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平成27年8月1日
本判決は、セクハラ加害者に対する会社の懲戒処分を無効とした高裁の判断を覆し、有効であると判断した最高裁判決です。最高裁がセクハラに対して厳しい態度で臨んだと注目された判決であり、職場環境の改善に良い影響に繋がる判決として評価できます。
今後、会社がセクハラ従業員に対して懲戒処分を行うにあたり参考にすべき判例だと思いますので、今回、ご紹介いたします。
本件は、X1及びX2が、出勤停止処分及び降格処分は無効であるとして、出勤停止処分の無効確認と、各降格前の等級を有する地位にあることの確認等を求めた事案です。
YがX1及びX2に対して行った出勤停止処分が権利の濫用として無効か否か(それに伴う降格処分が無効か否か)。
原審(大阪高裁)は、X1及びX2の行為がセクハラ禁止文書の禁止するセクハラ行為など会社の秩序又は職場規律を乱すものにあたり、懲戒事由に該当することは認めつつ、
などを考慮すると、出勤停止処分は処分として重すぎ、社会通念上相当とは認められない、と判断しました。
しかしながら、本判決は、上記各点に関して、
とし、X1らの言動の内容や回数、Aが本件各行為を一因として退職に至っていることなどからすると、管理職であるX1らが行ったセクハラ行為等がYの企業秩序や職場規律に及ぼした有害な影響は看過しがたいと判断しました。
その上で、X1らが過去に懲戒処分を受けたことがなく、出勤停止処分の結果相応の給与上の不利益を受けたとしても、本件出勤停止処分が重すぎて社会通念上相当でないとはいえず、懲戒権濫用にあたらず有効である、と判断しました。
原審も、X1らの行為が許されるものではなく、懲戒処分として厳しい姿勢で臨むYの態度に一定の理解を示していることは窺えます。それにもかからず、原審と今回の最高裁の結論は分かれており、その判断を分けたポイントはどこにあるのでしょうか。
(1)まず、上記①の判断に窺えるように、最高裁は、被害者の内心や行動よりも、セクハラ発言の客観的内容を重視して、加害者側に責任があるという姿勢を明確にしていることが挙げられます。今までの下級審判決では、被害者が嫌がっているように思えず外形的には同意があったように見えたとしても、その同意が真意に基づくものかどうかを慎重に判断するという傾向がありました。本判決により、そうした被害者の内心等はあまり考慮しないで判断する方向性を示したといえます。
(2)さらに、上記②の判断に窺えるように、高裁は、加害者がセクハラについて従前警告や注意等を具体的に受けていなかった点を加害者に有利に考慮したのに対し、最高裁は、会社がセクハラ防止に対する具体的な取組を行っていたことを評価し、加害者が役職上そうした会社の方針を十分理解し、実際に実践する立場にあったことを重視しています。
ということは、会社として、日頃のセクハラ対策についてのコンプライアンス体制の整備の重要性が改めて再確認されたといえます。具体的には、本事案のようなセクハラ防止研修の実施と参加義務化やセクハラ禁止文書を作成して社内に通知して従業員に啓蒙するなどといった方策の他に、相談窓口の設置、実際に相談があった場合の対応マニュアルの作成、などといった体制を整えることが考えられます。
本判決は、被害者の内心や行動、会社の事前の警告・注意の有無よりも、加害者の役職等の立場や、加害者が行った言動の客観的な内容、態様等を重視しているといえます。
今後、会社がセクハラ行為の加害者に対して懲戒処分を行う場合でも、それらの点を意識して適切な判断を行う必要があります。
平成26年(受)第1310号 懲戒処分無効確認等請求事件
平成27年2月26日 最高裁第一小法廷判決
* 事案を分かりやすくするため一部事実を簡略化しています。
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