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社会保険労務判例フォローアップ

平成30年5月16日

20.同一労働同一賃金に関する判例④(日本郵便事件・前編)

同一労働同一賃金」に関する判例の第4回として今回ご紹介する判例は、日本郵便事件です。日本郵便における労働契約法20条をめぐる争いは今回ご紹介する裁判例のほかにも、佐賀地裁(H29.6.30)、東京地裁(H29.9.1)など相次いで裁判例が出されており、誰もが知る大企業の非正規労働者が原告となった事案ということで、注目度も高いものです。本事例は、期間の定めのある労働契約を締結していた時給制の契約社員(以下「有期契約労働者」といいます。)が、期間の定めのない従業員である正社員(以下「無期契約労働者」といいます。)との労働条件の相違が不合理であるとして、正社員と同様の給与規程等が適用される労働契約上の地位にあることの確認と、差額の賃金等を会社に対して支払うよう求めた事案です。

一部の労働条件について正社員と差異を設けることが労働契約法20条違反であると判断されており、また、労働契約法20条をめぐる複数の争点について、これまでご紹介してきた裁判例を含めて裁判所の判断がある程度蓄積されている中で一定の判断が示されていますので、会社にとって今後の対応を検討するにあたって参考になる判例だと思われます。

なお、争点が多岐にわたるため、今回と次回の2回に分けて解説いたします。

 

事案の概要

Y会社は、郵便事業等を目的とする株式会社である。
Y会社が行う郵便事業は、従前はa省が取扱い、その後b庁、c公社を経て、平成19年10月1日には郵政民営化に伴い、郵政三事業を含むすべての事業がd1株式会社及びその下の事業会社(d2株式会社、d3株式会社など4社)へ移管・分割された。平成24年10月1日、d2株式会社がd3株式会社を吸収合併し、Y会社が成立した。
Xら3名は、それぞれb庁、c公社、d3株式会社で勤務するようになり、Y会社との間で契約期間を6ヶ月とする有期労働契約の更新を重ねて就労している時間制契約社員である。
Xらの業務内容は、郵便物の仕訳、配達、郵便商品等の営業販売等の郵便外務事務や、書留郵便物の処理や窓口業務等の郵便内務事務、その他これらに付随関連する業務である。
Y会社の正社員の人事制度は、平成25年度までの人事制度(旧人事制度)と平成26年度以降の人事制度(新人事制度)とでは、その内容を大きく異にしている
旧人事制度では、正社員は、「管理者・役職者」、「主任・一般」、「再雇用」に分類され、職群として、「企画職群」、「一般職群」、「技能職分」に区分され、「一般職群」は一般職等(以下「旧一般職」といいます。)として郵便局に配属されていた。
新人事制度では、管理職、総合職、地域基幹職、新一般職の各コースが設けられた。うち新一般職は、窓口業務、郵便内務、郵便外務または各種事務等の標準的な業務に従事する者である。
Y会社の従業員には、無期契約労働者(正社員)と時給制契約社員を含む有期契約労働者(契約社員)がおり、それぞれ旧人事制度及び新人事制度のもとで適用される就業規則や給与規程が異なる
Y会社における正社員及び契約社員の賃金や休暇等に関する相違は以下のとおり。
支給項目 正社員(期間の定めなし) 契約社員(期間の定めあり)
基本給 月給制 時給制
外務業務手当 該当者に1日につき570~1420円
(H26.3に廃止)
なし
年末年始手当 12月29日から31日まで1日4000円
1月1日から3日まで1日5000円
なし
早出勤務等手当 始業時刻が午前7時以前または終業時刻が午後9時以降となる勤務に4時間以上従事した場合、始業終業時刻に応じて350~850円 始業時刻が午前7時以前または終業時刻が午後9時以降となる勤務に1時間以上従事した場合、勤務1回につき、始業終業時刻に応じて200、300または500円
祝日給 祝日及び1月1日から3日に勤務した場合、所定の算式で計算した額 祝日に勤務した場合、支給対象時間に基本賃金の100分の35を乗じた額
夏期手当及び年末手当 該当者に所定の算式で計算した額 臨時手当(夏期賞与及び年末賞与)として、所定の算式で計算した額
住居手当 該当者に家賃あるいは住宅購入の借入額に応じて支給 なし
夏期冬期休暇 夏期:在籍時期に応じて1~3日
冬期:在籍時期に応じて1~3日
なし
病気休暇 業務上の事由または通勤による傷病は無給、その他の私傷病は有給 私傷病の場合1年度において10日の範囲内で無給
夜間特別勤務手当 夜間(午後10時から午前6時)の全時間勤務時に勤務時間・回数に応じて支給 なし
郵便外務(内務)業務精通手当 外務事務及び内務事務に従事する該当者に所定の算式で計算した額
(H26.3廃止)
郵便外務業務に従事する場合、時給の基本給として130円または80円が加算

本件は、上記の事実関係のもと、XらがY会社に対し、正社員と同様の給与規定等が起用される労働契約上の地位にあることの確認と、正社員に支給されるべき賃金等の差額(それぞれ約500万円前後)及び遅延損害金の支払等を求めた事案です。

争点

本件の主な争点は、労働契約法20条違反の有無です。

なお、労働契約法20条では、「有期契約労働者」の労働条件が、「無期契約労働者」の労働条件と相違する場合、その相違が、労働者の「職務の内容(業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度)」、「当該職務の内容及び配置の変更の範囲」、「その他の事情」を考慮して、不合理であってはならない旨が規定されています。

 

本判決の判断

まず、労働契約法20条違反が問題となるためには、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が、期間の定めの有無に関連して生じたものであることが必要だとした上で、本件の労働条件の相違は、正社員と契約社員とでは適用される就業規則等が異なることから、期間の定めの有無に関連して生じたものであることを認めました。

そして、労働契約法20条は、「不合理であってはならない」と規定されていることから、個々の労働条件ごとに、労働者が不合理であることを基礎づける具体的事実について主張立証責任を負い、会社が不合理であるとの評価を妨げる具体的事実について主張立証責任を負うとしました。

その上で、①職務の内容、②当該職務内容、配置の変更の範囲、③その他の事情、を総合的に考慮した上で不合理と認められるか否かを判断する、としました。なお、①職務の内容は判断要素の1つに過ぎないので、同条が「同一労働同一賃金」の考え方を採用したものではないと明言しています。

個々の労働条件ごとに相違の不合理性を判断すべきという点について、Y会社は、本事案で問題となっている各手当は賃金の一部を構成しており全体として一つの賃金体系が構築されていること、休暇についても人事制度や賃金体系と密接不可分に関連するから、個々の労働条件ごとに不合理性を論じるべきではないと主張していましたが、本判決は、密接に関連する労働条件や手当等に共通する趣旨については、個別の労働条件ごとの不合理性を判断する場合に、「その他の事情」として人事制度や賃金体系を踏まえて判断することになるので問題ないとしています。

Xらと比較対象とするべき正社員の範囲について

(1)新人事制度においては、管理職、総合職、地域基幹職、新一般職の各コースが設けられているところ、新一般職は、外務及び内務事務の標準的な業務に従事、1級担当者のままで上位級への昇任昇格は予定されていないこと、配置転換は転居を伴わない範囲でその可能性があるにとどまることなどから、担当業種や移動等の範囲が限定されている点でXら契約社員と類似することから、新一般職を対象とすべきとしました。そして、昇格昇任や配置転換等に大きな差異を有するコース別制度が採用され、コース間の変更が原則として認められていないことから、地域基幹職を併せて正社員全体と比較することも相当でない、と判断しました。

(2)旧人事制度においては、正社員は、「管理者・役職者」、「主任・一般」、「再雇用」に分類され、職群として、「企画職群」、「一般職群」(旧一般職)、「技能職分」に区分されているところ、旧一般職は、1級:担当者、2級:主任、3級:課長代理、4級:統括課長・課長までの4等級の昇格昇任が予定されており、業務上の都合または緊急的な業務応援により、出向、転籍、就業場所または担当職務の変更、配置転換等が予定されているとして、旧一般職全体と比較すべきである、と判断しました(旧一般職の職務内容が契約社員と共通していることが前提になっていると思われます)。

職務の内容の相違については以下のとおり判断しました。

時間制契約社員について

・外務事務又は内務事務のうち特定の定型業務にのみ従事

・職位は付されず昇任昇格もない

・人事評価は基本的事項や、担当する職務の広さとその習熟度についてのみ

・勤務時間の長さを限定するなど勤務時間等の指定がされる者がいる

と比較すると・・・

 

[旧一般職]

×
配達業務等の外務事務、窓口業務等の内務事務に幅広く従事することが想定されている
×
主任、課長代理、課長、部長・・・と昇任昇格していくことで、期待される役割や職責も大きくなっていくことが想定されている
×
人事評価は、業務の実績以外にも人材開発、部下の育成指導状況等、他組織等の業績に対する貢献度、自己研鑽、状況把握・論理的思考等が評価対象となる

    →大きな相違がある

 

[新一般職]

窓口営業、郵便内務事務、郵便外務事務等の標準的な業務に従事することが予定されている
1級の職位のみで上級位への昇任昇格は予定されていない
×
人事評価は、業務の実績以外にも人材開発、部下の育成指導状況等、他組織等の業績に対する貢献度、自己研鑽、状況把握・論理的思考等が評価対象となる
×
勤務時間の長さを限定するなど勤務時間等の指定がされる者がいない

    →一定の相違がある

 

職務の内容及び配置の変更の範囲の相違については、以下のとおり判断しました。

正社員 →
就業規則上、配置転換が予定されている
新一般職は、転居を伴わない範囲において人事異動等が命じられる可能性があり、実際にも異動が行われている
時給制契約社員 →
職場及び職務内容を限定して採用されている
正社員のような人事異動は行われていない(郵便局を移る場合は本人の同意に基づいて雇用契約を締結し直すというかたちをとっているに過ぎない)

    →旧一般職との間に大きな相違がある

     新一般職との間に一定の相違がある

以上の認定をもとに、個々の労働条件ごとについて、その相違が不合理なものであるか否かを検討しています(続きは次回解説します)。

コメント

最初にも述べましたが、本判決は、これまでの労働契約法20条をめぐる裁判例で蓄積されたルールについて一定の判断を示しています。これまでの判断を踏襲し同様の判断を示した点もあれば、新たに解釈基準を示した点もあり、今後の同種事案を考える上でも大きな影響を持ち、また参考になる裁判例であるといえます。

労働契約法20条では、有期契約労働者の労働条件が無期契約労働者の労働条件が「期間の定めがあることにより」相違している場合、その相違が不合理であってはならない、と規定されています。この「期間の定めがあることにより」という解釈については、本判決は、期間の定めの有無に関連して生じたものであることが必要であるとしており、この点は、従来の裁判例をほぼ踏襲しています。労働条件の相違について期間の定めとの関連性があれば良いとされ、厳密な因果関係までは要求されていない点で緩やかに解されますので、ほとんどの労働条件の相違が労働契約法20条違反の問題に絡むことになると思われます。

また、比較する労働条件の相違については、個々の労働条件ごとに比較する、としており、この点も従来の裁判例に沿った判断をしています。会社が賃金を決定する際には、全体の賃金の総額を大体想定した上で、具体的な内訳(基本給や手当等)を決めていくことが一般的であると思われるので、その中の1つ1つを取り出して比較するという手法には一定の疑問はありますが、一方で、本判決は、個々の労働条件が密接に関連する場合や手当等に共通の趣旨については、労働契約法20条の「その他の事情」で考慮するとしていますので、一応妥当な結論を導くことができると思われます。このあたりの判断手法を示した点は新しい視点です。ただ、後編で各労働条件についての本判決の判断をご紹介しますが、具体的な当てはめの場面で、必ずしも上記の事情が十分検討できていないのではないかと思われます。

比較対象とするべき無期契約労働者については、一般的な基準を定立しているわけではありませんが、業務の内容や人材活用の仕組みの具体的な実態に注目して契約社員と類似しているか否かで判断しており、その判断方法は参考になります。

後編では、それぞれの労働条件ごとの相違をどのように判断したか、また、労働契約法20条違反の効果や損害の算定の方法について解説します。労働条件の相違については、本判決は賃金以外の労働条件(休暇)についての不合理性を判断した初めての事案ですので、要注目です。

参考

平成26年(ワ)第11271号 地位確認等請求事件

平成29年9月14日 東京地裁判決

* 事案を分かりやすくするため一部事実を簡略化しています。

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