報、メールの送受信時間記録等)やビルのセキュリティ記録、スイカなどの乗車カードの記録、ETC情報、ガソリンの給油記録など様々なものが考えられます。それらの資料に表れる時間と会社の管理している時間との間で仮に齟齬があっても説明ができるようにしておくということが重要です。具体的には、常日頃から残業が終わったら早く帰るように促すとか、在社時間と管理時間の相違に気づいた場合はその理由について事情聴取して確認しておく(例えば業務外の用件をしていた、など)といった対策が必要になります。相違に気づいていながら放置していると、黙示的な超過勤務命令があったと判断されかねません。なお、実際に業務を行っているのに管理している時間と相違している場合は、管理方法自体を見直さなければならないことは言うまでもありません。
最後に、今回は割愛しましたが、本判決は、他に変形労働時間制や事業場外労働みなし制の適用の有無が争点になっています。いずれの制度も使用者側に不備があるとして適用が認められないケースが多い中、本判決は使用者側の主張を全面的に認めていますので、この点も参考になるでしょう。特に、事業場外労働みなし制については、以前ご紹介した判例では否定されていますので、その違いに注目してみると良いかと思います。
平成24年(ワ)第1990号 時間外賃金等請求事件(ヒロセ電機事件)
平成25年5月22日 東京地裁判決
* 事案を分かりやすくするため一部事実を簡略化しています。
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