トップページ  >  連載  >  社会保険労務判例フォローアップ27

社会保険労務判例フォローアップ

令和元年8月6日

27.有期雇用における65歳更新上限条項と雇止めに関する判例

今回は、有期雇用契約において、満65歳を達した日以後は、契約を更新しない旨の条項が有効か否かと、かかる条項を理由とする雇止めが有効か否かについて判断した最高裁判例をご紹介します。

郵政民営化に伴い設立され組織再編を経た会社による従業員に対する雇止めというやや特殊な事例であるものの、一定年齢以降は契約を更新しない条項の有効性の判断及び雇止めの可否について、控訴審(東京高裁)と異なった理由を示しており、その判断方法など、同様の規定を設けている会社にとっては参考になるものですので、今回、ご紹介いたします。

事案の概要

Y社は、郵便事業等を目的とする株式会社である。
郵便事業は、平成19年10月1日、郵政民営化に伴い、a公社が行っていた郵政三事業を含むすべての事業がb1株式会社及びその下の事業会社(b2株式会社、b3株式会社など4社)へ移管・分割された。平成24年10月、b2株式会社がb3株式会社を吸収合併した結果成立したのが、Y社である。
Xらのうち8名は、a公社の非常勤職員であったが、平成19年10月1日、Y社との間で有期労働契約を締結し、これを7~9回更新し、時給制の期間雇用社員として、郵便物の集配、区分け作業等の郵便関連業務に従事していた。
Xらのうち1名は、平成21年1月20日、Y社との間で有期労働契約を締結して、これを6回更新し、時給制の期間雇用社員として、郵便関連業務に従事していた。
Y社は合併前の就業規則において、「会社の都合による特別な場合のほかは、満65歳に達した日以後における最初の雇用契約期間の満了の日が到来したときは、それ以後、雇用契約を更新しない」と定めていた(以下「本件上限条項」という)。
なお、a公社時代には、非常勤職員が一定の年齢に達した場合に以後の任用を行わない旨の規定はなく、実際に満65歳を超えても郵便関連業務に従事していた非常勤職員が相当程度存在していた。
Y社は、平成23年8月及び平成24年2月に、それぞれ翌月末日時点で満65歳に達しているXらを含む期間雇用社員に対して、本件上限条項により契約を更新しない旨を記載した雇止め予告通知書を交付して、その有期労働契約を更新しなかった

上記の事実関係のもと、XらがY社に対し、雇止めは無効であると主張し、労働契約上の地位の確認と雇止め後の賃金の支払いを求めたという事案です。

争点

本件の主な争点は、本件上限条項の有効性と、Y社が行ったXらに対する本件雇止めの有効性です。

本判決の判断

本判決は、Xらの請求を認めませんでした。そして、同様にXらの請求を認めなかった控訴審(東京高裁)の判断について、結論は是認できるが、理由部分については是認できないとしました。

 

控訴審(東京高裁)の判断は、Y社とXら期間雇用社員との契約更新手続は形骸化しており、労働契約は、実質的に無期労働契約と同視し得る状態になっていたものと認めるのが相当であるとした上で、Xらの勤務状況等に問題がない以上、解雇事由を認めることはできず、Xらに対して期間満了を理由に雇止めをすることは合理的理由を欠き無効であると判断しました。

また、非常勤職員につき年齢による再任用の制限がないというa公社の労働条件はY社に引き継がれており、本件上限条項は、Xらについて、従前の労働条件を不利益に変更しているMことから、就業規則の不利益変更が認められるか否かの観点から判断しました。その上で、本件では、Xらは本件上限条項により、一定の年齢に達したことのみを理由に雇止めをされることはないという事実上の期待を失うにすぎず、Y社が期間雇用社員について一定の年齢以降の契約更新を行わないこととすることには、必要性と合理性があることなどから、本件上限条項によってa公社当時の労働条件を変更する合理性が認められ、本件上限条項は適法であると判断しました。

 

これに対し、本判決(最高裁)は、①高齢の期間雇用社員について、事故等が懸念される等、屋外業務等に対する適性が加齢により逓減し得ることを前提に、その雇用管理の方法を定めることが不合理であるということはできず、Y社の事業規模等に照らしても、加齢による影響の有無や程度を個別に判断するのではなく、一定の年齢に達した場合には契約を更新しない旨をあらかじめ就業規則に定めておくことには相応の合理性があること、②高年齢者等の雇用の安定等に関する法律にも抵触しないこと、③ a公社では非常勤職員が一定の年齢に達した場合に以後の任用を行わない旨の定めはなく、満65歳を超えて郵便関連業務に従事していた非常勤職員が相当程度存在していたことがうかがわれるものの、これらの事情をもって、a公社の非常勤職員が、満65歳を超えて任用される権利又は法的利益を有していたということはできないこと、④ 本件上限条項の適用開始について3年6ヶ月猶予期間を設けるなど、Y社がa公社から引き続き郵便関連業務に従事する期間雇用社員に対して相応の配慮をしたものとみることができること、⑤本件上限規定を含めた規則の内容について、各事業場の労働者に周知させる手続がとられていたことなどから、本件上限条項は、Y社の期間雇用社員について、労働契約法7条にいう合理的な労働条件を定めるものであり、Xらとの労働契約の内容になっていたというべきだと判断しました。

そして、雇止めの時点において、Xらは満65歳に達していたのであるから、XらとY社の労働契約は、更新されることなく期間満了によって終了することが予定されたものであり、実質的に無期労働契約と同視し得る状態にあったということはできず、また、本件上限条項の内容が周知されていた等の理由から、雇止めの時点において、Xらが労働契約の期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理的な理由があったということもできない、と判断しました。

以上より、Xらの請求を認めませんでした。

コメント

本判決の一番重要な点は、本件上限条項のような、一定の年齢(65歳)に達したことにより契約の更新を行わない旨の就業規則の規定が合理的なものであると評価されたという点です。正社員のような無期契約労働者に対して定年制を設けること自体の有効性は従来の最高裁で認められていましたが、本判決は、有期契約労働者についても年齢の上限を設けることの合理性が最高裁で認められたということに意義があります。

但し、その判断のアプローチは、本判決と控訴審(東京高裁)とでは異なっています。

まず、控訴審(東京高裁)は、本件上限条項の有効性を判断するにあたって、もともとあった就業規則を従業員にとって不利益に変更する場合にあたることを前提に判断しています。つまり、就業規則を従業員にとって不利益に変更する場合は、原則として、従業員との合意が必要で、例外的に、①変更後の就業規則を周知させ、かつ、②変更の内容が合理的なものである場合は、変更後の就業規則が効力を有するとされているところ、変更の内容が合理的なものであるかは、変更の必要性、労働者の受ける不利益の程度、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉状況などの事情を総合的に勘案するものとしています(労働契約法10条)。控訴審(東京高裁)は、かかる就業規則の不利益変更が許されるかといった観点から判断しています。

一方で、本判決(最高裁)は、本件上限条項の内容それ自体から合理性を判断しています。

かかる判断方法の違いは、控訴審(東京高裁)が、本件上限条項について、a公社とY社が一体的で労働条件が継続していることを前提にしているのに対し、本判決(最高裁)は、特殊法人であるa公社とY社とは法的性格を異にし、社員の法的地位も異にすることが明らかであることなどを指摘しており、労働条件が継続されていないことを前提にしていることに基づくものと思われます。なお、労働契約において、合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていれば、当該労働条件は、労働契約の内容になるとされているところ(労働契約法7条)、就業規則の合理性について、当該就業規則を前提に採用された従業員に対する関係での内容の合理性判断に比べて、従来適用されていた就業規則を変更する場合の合理性判断は、より厳しくなるものと一般的に解されています。

本件が郵政民営化に伴う組織変動という特殊性を有することを考えると、最高裁の考え方が妥当であると思いますが、一般的に合併の場合には、合併後の存続会社が合併前の消滅会社の権利義務を包括的に承継することになり、消滅会社と従業員との労働契約も含まれますので、合併後に存続会社において労働条件を変更する場合は、控訴審(東京高裁)の考え方と同様、就業規則の不利益変更が許されるかという観点での検討が必要になることは留意しておく必要があります。

 

なお、本判決も考慮しているように、本件のような上限条項の有効性を判断するにあたっては、高年齢者等の雇用の確保の安定等に関する法律との関係が問題となります。同法律では、①定年の引き上げ、②継続雇用制度(事業者が雇用している高年齢者を希望に応じて定年後も引き続いて雇用する制度)の導入、③定年の定めの廃止、のいずれかの措置をとることが義務づけられていますので、定年制を採用する場合、定年は60歳を下回ることができず、65歳未満の定年の定めをしている場合は65歳までの継続雇用を確保する措置を講じなければならないことになります。

よって、有期契約労働者に対する関係においても、年齢の上限を65歳未満に設定した条項の場合は、同法に反するとして無効になる可能性が高いといえますので、注意が必要です。

 

本件のような有期雇用契約における雇止めが有効かどうかについては、労働契約法19条の規定が重要です。

同条では、有期労働契約について、①当該契約が過去に反復して更新されたことがあり、契約を更新しないことが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者を解雇して契約を終了させることと社会通念上同視できると認められる場合、②当該労働者が契約期間の満了時に契約の更新を期待することについて合理的な理由があると認められる場合、については、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、同一の労働条件が継続するものとされています。

なお、本判決は、控訴審(東京高裁)のように、本件上限条項に基づく更新拒否の適否かと、上記のような解雇に関する法理の類推により本件各雇止めが無効か否かを別の問題とは捉えておらず、本件上限条項が労働条件の内容になっており、満65歳に達していたことが本件各雇止めの理由であるから、上記①の場合にはあたらない、と判断しています。また、本判決は、本件労働契約の期間満了後もその雇用関係が継続するものと期待することに合理的な理由があるか否か(上記②の場合)についても判断しているところ、本件では、労働者に対する周知がされていたとして、合理的な理由はなかったとされています。本件のような上限条項の存在については、従業員に対する周知とともにその内容について事前に十分に説明しておくことが望まれるといえるでしょう。

参考

平成29年(受)第347号 地位確認等請求事件

平成30年9月14日 最高裁第二小法廷判決

* 事案を分かりやすくするため一部事実を簡略化しています。

  top