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社会保険労務判例フォローアップ

平成30年5月29日

21.同一労働同一賃金に関する判例⑤(日本郵便事件・後編)

前回に引き続き、日本郵便事件をご紹介します。前回は、本判決の判断のうち、労働契約法20条における「職務の内容」、「職務の内容及び配置の変更の範囲」の相違に関する判断までご紹介しました。今回は、個別の労働条件ごとにどのような判断がなされたかという点からご紹介いたします。

なお、本事案の概要についてはこちらをご覧ください。

(承前)

個々の労働条件について

(1)本判決は、個々の労働条件について、以下のとおり判断しています。

① 外務業務手当

・ 正社員には長期雇用を前提とした賃金制度を設け、短期雇用を前提とする契約社員にはこれと異なる賃金体系を設けることは、企業の人事上の施策として一定の合理性が認められること

・ 本手当は、内務職と外務職を職種統合による賃金の激変を緩和するために正社員の基本給の一部を手当化したもので、正社員と契約社員の賃金体系の違いに由来にすること

・ 具体的な金額は労使協議を踏まえて算出されたものであること

・ 郵便外務事務に従事する時給制契約社員については外務加算額が別途反映されていること

→ よって「不合理」とはいえない

 

② 年末年始勤務手当

・ 年末年始の期間における労働の対価として一律額を基本給とは別枠で支払うという本手当の性格等に照らせば、同じ年末年始の最繁忙時期に従事した正社員には支払い、契約社員には支払わないことに合理的な理由はない

→ よって「不合理」である

もっとも、本手当には、正社員に対する関係で長期雇用への動機付けという意味がないとはいえないので、金額が同額である必要はない

 

③ 早出勤務等手当

・ 正社員は勤務シフトに基づいて早朝、夜間の勤務を求め、契約社員に対しては募集や採用の段階で勤務時間帯を特定して採用し、特定した時間の勤務を求めるという点で、両者には職務の内容等に違いがあること

・ 契約社員には早朝・夜間割増賃金が支給されている上、時給が高く設定されていること

・ 類似の手当の支給に関して契約社員に有利な支給要件も存在すること

→ よって「不合理」とはいえない

 

④ 祝日給

・ 正社員と契約社員とで割増率の差異はなく、正社員は祝日も勤務日とされており、祝日に勤務しない常勤職員にも勤務したものと同額の賃金が支払われていたこと

・ 正社員の賃金体系に由来する正社員間の公平のために設けられたものであること

・ 契約社員については、実際に働いた時間数に応じて賃金を支払う形態がとられており、勤務していない祝日にその対価としての給与が支払われる理由がないこと

→ よって「不合理」とはいえない

 

⑤ 夏期年末手当

・ 本手当は、年ごとの財政状況や会社の業績等を踏まえて行われる労使交渉の結果によって、その金額の相当部分が決定される実情にあり、その意味で、基本給と密接に関連する賞与の性質を有するものであるから、職務の内容並びに職務の内容及び配置の変更の範囲に大きな又は一定の相違がある正社員と契約社員とで相違があることは一定の合理性があること

・ 賞与は、功労褒賞や将来の労働への意欲向上としての意味合いも有するところ、長期雇用を前提として、正社員に対する本手当の支給を手厚くすることで、優秀な人材の獲得や定着を図ることは人事上の施策として一定の合理性があること

・ 契約社員に対しても労使交渉の結果に基づいた臨時手当が支給されていること

→ よって「不合理」とはいえない

 

⑥ 住居手当

(旧一般職の正社員について)

・ 配転転換等が予定されていない契約社員と比較して、住宅にかかる費用負担が多いことを考慮して、正社員に住居手当を支給することは一定の合理性が認められる

・ 長期雇用を前提とした正社員に対して住宅費の援助をすることで有為な人材の獲得、定着を図ることも人事上の施策として相応の合理性が認められる

→ よって「不合理」とはいえない

(新一般職の正社員について)

・ 転居を伴う可能性のある人事異動等が予定されていないにもかかわらず住居手当が支給されているところ、同じく転居を伴う配置転換等のない契約社員に対して住居手当が全く支給されていない

→ よって「不合理」である

もっとも、本手当には、正社員に対する関係で長期雇用への動機付けという意味がないとはいえないので、金額が同額である必要はない

 

⑦ 夏期冬期休暇

・ 夏期冬季休暇は、官公庁及び大多数の民間企業等において設けられており、これは国民的な習慣や意識などを背景に制度化されてきたものであり、一般的に広く採用されていることは公知の事実である。そして、職務の内容等の違いにより、制度としての夏期冬期休暇の有無について差異を設けるべき特段の事情のない限り、契約社員についてだけ同休暇を設けないことは不合理な相違というべきである。

・ 本件では、正社員と契約社員を比較すると、最繁忙期が年末年始の時期であることに差異はなく、職務の内容等の相違を考慮しても、取得要件や取得可能な日数等について違いを設けることは別として、契約社員に対してのみ夏期冬期休暇を全く付与しない合理的な理由は見当たらない

→ よって「不合理」である

 

⑧ 病気休暇

・ 病気休暇が労働者の健康保持のための制度であることに照らせば、契約社員に対しては、契約更新を重ねて全体としての勤務時間がどれだけ長期間になった場合であっても、有給の病気休暇が全く付与されないことは、職務内容等の違い等に関する諸事情を考慮しても不合理なものである

→ よって「不合理」である

 

⑨ 夜間特別勤務手当

・ 本手当は、深夜における勤務にして特に労働密度の高い勤務等に対して、労使協議を経て導入されたものであり、正社員が勤務シフトによって夜間勤務等が必要となる場合に、夜間勤務等が必要のない他の業務に従事する正社員との間の公平を図るために支給されるものであること

・ 契約社員のうち夜間帯に勤務する者は、それを前提とした雇用契約を締結しており、実態としても夜間帯以外に勤務することは原則としてないこと

・ 正社員はシフト制勤務により早朝、夜間の勤務をさせているのに対し、契約社員については募集や採用の段階で勤務時間帯等を特定した上で雇用契約を締結し、その特定された時間の勤務を求めているという意味で職務内容等に違いがある

→ よって「不合理」とはいえない

 

⑩ 郵便外務・内務業務精通手当

・ 本手当は、正社員の基本給及び手当の一部を原資に本手当として組み替える方法により、正社員に対して能力向上に対する動機付けを図ったものであり、同手当の支給の有無は、正社員と契約社員の賃金体系の違いに由来するものであること

・ 本手当は、労使協議を経た上で新設されたものであること

・ 契約社員については、資格給の加算により担当職務への精通度合いを基本給(時給)に反映させていること

→ よって「不合理」とはいえない

 

(2)以上より、本件については、「年末年始勤務手当」、「住居手当」、「夏期冬期休暇」及び「病気休暇の相違」が労働契約法20条に違反すると判断しました。

 

労働契約法20条の効力について

同条項違反について、民法709条の不法行為が成立しうることを認めました。

では、同条の法的効果について、有期契約労働者の労働条件が無期契約労働者の労働条件によって自動的に代替される(補充的効力がある)ことになるでしょうか。

本判決は、これを認めませんでした

理由として、①労働契約法12条労働基準法13条のような補充的効力を定めた明文の規定がないこと、②無効とされた労働条件の解消は、使用者の人事制度全体との整合性を念頭に置きながら、有期契約労働者と無期契約労働者の想定される昇任昇給経路や配置転換等の範囲の違いなどを考慮しつつ、従前の労使交渉の経緯も踏まえた労使間の個別的あるいは集団的な交渉の結果も踏まえて決定されるべきであること、を挙げています。

さらに、労働契約法20条には補充的効力がないとしても、関係する就業規則等の合理的解釈の結果、無期契約労働者を対象とする就業規則を適用する余地があるとしつつも、本件においては、Y会社には、正社員に適用される就業規則及び給与規程等と契約社員に適用される就業規則及び給与規程等が別個独立に存在し、前者がY会社の全従業員に適用されることを前提に、契約社員については後者がその特則として適用されるという形式にはなっていないことから、就業規則等の合理的解釈としても、正社員の労働条件が有期契約社員に適用されると解することはできず、前述の各手当等の不支給が不法行為を構成するにとどまる、と判断しています。

 

損害について

(1)労働契約法20条違反となる労働条件の中には、①無期契約労働者と同一内容でないことをもって直ちに不合理であると認められる労働条件と、②有期契約労働者に全く付与されていないこと、または、付与されているものの給付の質及び量の差異の程度が大きいことによって不合理であると認められる労働条件がある、とした上で、①については、無期契約労働者との差額全体が損害になり、②については、有期契約労働者に対して本来給付されるべき金額と、実際の支給額との差額が損害になる、としました。

(2)そして、本件で不合理とされた「年末年始勤務手当」及び「住居手当」については、②にあたるとした上で、本来給付されるべき金額は、使用者の人事制度の全体との整合性を念頭に置きながら、有期契約労働者と無期契約労働者の想定される昇任昇格の経路や配置転換等の範囲の違い等を考慮しつつ、労使間の個別的あるいは集団的交渉の経緯等も踏まえて、職務の内容の相違等に照らして考える必要があるところ、そのことを証拠に基づき具体的に認定することは極めて困難であるため、民事訴訟法248条に従い、相当な損害額を認定すべきとしました。

(3)その上で、本件での一切の事情を考慮し、「年末年始勤務手当」は支給額の8割相当額、「住居手当」については支給額の6割相当額を損害と認めるのが相当であるとしました。

一方、「夏期冬期休暇」及び「病気休暇」については、原告がこれらに伴う損害を主張していないため、その損害額については判断しませんでした。

コメント

前回も述べたように、本判決が、賃金以外の労働条件(休暇)についての不合理性を判断した初めての事案であることは、特筆すべき点であると言えます。

本件で不合理とされた手当は「年末年始勤務手当」と「住居手当」の2種類です。日本郵便に関しては、他にも裁判例があるということを申しましたが、平成30年2月21日に大阪地裁で出た判決では、これら2つに加えて、「扶養手当」も不合理であると判断しています。①扶養手当は、経済情勢の変動に対応して労働者及びその扶養親族の生活を保障するために、基本給を補完するものとして付与される生活保障給としての性質を有していること、②扶養手当は、扶養親族の有無及びその状況に着目して一定額を支給されるものであるので、職務の内容等の相違によって支給の必要性の程度が大きく左右されるものではないこと、③支給額の上限が設けられていないため差異が大きくなる可能性があるところ、同趣旨の手当が契約社員には全く支給されていないこと、などが理由とされています。

なお、日本郵便は、これら裁判例の影響からか、正社員に対する年末勤務手当を廃止する一方で非正規社員に年始勤務手当を支給することや、転居を伴う異動のない一般職について毎年10%ずつ住居手当を削減するといった方針を発表しています。

労働条件を個別に検討していくという判断方法について、少し補足します。

前回のコメントでも述べたとおり、労働契約法20条について、個々の労働条件ごとに比較するという点は従来の裁判例の流れで、本判決もそれに沿うものです。

この点、先ごろ、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」が国会に提出されました。かかる法律案によると、労働契約法20条は削除され、「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(通称:パートタイム労働法)の中に取り込まれることになります。具体的には、現在のパートタイム労働法8条の規定の中に有期雇用労働者も対象として追加され、その文言も以下のとおり変更されています。

パートタイム労働法第8条(改正案)

(不合理な待遇の禁止)

事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

ここで注目すべき点は、「基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて」という文言が追加されている点です。よって、改正案が成立すれば、労働条件については個別に比較対象とすべきことが明記されることになります。

最後に労働契約法20条違反の効力についてですが、本判決は補充的効力を認めませんでした。この判断自体は従前の裁判例を踏襲するものです。ただ、関係する就業規則等の合理的解釈の結果、無期契約労働者を対象とする就業規則を適用する余地がある場合には、当該就業規則等が適用されることになるとしています(第1回でご紹介した長澤運輸事件の第1審がこの点を是認していると評価できます)。

そこで、会社の対応としては、仮に有期契約労働者の労働条件が無効と判断された場合に、無期契約労働者の労働条件が適用されないような工夫(例えば、全労働者が対象となる就業規則等を作成した上で非正規労働者について一部適用しないというかたちにするのではなく、最初から正社員のみを対象とする就業規則等、非正規社員のみを対象とする就業規則等を個別に作成するなど)が必要になってくるかと思います。

参考

平成26年(ワ)第11271号 地位確認等請求事件

平成29年9月14日 東京地裁判決

* 事案を分かりやすくするため一部事実を簡略化しています。

 

さて、本稿をもって、同一労働同一賃金に関して当初紹介を予定していた4つの裁判例のご紹介はすべて終了です。

なお、本連載の1回目と2回目にご紹介しました「長澤運輸事件」及び「ハマキョウレックス事件」について、6月1日に最高裁判決が出ております。その内容はまたご紹介させていただきます。

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