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消費者問題

平成25年9月26日

8.企業のための消費者法 ―顧客との交渉段階での問題―

前回までは、勧誘段階の問題として広く広告規制について述べてきましたが、今回はお客さん(契約相手)との交渉段階における問題点について考えてみたいと思います。

消費者と事業者との間に広く適用される消費者契約法という法律の4条では、事業者による不実告知(1項1号)、断定的判断の提供(1項2号)、不利益事実の不告知(2項)、不退去(3項1号)、退去妨害(3項2号)によって、消費者の意思形成が歪められた場合に、契約の申込みや承諾の意思表示を取り消すことができるとされています。

 

民法において、意思形成が歪められた場合として契約の取消しが認められているのは、詐欺や脅迫の場合です(民法96条1項)。消費者契約法によれば、詐欺までには至らなくても、不実告知や断定的判断の提供、不利益事実の不告知によって、消費者が事実を誤認して契約した場合(誤認類型)、強迫までには至らなくても、不退去や退去妨害によって、消費者が困惑して契約した場合(困惑類型)に、消費者は契約の取消ができることとなっています。

 

詐欺や強迫においては、事業者が消費者に対して、「騙して契約させる意思」や「脅して無理に契約させる意思」まで必要ですが、消費者契約法4条にいう誤認・困惑による意思表示には、事業者がそこまでの悪意を持たなくても成立します。つまり、事業者間取引の場合よりも、消費者相手の交渉における事業者の行動は、より慎重であることを要し、契約の拘束力を弱める方向に働いているということです。

 

例えば、中古車販売において、修復歴のない中古車として価格設定され販売されたものが、後日、修復歴があったことが判明した場合において、販売業者が修復歴のないものとして仕入れをしており、修復歴のあることを知らずに販売したとしても、購入者である消費者は、消費者契約法4条1項1号によって、不実告知による取消をすることができます。

しかし、購入者が消費者ではなく、商品運送などの事業用にこの中古車を利用する目的で購入していた場合は、消費者契約法は適用されませんので、修復歴のあることを知らずに販売したのであれば、販売業者に騙す意思までは認められず、詐欺とは言えませんので、契約の取消までは認められません。この場合は、瑕疵担保責任(民法570条)により損害賠償のみが認められるにとどまります。

 

このように、同じ商品を売る場面であっても、売る相手が事業者か消費者かによって、法律関係は異なってくる場合があります。企業としては、このことを心得ておくべきでしょう。

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