トップページ  >  連載  >  社会保険労務判例フォローアップ39

社会保険労務判例フォローアップ

令和4年6月7日

39.偽装請負と認定され、労働者派遣法に基づく労働契約の成立が認められた判例(東リ事件)

今回は、形式的には業務請負契約の形態をとっていたものの実態は労働者派遣であると認定され、労働者派遣法40条の6第1項に基づき、従業員と注文主(派遣先)との間の労働契約の成立が認められた事案です。第1審と控訴審とで判断が異なった事案であり、同条項により注文主(派遣先)と当該労働者との間の労働契約の成立が認められるというインパクトの強い裁判例です。業務請負契約の当事者にとっては留意しておくべき事案だと思われますので、ご紹介します。

 

事案の概要

Y会社は、ビニールタイル等の各種床材、カーペット等の各種床敷物の製造、販売等を目的とする株式会社であり、兵庫県伊丹市内に本社及び工場を設けている。
A会社は、巾木、床材の製造の請負業務等を目的とする特例有限会社である。
Y会社は、平成11年3月30日、A会社との間で、巾木製造・加工に関して業務請負基本契約を締結した(「本件請負契約1」)
また、Y会社は、平成22年8月1日、A会社との間で、接着剤製造・加工に関して業務請負基本契約を締結した(「本件請負契約2」)
いずれも業務遂行場所はY会社の事業所内であった。なお、Y会社とA会社との間には、資本関係や役員の兼任等の人的関係はない。
Xらは、平成10年~25年にA会社に入社し、Y会社の伊丹工場において、巾木工程(巾木の製造及び検査)や化成品工程(床材の接着剤の製造)に従事していた
A会社は、本件請負契約1について、平成29年2月28日をもって終了させることとし、同年3月1日、Y会社との間で、派遣先を伊丹工場、業務内容を巾木工程製造作業、派遣期間を同日から同月30日までとする労働者派遣個別契約を締結し、Xらを含む12名を巾木工程に派遣した。
一方、本件請負契約2は、同月31日まで継続し、同日をもって終了した。
Xらは、A会社から、同月30日限りで他の従業員らとともに整理解雇された。
Xらは、平成29年3月21日、Y会社に対し、本件業務請負契約1,2が労働者派遣法40条の6第1項5号に該当するとして、Y会社からの直接雇用の申込みを承諾するとの意思表示をした。

本件は、上記の事実関係のもと、Xらが、Y会社との間に労働契約が存在することの確認と、それに基づく賃金の支払を求めた事案です。

なお、上記⑤の意味は次の通りです。

平成27年10月から施行されている労働者派遣法40条の6第1項では、派遣先が、同項1号から5号までの各号のいずれかに該当する行為を行った場合には、その時点において、派遣先から当該派遣労働者に対し、その時点における当該派遣労働者の労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなすと規定されています。そして、同項5号は、派遣法等の適用を免れる目的(以下、「偽装請負等の目的」といいます)で、請負等の名目で契約を締結し、労働者派遣の役務の提供を受けることとされています。

つまり、偽装請負等の目的がありつつ労働者派遣契約名下に派遣労働者を受け入れた場合、派遣先から当該派遣労働者に対して(上記でいうとY会社からXらに対して)雇用契約の申込があったとみなされるので、当該派遣労働者(Xら)が承諾した時点で、派遣先(Y会社)と当該派遣労働者(Xら)との間で雇用契約が成立してしまうということになるのです。

 

争点

本件の主な争点は、①本件各請負契約について、偽装請負等の状態の有無、②偽装請負等の目的の有無です。

 

判断の要旨

一審、控訴審いずれも、本件に偽装請負の実態があったか否か、すなわち実態が請負か派遣かを判断する基準として、厚生労働省が公表している「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準を定める告示」(昭和61年労働省告示第37号。平成24年厚生労働省告示第518号による改正後のもの)をその内容に合理性があるとして用いています。

そこで、まずはその基準をご紹介した上で、その基準に基づき本件控訴審がどのようなアテハメを行ったかをご紹介します。

労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準

形式が請負契約として自己の雇用する労働者を従事させているとしても、次の(1)と(2)両方に該当しない場合には労働者派遣事業を行う事業主とするとされています。言い換えれば、どちらか一方のみ該当する場合や、どちらにも該当しない場合には、偽装請負であるとの認定に傾くことになります。

但し、両方に該当する場合でも、それが法の規定に違反することを免れるため故意に偽装されたものであつて、その事業の真の目的が労働者派遣を業として行うことにあるときは、労働者派遣事業を行う事業主であることを免れることができない、とされています。

(1)次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより、自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること

イ ①労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行い、かつ、②労働者の業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行うことにより、業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うものであること

ロ ①労働者の始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理(これらの単なる把握を除く。)を自ら行い、かつ、②労働者の労働時間を延長する場合又は労働者を休日に労働させる場合における指示その他の管理(これらの場合における労働時間等の単なる把握を除く。)を自ら行うことにより、労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うものであること

ハ 労働者の服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理を自ら行い、かつ、 労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うことにより、企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うものであること

(2)次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより、請負契約により請け負った業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること。

イ 業務の処理に要する資金につき、すべて自らの責任の下に調達し、かつ、支弁すること

ロ 業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負うこと

ハ ①自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易な工具を除く。)又は材料若しくは資材により、業務を処理し、または、②自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理しており、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと

本件でのアテハメ

(1)上記(1)の該当性

イについて

伊丹工場の担当従業員が、巾木工程及び化成品工程の製造過程における留意点等をまとめて各作業場の掲示板に掲載された伝達事項は、具体的な作業手順の指示であったこと
リップ会議(巾木工程で月1回程度行われる金型のメンテナンス等に関する会議)の開催や金型の分解掃除について、Y会社の従業員から、直接、A会社の従業員に対する具体的な指示がされていたこと
Y会社による製造依頼書の交付及びA会社による週間製造日程表の作成は、業務請負ではない伊丹工場の他の工程でも行われており、平成29年3月に巾木工程が業務請負から労働者派遣に切り替えられた後も同じ方法で行われていたこと
A会社がY会社からの製造依頼に対し、その変更を求めたり、内容について交渉したりしていたことをうかがわせるような証拠はないこと
A会社が作成し、Y会社の技術スタッフが確認していた週間製造日程表は、現場において毎日製造すべき製品の型番及び数量を記載した詳細なものであり、Y会社の技術スタッフから修正を受けることもあったから、A会社が週間製造日程表を作成するに当たり、その作業遂行の速度、作業の割り付け、順序を自らの判断で自由に決定することができたと認めることはできないこと
A会社が各工程において製造した製品をY会社に引き渡す前に、A会社独自の品質検査や検品を行っていたことは認められないこと
したがって、A会社は、巾木工程及び化成品工程において、業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行っていたと認めることはできない。

ロについて

A会社が管理支配していないリップ会議にA会社の従業員が出席していたこと
リップ会議後、Y会社の従業員がA会社の従業員に対し残業時間を伝えていたこと
平成28年12月、巾木工程で大量の不良品が発生し、生産予定を変更する必要が生じた際、A会社の社長や主任が関与していた事実は認められないこと
A会社社長は、A会社従業員の労働実態を把握、管理しておらず、不要な残業をなくすことについても、一般的・抽象的な呼びかけをすること以外にA会社として現場の実態や個々の従業員の稼働状況に即した具体的な指導を行っていたとは認められないこと
したがって、A会社は、単に労働者の労働時間を形式的に把握していたにすぎず、労働時間を管理していたとは認めることはできない。

ハについて

A会社の従業員が事故を惹起した場合には、A会社の常勤主任又は主任がY会社に対して報告するとともに、当該従業員を指導していたことが認められるが、A会社社長に伝えられたことや、これに基づき、A会社として、従業員の服務規律に関する指示が行われていたとは認められないこと
請負であれば、A会社の従業員が有給休暇をとる場合において、仕事の完成を確保するための応援者を手配することはA会社の責任で行うべきと考えられるが、2名しか配属されていない化成品工程において、Y会社のXらの1人が有給休暇をとる場合の応援者の手配は、Y会社の従業員である係長に連絡することにより行われており、A会社社長が関与していなかったこと
したがって、企業の秩序維持、確保等のための指示等を自ら行っていたとは認めることはできない。

(2)上記(2)の該当性

本件請負契約1、2に基づきA会社が一度でもX会社から請負人としての法的責任の履行を求められた形跡はないこと
巾木工程及び化成品工程の製品の原材料をA会社が自ら調達していたということができないこと
A会社は、Y会社から現場事務所を無償で貸与され、巾木工程及び化成品工程の製造ラインを月額使用料2万円としてY会社から賃借していたが、月額使用料2万円の根拠は不明であり、製造機械の貸与について修理費の負担については何ら定めがなく、その負担について何ら協議された形跡はなく、Y会社が修理費の一切を負担していたと認められること
A会社には独自に巾木工程や化成品工程で必要な社員教育を行う能力やノウハウがあったとは認められないこと(そもそも、Xらが巾木工程で必要となる知識や技量は、Y会社の従業員がオンザジョブで指導したことにより得られたものであり、A会社から教育や研修を受けたことによるものではないこと)
したがって、A会社は、被控訴人から請負契約により請け負った業務を自らの業務としてY会社から独立して処理していたものということができない。

以上のアテハメから控訴審は区分基準(1)(2)をいずれも満たさないとして偽装請負の実態があったと判断しました。

偽装請負等の目的が認められるかという点についても、本件では、日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を解消することなく続けていたことが認められるので、偽装請負等の目的があったものと推認できる、と判断しました。

以上から、労働者派遣法40条の6第1項に基づき、違法行為がされている日ごとに労働契約の申込をしたとみなされることになるので、巾木工程に従事していた従業員に対しては本件請負契約1が終了した平成29年2月28日まで、化成品工程に従事していた従業員に対しては本件請負契約2に基づき役務の提供を受けた同年3月30日まで毎労働日に労働契約の申込をしたとみなした上で、XらとA会社の労働契約の成立を認め、Xらの請求を認めました。

コメント

本件は改正により平成27年10月から施行されている労働者派遣法40条の6第1項を根拠に労働契約の成立を認めた最初の裁判例(少なくとも公開された裁判例の中では)であると思われます。

一審は控訴審とは異なる結論になっているのですが、一審が摘示した事実は、例えば、①巾木工程及び化成品工程に、A会社の現場責任者として、A会社の従業員が常勤主任や主任として配置されていたこと、②ヘルメットに緑色のテープが貼られ、Y会社の従業員とA会社の従業員が区分されていたこと、③Y会社の製造依頼書をもとにA会社の常勤主任らが週間製造日程表を作成することで受発注を行い、製品製造後、A会社の従業員が製品及び伝票を作成していたこと、④Y会社の伊丹工場製造課等との日常的な連絡は、A会社の常勤主任らとの間でメールの送受信がされており、製造課等とA会社の従業員個人との間でメールの送受信がされることはなかったこと、⑤従業員の勤怠管理や勤務評定はA会社が行っていたことなどを根拠としており、やや形式にとらわれた判断をしている印象を受けます。一方、控訴審は実態を重視し、特に、④のメールのやりとりについては、組織において、業務に関する情報が職制を通じ、上長から伝達されることは通常のことであり、Y会社が、巾木工程及び化成品工程において、A会社の責任者である主任らとの間で情報をやり取りし、その配下のA会社の従業員とは直接やりとりをしていなかったからといって、Y会社がA会社の従業員に対し指示を行っていなかったことになるわけではない、と指摘しています。

業務請負契約を行う際は、契約書名は請負となっていても、実態が派遣であると判断されるおそれはないかについて、上記区分基準を参考に、実際の業務の流れをみて、具体的・詳細な業務の指示をどちらが行っていると言えるのか、また、機材や材料の調達の手順や、トラブルが生じた場合の責任体制、従業員に対する労務管理や研修等の実施状況について把握し上で、注文主側と請負人側との役割を再確認する必要があるでしょう。仮に実態が労働者派遣に該当するとなると、注文主と当該従業員との間で労働契約の成立という大きな効果が発生してしまう可能性がありますので、慎重な検討が必要です。

また、労働者派遣法40条の6第1項のうち偽装請負の場合には、偽装請負の実態だけでなく、偽装請負の目的という主観的要件が必要とされています。本件は、製造業における派遣が禁止されていた時期(平成16年改正以前)からY会社の指揮監督のもとA会社の従業員が労務提供していたという実態があったと認定されている点も大きいかと思うのですが、本判決では、日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を解消することなく続けていたことで偽装請負の目的を容易に推認されますので、その点も留意が必要です。

 

形式と実質が異なり、実質的な契約関係の法規制に対する潜脱ではないかと問題になるケースとしては、ほかに雇用と請負が挙げられます。この場合、仕事の諾否の自由の有無や、作業時間や作業時間などの拘束性の有無のほか、業務内容や遂行方法についての指揮監督の有無などが問題になり、本件同様、実態に応じた具体的な検討が必要となります。この点についてもまた機会を改めてお話ししたいと思います。

 

参考

令和2年(ネ)第973号 地位確認等請求控訴事件

令和3年11月4日 大阪高裁判決

* 事案を分かりやすくするため一部事実を簡略化しています。

  top