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社会保険労務判例フォローアップ

令和2年12月10日

32.同一労働同一賃金に関する判例⑪ 日本郵便事件最高裁判決

今回は、前回ご紹介したメトロコマース事件と大阪医科薬科大学事件に続いて、本年10月に出た同一労働同一賃金に関する最高裁判決である日本郵便事件をご紹介します。今回の日本郵便事件の最高裁判決は、①東京事件(第一審:東京地裁H29.914、控訴審:東京高裁H20.12.13)、②大阪事件(第一審:大阪地裁H30.2.21、控訴審:大阪高裁H31.1.24)、③佐賀事件(第一審:佐賀地裁H29.6.30、控訴審:福岡高裁H30.5.24)の3つが同時に出ました。このうち、①東京事件については、第一審、控訴審ともに以前に本連載でもご紹介しました(第一審についてはこちら、控訴審についてはこちらをご参照ください)。本稿では、東京事件を中心に、他の2つの判断についても見ていきたいと思います。

 

本件の事案の概要は、上記過去の連載をご覧ください。

郵便業務に従事する時間制契約社員であるXらが、Y社に対して、正社員との間で手当や休暇等に相違があるのは、労働契約法20条に違反して不合理だとして、Y社に対して損害賠償等を求めたものです。

東京事件では、Xらが不合理だと主張する労働条件は、①外務業務手当、②年末年始勤務手当、③早出勤務等手当、④祝日給、⑤夏期年末手当、⑥住居手当、⑦夏期冬期休暇、⑧病気休暇、⑨夜間特別勤務手当、⑩郵便外務・内務業務精通手当でしたが、第一審及び控訴審では、②年末年始勤務手当、⑥住居手当、⑦夏期冬期休暇及び⑧病気休暇に関する相違について労働契約法20条に違反し不合理であると判断しました。

最高裁では、②年末年始勤務手当、⑦夏期冬期休暇、⑧病気休暇についてその判断を述べています(なお、⑥住居手当は上告不受理とし、控訴審の判断を確定させています)。

最高裁の判断

最高裁は、②年末年始勤務手当、⑦夏期冬期休暇、⑧病気休暇のいずれについても、下級審判断と同様、不合理性を認めています。但し、⑦夏期冬期休暇について、Xらの損害を認めなかった控訴審判決に対して、損害を認めるべきとして、損害額についての審理を尽くさせるために、控訴審に差し戻した点が特筆すべき点です。

年末年始勤務手当について

ア 年末年始勤務手当が、郵便業務の最繁忙期であり、多くの労働者が休日として過ごしている上記の期間に従事したことに対して、その勤務の特殊性から基本給に加えて支給される対価としての性質を有するものである

イ また、正社員が従事した業務の内容やその難度等に関わらず、所定の期間において実際に勤務したこと自体を支給要件とするものであり、その支給金額も、実際に勤務した時期と時間に応じて一律である

ウ かかる年末年始勤務手当の性質や支給要件及び支給金額に照らせば、これを支給することとした趣旨は、郵便の業務を担当する時給制契約社員にも妥当する

→ よって、職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、その相違は不合理である

病気休暇について

ア 労働契約法20条にいう不合理性を判断するにあたっては、賃金以外の労働条件の相違についても、賃金と同様に、個々の労働条件が定められた趣旨を個別に考慮すべき

イ 正社員に対して有給の病気休暇が与えられているのは、正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、その生活保障を図り、私傷病の療養に専念させることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的によるものと考えられる

ウ かかる目的に照らせば、郵便の業務を担当する時給制契約社員についても、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、私傷病による有給の病気休暇を与えることとした趣旨は妥当するというべきである

→ よって、有期労働契約の更新を繰り返し、相応に継続的な勤務が見込まれているXらについて、職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、私傷病による病気休暇の日数につき相違を設けることはともかく、これを有給とするか無給とするかにつき労働条件の相違があることは不合理である

夏期冬期休暇について

ア 労働契約法20条にあたり不合理であるが、Xらが無給の休暇を取得したこと、夏期冬期休暇が与えられていればこれを取得し賃金が支給されたであろうこととの事実の主張立証はないので、Xらに夏期冬期休暇を与えられないことによる損害が生じたとはいえないとした原審の判断を是認できない

イ つまり、Y社における夏期冬期休暇は、有給休暇として所定の期間内に所定の日数を取得することができるものであるところ、Xらは、夏期冬期休暇を与えられなかったことにより、当該所定の日数につき、本来する必要のなかった勤務をせざるを得なかったものといえるから、上記勤務をしたことによる財産的損害を受けたものということができるとし、当該時給制契約社員が無給の休暇を取得したか否かなどは、上記損害の有無の判断を左右するものではない

コメント

最初に述べたように、同日に他の2つの日本郵便事件についても判断を示していますので、その概要もご紹介します。

(1)大阪事件

ア 原審(控訴審)では、年末年始勤務手当及び祝日給について、正社員にのみ支給することが直ちに労働契約法20条に違反するものとはいえないが、通算雇用期間が5年を超える契約社員に対してはかかる相違を設ける根拠が薄弱なものとならざるを得ず、不合理であると判断しました。

これに対して、最高裁は、年末年始手当について、東京事件と同様の理由で、通算雇用期間にかかわらず相違を設けるのは不合理であるとし、また、祝日給についても、年始期間については特別休暇が与えられているにもかかわらず勤務したことの代償として支給されるものであるところ、その趣旨は契約社員にも妥当するので、通算雇用期間にかかわらず相違は不合理であると判断しました。

イ また、扶養手当について、原審(控訴審)は、長期雇用を前提として基本給を補完する生活手当としての性質及び趣旨を有するもので、契約社員は原則として短期雇用を前提とすること等からすると、正社員に対して扶養手当を支給する一方で、本件契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと判断しました。

これに対し、正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、その生活保障や福利厚生を図り、扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的について、契約社員についても、扶養親族があり、かつ、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、その趣旨は妥当するので、Xらのように、有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど、相応に継続的な勤務が見込まれている契約社員と正社員との間で相違を設けることは、職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても不合理であると判断しました。

(2)佐賀事件

最高裁では夏期冬期休暇が上告の対象となりました。

Y社において郵便の業務を担当する正社員に対して夏期冬期休暇が与えられているのは、年次有給休暇や病気休暇等とは別に、労働から離れる機会を与えることにより、心身の回復を図るという目的によるものであると解され、夏期冬期休暇の取得の可否や取得し得る日数は上記正社員の勤続期間の長さに応じて定まるものとはされていない。そして、郵便の業務を担当する時給制契約社員は、契約期間が6か月以内とされるなど、繁忙期に限定された短期間の勤務ではなく、業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれているのであって、夏期冬期休暇を与える趣旨は、上記時給制契約社員にも妥当するというべきである。よって、正社員と時給制契約社員との間に職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、両者の間に夏期冬期休暇に係る労働条件の相違があることは、不合理であると判断しました。

そして、時給制契約社員であるXは、夏期冬期休暇を与えられなかったことにより、当該所定の日数につき、本来する必要のなかった勤務をせざるを得なかったものといえるから、上記勤務をしたことによる財産的損害を受けたものということができるとして、同様の判断をした控訴審の判断を是認しました。

 

以上をまとめると、以下の表のとおりです(〇が不合理でない、×が不合理であるとの判断)。

 
労働条件の項目 高裁(控訴審)の判断 最高裁の判断
年末年始勤務手当 ×(大阪事件では通算雇用期間が5年を超える場合が×) ×
病気休暇 × ×
夏期冬期休暇 ×(東京事件では損害額は認めず) ×(損害を認定)
祝日給 ×(大阪事件では通算雇用期間が5年を超える場合が×) ×
扶養手当 ×(扶養親族があり、相応の継続勤務が見込まれる場合)
住居手当 × ×(上告不受理)

前回ご紹介したハマキョウレックス事件及び大阪医科薬科大学事件で特に問題となった賞与や退職金と違い、日本郵便事件で問題となった諸手当は基本給との関連性が低く、各手当を支給する目的や趣旨に基づくものなので、労働契約法20条に規定されている職務の内容等の相違に関する事情が大きく影響していないことが伺えます。

つまり、諸手当については、その支給する目的や趣旨がより重視されるため、その見直しが求められるとともに、かかる目的や趣旨が、支給対象となっている従業員だけに該当するものなのか否か、それ以外の従業員に該当しないかについて、再度検討を行うことが重要です。その際、長期雇用を前提にした諸手当であっても、更新を繰り返し継続的な勤務が見込まれる契約社員の存在を無視して一概に契約社員というだけで対象から除外することは避けた方が無難です。

大阪事件において扶養手当の支給の有無が不合理であると判断された点も重要です。扶養手当は長期雇用が期待される正社員に対する福利厚生の一環として支給されるもので、正社員であることが支給の前提であるとの認識をお持ちの方も多いと思いますが、考え方の見直しが迫られそうです。契約社員であっても扶養親族があり、相応の継続勤務が見込まれる場合は支給対象として検討が必要となります。

東京事件や佐賀事件で判断されたように、夏期冬期休暇について、実際に無給の休暇を取得したか否かにかかわらず、また、夏期冬期休暇が与えられていればそれを取得し賃金の支給を受けられたはずであることについて特段の立証を必要とせず、単に、夏期冬期休暇期間に勤務したことによる損害が認められた点も重要です。正社員と非正規従業員との間で休暇の付与について差を設けている場合、不合理であると判断されればその損害額が容易に認められてしまう可能性がありますので、休暇の付与についても慎重に見直す必要があるでしょう。

 

参考

令和元年(受)第777号、第778号 地位確認等請求事件(日本郵便、東京事件)

令和2年10月15日 最高裁第一小法廷判決

 

令和元年(受)第794号、第795号 地位確認等請求事件(日本郵便、大阪事件)

令和2年10月15日 最高裁第一小法廷判決

 

令和元年(受)第1519号 未払時間外手当金等請求控訴、同附帯控訴事件(日本郵便、佐賀事件)

令和2年10月15日 最高裁第一小法廷判決

* 事案を分かりやすくするため一部事実を簡略化しています。

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