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令和4年6月7日
今回は、形式的には業務請負契約の形態をとっていたものの実態は労働者派遣であると認定され、労働者派遣法40条の6第1項に基づき、従業員と注文主(派遣先)との間の労働契約の成立が認められた事案です。第1審と控訴審とで判断が異なった事案であり、同条項により注文主(派遣先)と当該労働者との間の労働契約の成立が認められるというインパクトの強い裁判例です。業務請負契約の当事者にとっては留意しておくべき事案だと思われますので、ご紹介します。
本件は、上記の事実関係のもと、Xらが、Y会社との間に労働契約が存在することの確認と、それに基づく賃金の支払を求めた事案です。
なお、上記⑤の意味は次の通りです。
平成27年10月から施行されている労働者派遣法40条の6第1項では、派遣先が、同項1号から5号までの各号のいずれかに該当する行為を行った場合には、その時点において、派遣先から当該派遣労働者に対し、その時点における当該派遣労働者の労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなすと規定されています。そして、同項5号は、派遣法等の適用を免れる目的(以下、「偽装請負等の目的」といいます)で、請負等の名目で契約を締結し、労働者派遣の役務の提供を受けることとされています。
つまり、偽装請負等の目的がありつつ労働者派遣契約名下に派遣労働者を受け入れた場合、派遣先から当該派遣労働者に対して(上記でいうとY会社からXらに対して)雇用契約の申込があったとみなされるので、当該派遣労働者(Xら)が承諾した時点で、派遣先(Y会社)と当該派遣労働者(Xら)との間で雇用契約が成立してしまうということになるのです。
本件の主な争点は、①本件各請負契約について、偽装請負等の状態の有無、②偽装請負等の目的の有無です。
一審、控訴審いずれも、本件に偽装請負の実態があったか否か、すなわち実態が請負か派遣かを判断する基準として、厚生労働省が公表している「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準を定める告示」(昭和61年労働省告示第37号。平成24年厚生労働省告示第518号による改正後のもの)をその内容に合理性があるとして用いています。
そこで、まずはその基準をご紹介した上で、その基準に基づき本件控訴審がどのようなアテハメを行ったかをご紹介します。
労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準
形式が請負契約として自己の雇用する労働者を従事させているとしても、次の(1)と(2)両方に該当しない場合には労働者派遣事業を行う事業主とするとされています。言い換えれば、どちらか一方のみ該当する場合や、どちらにも該当しない場合には、偽装請負であるとの認定に傾くことになります。
但し、両方に該当する場合でも、それが法の規定に違反することを免れるため故意に偽装されたものであつて、その事業の真の目的が労働者派遣を業として行うことにあるときは、労働者派遣事業を行う事業主であることを免れることができない、とされています。
(1)次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより、自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること。
イ ①労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行い、かつ、②労働者の業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行うことにより、業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。
ロ ①労働者の始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理(これらの単なる把握を除く。)を自ら行い、かつ、②労働者の労働時間を延長する場合又は労働者を休日に労働させる場合における指示その他の管理(これらの場合における労働時間等の単なる把握を除く。)を自ら行うことにより、労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。
ハ 労働者の服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理を自ら行い、かつ、 労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うことにより、企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うものであること。
(2)次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより、請負契約により請け負った業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること。
イ 業務の処理に要する資金につき、すべて自らの責任の下に調達し、かつ、支弁すること。
ロ 業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負うこと。
ハ ①自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易な工具を除く。)又は材料若しくは資材により、業務を処理し、または、②自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理しており、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと。
本件でのアテハメ
(1)上記(1)の該当性
イについて
ロについて
ハについて
(2)上記(2)の該当性
以上のアテハメから控訴審は区分基準(1)(2)をいずれも満たさないとして偽装請負の実態があったと判断しました。
偽装請負等の目的が認められるかという点についても、本件では、日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を解消することなく続けていたことが認められるので、偽装請負等の目的があったものと推認できる、と判断しました。
以上から、労働者派遣法40条の6第1項に基づき、違法行為がされている日ごとに労働契約の申込をしたとみなされることになるので、巾木工程に従事していた従業員に対しては本件請負契約1が終了した平成29年2月28日まで、化成品工程に従事していた従業員に対しては本件請負契約2に基づき役務の提供を受けた同年3月30日まで毎労働日に労働契約の申込をしたとみなした上で、XらとA会社の労働契約の成立を認め、Xらの請求を認めました。
本件は改正により平成27年10月から施行されている労働者派遣法40条の6第1項を根拠に労働契約の成立を認めた最初の裁判例(少なくとも公開された裁判例の中では)であると思われます。
一審は控訴審とは異なる結論になっているのですが、一審が摘示した事実は、例えば、①巾木工程及び化成品工程に、A会社の現場責任者として、A会社の従業員が常勤主任や主任として配置されていたこと、②ヘルメットに緑色のテープが貼られ、Y会社の従業員とA会社の従業員が区分されていたこと、③Y会社の製造依頼書をもとにA会社の常勤主任らが週間製造日程表を作成することで受発注を行い、製品製造後、A会社の従業員が製品及び伝票を作成していたこと、④Y会社の伊丹工場製造課等との日常的な連絡は、A会社の常勤主任らとの間でメールの送受信がされており、製造課等とA会社の従業員個人との間でメールの送受信がされることはなかったこと、⑤従業員の勤怠管理や勤務評定はA会社が行っていたことなどを根拠としており、やや形式にとらわれた判断をしている印象を受けます。一方、控訴審は実態を重視し、特に、④のメールのやりとりについては、組織において、業務に関する情報が職制を通じ、上長から伝達されることは通常のことであり、Y会社が、巾木工程及び化成品工程において、A会社の責任者である主任らとの間で情報をやり取りし、その配下のA会社の従業員とは直接やりとりをしていなかったからといって、Y会社がA会社の従業員に対し指示を行っていなかったことになるわけではない、と指摘しています。
業務請負契約を行う際は、契約書名は請負となっていても、実態が派遣であると判断されるおそれはないかについて、上記区分基準を参考に、実際の業務の流れをみて、具体的・詳細な業務の指示をどちらが行っていると言えるのか、また、機材や材料の調達の手順や、トラブルが生じた場合の責任体制、従業員に対する労務管理や研修等の実施状況について把握し上で、注文主側と請負人側との役割を再確認する必要があるでしょう。仮に実態が労働者派遣に該当するとなると、注文主と当該従業員との間で労働契約の成立という大きな効果が発生してしまう可能性がありますので、慎重な検討が必要です。
また、労働者派遣法40条の6第1項のうち偽装請負の場合には、偽装請負の実態だけでなく、偽装請負の目的という主観的要件が必要とされています。本件は、製造業における派遣が禁止されていた時期(平成16年改正以前)からY会社の指揮監督のもとA会社の従業員が労務提供していたという実態があったと認定されている点も大きいかと思うのですが、本判決では、日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を解消することなく続けていたことで偽装請負の目的を容易に推認されますので、その点も留意が必要です。
形式と実質が異なり、実質的な契約関係の法規制に対する潜脱ではないかと問題になるケースとしては、ほかに雇用と請負が挙げられます。この場合、仕事の諾否の自由の有無や、作業時間や作業時間などの拘束性の有無のほか、業務内容や遂行方法についての指揮監督の有無などが問題になり、本件同様、実態に応じた具体的な検討が必要となります。この点についてもまた機会を改めてお話ししたいと思います。
令和2年(ネ)第973号 地位確認等請求控訴事件
令和3年11月4日 大阪高裁判決
* 事案を分かりやすくするため一部事実を簡略化しています。
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